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第五章 さらにその後の子どもたち
北の大地にて⑸
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「もう雪が降ってきた。」
10月下旬の朝、F実はT文のマンションの窓から外を見ていた。とりあえず、卵とベーコンを焼き、サラダを作って食卓に並べると、まだ寝ているT文を起こした。
「朝だよ!」
「俺、今日は授業は昼からなんだよ。」
「食べたらまた寝たらいいじゃない。」
夏にF実は沖縄に行って、T文の姉やそのパートナーに会ってきたが、想像していたより怖い人達ではなかったので安心した。北海道に戻る前に、アイーンで四人のグループを作って、以降みんなで時々近況報告をしている。
「モンスタークレーマー来店。大変だったよー!」
Y香がそうメッセージを送ってくると、F実は返信した。
「大変ですよね。うちのホテルもそのために我々が働いているようなものです。」
「フロントのない、自動チェックインのホテルも増えたけど、逆にそのほうがクレーマー発生しないんじゃない?」
X佳が質問した。
「そうかもしれませんが、うちはフロントにこだわっているので……っていうか、フロントなくなったら私の仕事もなくなります!」
F実が答えた。
「俺、絶対サービス業だけはやめようっと。」
T文がメッセージを送ると、Y香は答えた。
「そのほうがいいよ! 今後どんどん無人化されていくんだから。」
T文は目をこすりながら、パジャマを着たままでパンを口に詰め込んでいた。しかし、しばらくすると、「うっ!」と言ってトイレに駆け込んだ。
「T文くん、どうしたの?」
「具合は悪くないはずなのに、吐き気がするんだけどこれはまさか……。」
「嘘だ、だって避妊してたじゃない?」
T文は深刻な顔をして言った。
「実は、前にあのときに1回ゴムが外れてたときがあったんだよ。」
「えええ! 何で早く言わなかったの!!」
「まさか1回だけでこうなるとは思わなくてさ。とりあえず、ご飯食べ終わったら産婦人科行くわ。」
「うん、お願いね。」
T文は病院で検査してもらったが、結果は陰性だった。よく考えたら、昨日ゼミの飲み会で飲み過ぎただけだった。もしかしたら、出てきた刺身が腐っていたのかもしれないが。
「良かった、妊娠してないよ。病院の先生も大丈夫だって!」
安堵したT文はアイーンでF実に報告した。が、F実に直接メッセージを送ったつもりが、姉達も参加しているグループアイーンに投稿してしまっていたのだ。
たまたまその日はレストランの定休日で、X佳もY香も素早く反応した。
「T坊、仕込みに失敗したか! まあ良かった。」
これはY香のメッセージ。
「まだ就職も決まってない時期に……先が思いやられます。二人とも避妊だけは確実にお願いね。」
こちらはX佳のメッセージ。
T文はしばらくして、この二人のメッセージを見て、送信先を誤ったことに気づき、慌ててメッセージを削除した。しかし、後の祭りである。
Y香からは、三社祭の様子を映した3D動画が送信されてきたし、X佳からは「記録は消せても記憶は消せないのよ。」というメッセージがあった。
F実が夜遅くに仕事が終わってアイーンを見てみると、X佳・Y香・T文・F実のグループアイーンに、T文が何らかのメッセージを送ったがそれが取り消され、その後しばらくY香が、三社祭やら阿波踊りやら岸和田のだんじりやら、おわら風の盆やらよさこい祭りやら、とにかく日本各地の祭りの3D動画をたくさん送信していた。F実はスマートフォンをマナーモードにするのを忘れていたため、職場の控室に「ソイヤ!ソイヤ!」という掛け声が流れ、慌ててマナーモードにした。
「どうしたんですか? お祭り動画ばかりでわけが分かりません。」
F実はメッセージを送信した。Y香から返事があった。
「T文が誤爆祭りを起こしたのよ。家に帰ったら本人から聞いてごらん?」
F実が急いで帰宅すると、T文が、「妊娠はしてなかったよ。」と言った。
「じゃあ、あのグループアイーンのお祭り動画は何?」
「F実にアイーンで知らせようと思ったら、間違えてグループアイーンに投稿しちゃった。それをY香姉ちゃんが面白がって。」
F実は胸をなでおろした。
「あーびっくりした。あの大量のお祭り動画、『妊娠おめでとう』って意味かと思ったのよ。」
「Y香姉ちゃん、たまによく分からないはじけ方するから……。」
窓の外では、雪がうっすら積もっていた。
「今日は大変お騒がせいたしました。」
F実はグループアイーンにそうメッセージを送信すると、外の様子を撮影して、その画像を投稿した。
10月下旬の朝、F実はT文のマンションの窓から外を見ていた。とりあえず、卵とベーコンを焼き、サラダを作って食卓に並べると、まだ寝ているT文を起こした。
「朝だよ!」
「俺、今日は授業は昼からなんだよ。」
「食べたらまた寝たらいいじゃない。」
夏にF実は沖縄に行って、T文の姉やそのパートナーに会ってきたが、想像していたより怖い人達ではなかったので安心した。北海道に戻る前に、アイーンで四人のグループを作って、以降みんなで時々近況報告をしている。
「モンスタークレーマー来店。大変だったよー!」
Y香がそうメッセージを送ってくると、F実は返信した。
「大変ですよね。うちのホテルもそのために我々が働いているようなものです。」
「フロントのない、自動チェックインのホテルも増えたけど、逆にそのほうがクレーマー発生しないんじゃない?」
X佳が質問した。
「そうかもしれませんが、うちはフロントにこだわっているので……っていうか、フロントなくなったら私の仕事もなくなります!」
F実が答えた。
「俺、絶対サービス業だけはやめようっと。」
T文がメッセージを送ると、Y香は答えた。
「そのほうがいいよ! 今後どんどん無人化されていくんだから。」
T文は目をこすりながら、パジャマを着たままでパンを口に詰め込んでいた。しかし、しばらくすると、「うっ!」と言ってトイレに駆け込んだ。
「T文くん、どうしたの?」
「具合は悪くないはずなのに、吐き気がするんだけどこれはまさか……。」
「嘘だ、だって避妊してたじゃない?」
T文は深刻な顔をして言った。
「実は、前にあのときに1回ゴムが外れてたときがあったんだよ。」
「えええ! 何で早く言わなかったの!!」
「まさか1回だけでこうなるとは思わなくてさ。とりあえず、ご飯食べ終わったら産婦人科行くわ。」
「うん、お願いね。」
T文は病院で検査してもらったが、結果は陰性だった。よく考えたら、昨日ゼミの飲み会で飲み過ぎただけだった。もしかしたら、出てきた刺身が腐っていたのかもしれないが。
「良かった、妊娠してないよ。病院の先生も大丈夫だって!」
安堵したT文はアイーンでF実に報告した。が、F実に直接メッセージを送ったつもりが、姉達も参加しているグループアイーンに投稿してしまっていたのだ。
たまたまその日はレストランの定休日で、X佳もY香も素早く反応した。
「T坊、仕込みに失敗したか! まあ良かった。」
これはY香のメッセージ。
「まだ就職も決まってない時期に……先が思いやられます。二人とも避妊だけは確実にお願いね。」
こちらはX佳のメッセージ。
T文はしばらくして、この二人のメッセージを見て、送信先を誤ったことに気づき、慌ててメッセージを削除した。しかし、後の祭りである。
Y香からは、三社祭の様子を映した3D動画が送信されてきたし、X佳からは「記録は消せても記憶は消せないのよ。」というメッセージがあった。
F実が夜遅くに仕事が終わってアイーンを見てみると、X佳・Y香・T文・F実のグループアイーンに、T文が何らかのメッセージを送ったがそれが取り消され、その後しばらくY香が、三社祭やら阿波踊りやら岸和田のだんじりやら、おわら風の盆やらよさこい祭りやら、とにかく日本各地の祭りの3D動画をたくさん送信していた。F実はスマートフォンをマナーモードにするのを忘れていたため、職場の控室に「ソイヤ!ソイヤ!」という掛け声が流れ、慌ててマナーモードにした。
「どうしたんですか? お祭り動画ばかりでわけが分かりません。」
F実はメッセージを送信した。Y香から返事があった。
「T文が誤爆祭りを起こしたのよ。家に帰ったら本人から聞いてごらん?」
F実が急いで帰宅すると、T文が、「妊娠はしてなかったよ。」と言った。
「じゃあ、あのグループアイーンのお祭り動画は何?」
「F実にアイーンで知らせようと思ったら、間違えてグループアイーンに投稿しちゃった。それをY香姉ちゃんが面白がって。」
F実は胸をなでおろした。
「あーびっくりした。あの大量のお祭り動画、『妊娠おめでとう』って意味かと思ったのよ。」
「Y香姉ちゃん、たまによく分からないはじけ方するから……。」
窓の外では、雪がうっすら積もっていた。
「今日は大変お騒がせいたしました。」
F実はグループアイーンにそうメッセージを送信すると、外の様子を撮影して、その画像を投稿した。
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