男の妊娠。

ユンボイナ

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第五章 さらにその後の子どもたち

恋は盲目⑸

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 「なんだ、ベッドが一つしかないじゃないか。ツインにするのケチッたのか?」
三宮のホテルの部屋に着いたとき、E郎は言った。
「それともまさか。僕さ、悪いけどP太とそういうことは……」
P太はE郎の言葉を遮った。
「うん、しないよ。何もしないから、傍にいて欲しいの。」
E郎は疑いの目を向けてくる。
「本当に! 何か変なことしたら警察に突き出していい。」
「そこまで言うならいいけど、何かあったら本当に警察呼ぶからね。」
E郎は真顔だった。

二人は荷物を置くと、P太の提案で生田神社へ向かった。
「何なの、こんなところまで来て神社って。」
P太は言った。
「なんと創建は201年、日本書紀にも記述がある古い神社なんだ。しかもこの季節は桜が綺麗なんだって。」
本当のP太の目的は、生田神社の神様にE郎との恋愛成就をお願いするためである。生田神社は24世紀においても「縁結びの神様」として京阪神ではちょっと有名な存在だった。ホテルから歩いて十分ほどで到着した。
「本当だ、桜咲いてる。しかも八重桜だ。」
E郎は桜を眺めていた。P太はその手を引っ張る。
「お参りしてからにしようよ!」
「先に行っといでよ。僕、ちょっと境内をプラプラしてくる。」
 E郎の態度が少々つれないので、P太は先に本殿にお参りすることにした。
「どうかE郎くんがもっと僕のことを好きになってくれますように!」
P太は心の中で、生田神社の祭神である「稚日女尊」にお願いすると、社務所にいる巫女さんに「縁結びのお守りください!」と恥ずかしそうに言った。この時ばかりはE郎が一緒にいなくて良かったと思った。
 P太は初穂料を納め、お守りをポケットの中に入れると、E郎をしばらく歩き回って探した。E郎は本殿より奥にある稲荷神社の鳥居の前にいた。
「赤い鳥居がいくつも並んでるの、すごいな。」
「稲荷神社だからね。」
E郎は尋ねた。
「稲荷神社って何にご利益あるの?」
「うーん、僕もあんまり詳しくないけど、多分生活全般じゃない?」
P太の答えを聞いたE郎は「じゃあ、僕お参りしてくる!」と言った。
「全般的に良くなりたいんだよ。」
P太は鳥居をくぐるE郎の背中を見送った。

 その後は2人は南進しながら、適当に買い物をしたり、アイスクリームを食べたりした。気がつくとメリケンパークに着いていた。
「海が見える。桜も咲いてる! タワーもあるよ、上る?」
P太は言った。
「もう、高いところはさっきの市役所で十分だよ!」
ポートタワーは地上108メートル、昔から高さは変わっていない。さっきの555メートルに比べれば相当に低いはずなのだが。
「ま、ここでゆっくりするか。」
時刻はもう6時前で暗くなっていた。街がライトアップされる。光が浮かぶ。
「ほら、向こうがハーバーランドだよ。綺麗だね。」
「桜もライトアップされるんだな。」
いい雰囲気だ、と思ったので、P太はE郎の肩に頭を寄りかからせた。しかし。
「P太、眠いの?」
E郎はそう声を掛けた。
「ちがいますー。ご飯、どうする?」
P太が不貞腐れ気味に言った「ご飯」というワードに、E郎は反応した。
「肉! 神戸牛!!」

 その夜、二人は近くのステーキハウスで夕食をとってホテルに戻り、部屋でなんとなくテレビを見て、なんとなく寝た。もちろん何も起きなかった。悶々して寝られなかったのはP太だけで、E郎はよく寝られたようだ。
 二日目はP太は寝不足でよく覚えていないが、布引ハーブ園に行って、新神戸駅で解散、だったと思う。

それで、夏と秋はお互いの就職活動で会えなくて、やっとP太がE郎に会えたのがこの正月だったのだ。E郎は愛媛でハマチやマダイを養殖している会社の研究室に就職が決まっていた。一方、P太は就職がなかなか決まらず、早々に諦めて博士課程に進むことになった。
「久しぶりに会えたのに、二人きりになれないなんて。」
P太が自室のベッドに寝転んでモヤモヤしていると、E郎からアイーンでメッセージが来た。
「さっきはごめんね、ばあちゃんが寂しそうだったから。仕事が始まる前、三月は暇だからまた東京に帰ってくるよ。そのときにゆっくり遊ぼうな。」
沈んでいたP太の心は躍った。それと同時に、こんな連絡だけで大喜びする自分はチョロいな、とも思った。
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