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第四章 生まれた子どもたちの行方~その二
両親の離婚⑶
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その日の夜10時過ぎ、E郎が風呂から上がって自室でゴロゴロしていると、B子からテレビ電話がかかってきた。
「E郎、今日ちゃんと学校行った?」
「行ったよ。ママ、どうしたの?」
「いや、やっぱり家に帰ったら誰もいないの寂しいなあと思って。」
B子の顔は笑っているが、何となく元気がなかった。
「ママ、こうやって会えるんだから元気出してよ。この時間ならパパもいないし、ばあちゃんも上がってこないから電話してきていいし。」
B子の顔が少し険しくなった。
「パパ、また帰りが遅いの?」
「最近はずっと11時過ぎてる。僕が寝ようとすると足音が聞こえてくるんだ。じいちゃんばあちゃんには、仕事だって言ってるけど。」
「もう! 何か嫌なことがあったら私に電話してね。」
怒り顔のB子に、E郎が言った。
「話変わるんだけど、これ、パパに内緒の相談なんだけど。」
「え、何?」
「もし僕が、例えば九州の大学に行くって言ったら応援してくれる?」
画面の中のB子は顎に手を当てて考えている。
「九州なら一人暮らししたいってことよね。」
「そうそう。」
「私はE郎の一人暮らしには賛成なんだ。将来結婚したときに、家事は一通りできないといけないもんね。ただ費用がなあ。学費の安い国公立なら何とかしてあげる。」
E郎は目を輝かせた。
「もし、パパやばあちゃんが反対しても助けてくれる?」
「何、E郎、今からそんな先の話をして反対されてんの?」
B子はカメラに顔を近づけたようで、顔がどアップになった。
「違う、まだ話してないよ。だけど、何となくあの二人、反対しそうじゃん?」
「あー、確かにね。大丈夫、18歳になったら法律上は成人だし、あとは誰がE郎に学費を出すかって話だから、仮にパパとばあちゃんが反対したところで、私がお金を出せばいいだけの話でしょ?」
B子は話に熱中してさらにカメラに近づいているようで、画面には鼻だけが映っている。
「ママ近すぎ!」
「本当だ、ごめんなさい。」
B子はカメラから顔を離した。
「とにかく、私立の医学部なんかは絶対無理だけど、国公立なら何とかしてあげるから頑張りなさい!」
「ありがとう、ママ。また電話するね。」
「はーい。」
電話は切れた。これでもし、A雄や祖母が一人暮らしを反対しても、B子を頼れば何とかなりそうという安心材料ができたE郎は、消灯して眠りについた。
*****
「E郎、E郎に弟か妹ができそうなんだ。」
A雄からそう聞かされたのは、高校一年の四月半ばだった。E郎は白けた目でA雄を見ていた。
「何だよ、もっと喜んでくれよ!」
「パパ、ごめん、今更言われてもふーんって感じ。相手はZ世さんなんでしょ?」
祖母がA雄とZ世の結婚にずっと反対していて、それを強行突破するために二人は子どもを作ったのだ。そんなことはE郎にだって、祖母の愚痴を聞いていれば分かる。夕方祖母は、「またデキ婚みたいよ」と嘆いていた。「また」の意味も分かっている。
「ゴールデンウィークには入籍するから、それ以降はZ世が新しいママだからな。」
A雄の宣言に、E郎は反発した。
「やなこったい、そんなことは断固拒否する!」
「なんだって?!」
「パパ知らないの? 15歳になったら自分の意思で養子縁組するかどうか決められるんだ。僕はZ世さんの養子になんかならないからね!」
A雄は自分の再婚と子どもの誕生を祝わないE郎に怒っていた。
「E郎はパパがお腹を痛めて産んだんだぞ?!」
「知ってるよ。だけど、僕はパパとは別人格だもん。無理ったら無理!」
E郎は断固拒否の姿勢を見せた。
「お前、一緒にパパや新しいママと住まないのか?」
「やだね、ここに残ってばあちゃんと一緒に住む!」
このセリフを聞いた祖母は嬉し泣きした。
「E郎、昔はいい子だったのに、そんなこと言うなんて、パパ知らないからな!」
夜10時過ぎ、E郎は自室でB子に電話した。
「もしもし、ママ、パパがZ世さんとゴールデンウィークに再婚するって。Z世さん、妊娠したみたい。」
「予想通りの展開ね。むしろちょっと遅いくらい。」
B子の顔は呆れていた。
「で、E郎はどうするつもり?」
「それの相談のために電話したんだよ。僕、Z世さんの養子になる気はないし、一緒に住む気もないから、しばらくここにいようと思うんだけど。」
「うん。」
「しばらくしたらママのところに戻っていい?」
B子は涙を流していた。
「当たり前じゃん、いつでも帰ってきなよ!」
「高校卒業したら九州の大学に行きたいんだけど、それでもいい?」
「いい、いい、寂しいけど全然いい!」
またB子はカメラに顔を近づけたらしく、今度は口だけが画面に映っていた。
「ママ、近い!」
「あは、ごめんね。」
画面は正常に戻った。
「問題はここを出るタイミングなんだよね。ばあちゃん、仕事してないからいつも家にいて、黙って出てくるの難しいんだ。でも、受験勉強のこともあるから、高二のうちには出たいな。」
B子は顎に手を当てて考えた。
「多分だけど、パパのことだから、新しく家庭を持ったら実家にはお金を入れなくなると思うんだよね。そんなに給料良くないはずだし。」
「そうなの?」
B子は頷いた。
「E郎は知らないだろうけど、私が高校の学費払ってるからね。その上にいくらかパパに養育費払ってる。離婚のときに話し合って決めたんだけど、そのときの給料からあまり上がってないなら、新しく家庭を持った上に実家にお金入れるとか無理だから。」
「へー。」
「それでね、パパの実家もそこまでお金持ってる訳じゃないのよ。ばあちゃんは今働いてないでしょ? そしたらなおのこと。」
「ということは……。」
「むしろ、ばあちゃんも、『出て行ってくれてありがとう』ってなると思うよ。」
E郎は酷いと思ったが、E郎だって祖母を騙しながら生活してきたのだ。仕方ない。
5月1日、A雄とZ世は、挙式せずに入籍のみ行った。両家親族ともこの結婚には反対しているようであり、式を挙げられなかったのだ。もちろんZ世が妊娠中のため新婚旅行にも出掛けない。ただ、A雄の荷物の引越しのみを行った。
「E郎、本当に来ないのか?」
トラックに自分の荷物を積み込んだA雄が、E郎の部屋に来て尋ねた。
「行かないったら行かないんだって。しつこいなあ。」
A雄は横にいるZ世に、「絶賛反抗期中なんだ、ごめん」などと言い訳している。
「E郎くん、気が変わったらいつでも来てね。」
Z世の言葉に、E郎は言った。
「黙れ、ブス!」
「何だと?」
A雄の怒りが爆発した。怒りに任せて秘密を暴露してしまった。
「お前は俺の子ではあるけど、本当はママの子じゃないんだからな?」
「はあ?」
「ママとは血が繋がってないんだ。パパから30万をだまし取ってバックレた女の子どもなんだぞ?」
「そんなこと聞いてねーし。」
「自分も言ってねーし。」
A雄はドヤ顔をした。
「そんな奴の子どもを育ててやったのに、感謝しないんなら、こっちから捨ててやる。じゃあな。」
A雄はZ世の腕を引っ張って部屋を出て行った。しかし、「ママとは血が繋がってない」とは……早速E郎はB子に電話した。
「E郎、今日ちゃんと学校行った?」
「行ったよ。ママ、どうしたの?」
「いや、やっぱり家に帰ったら誰もいないの寂しいなあと思って。」
B子の顔は笑っているが、何となく元気がなかった。
「ママ、こうやって会えるんだから元気出してよ。この時間ならパパもいないし、ばあちゃんも上がってこないから電話してきていいし。」
B子の顔が少し険しくなった。
「パパ、また帰りが遅いの?」
「最近はずっと11時過ぎてる。僕が寝ようとすると足音が聞こえてくるんだ。じいちゃんばあちゃんには、仕事だって言ってるけど。」
「もう! 何か嫌なことがあったら私に電話してね。」
怒り顔のB子に、E郎が言った。
「話変わるんだけど、これ、パパに内緒の相談なんだけど。」
「え、何?」
「もし僕が、例えば九州の大学に行くって言ったら応援してくれる?」
画面の中のB子は顎に手を当てて考えている。
「九州なら一人暮らししたいってことよね。」
「そうそう。」
「私はE郎の一人暮らしには賛成なんだ。将来結婚したときに、家事は一通りできないといけないもんね。ただ費用がなあ。学費の安い国公立なら何とかしてあげる。」
E郎は目を輝かせた。
「もし、パパやばあちゃんが反対しても助けてくれる?」
「何、E郎、今からそんな先の話をして反対されてんの?」
B子はカメラに顔を近づけたようで、顔がどアップになった。
「違う、まだ話してないよ。だけど、何となくあの二人、反対しそうじゃん?」
「あー、確かにね。大丈夫、18歳になったら法律上は成人だし、あとは誰がE郎に学費を出すかって話だから、仮にパパとばあちゃんが反対したところで、私がお金を出せばいいだけの話でしょ?」
B子は話に熱中してさらにカメラに近づいているようで、画面には鼻だけが映っている。
「ママ近すぎ!」
「本当だ、ごめんなさい。」
B子はカメラから顔を離した。
「とにかく、私立の医学部なんかは絶対無理だけど、国公立なら何とかしてあげるから頑張りなさい!」
「ありがとう、ママ。また電話するね。」
「はーい。」
電話は切れた。これでもし、A雄や祖母が一人暮らしを反対しても、B子を頼れば何とかなりそうという安心材料ができたE郎は、消灯して眠りについた。
*****
「E郎、E郎に弟か妹ができそうなんだ。」
A雄からそう聞かされたのは、高校一年の四月半ばだった。E郎は白けた目でA雄を見ていた。
「何だよ、もっと喜んでくれよ!」
「パパ、ごめん、今更言われてもふーんって感じ。相手はZ世さんなんでしょ?」
祖母がA雄とZ世の結婚にずっと反対していて、それを強行突破するために二人は子どもを作ったのだ。そんなことはE郎にだって、祖母の愚痴を聞いていれば分かる。夕方祖母は、「またデキ婚みたいよ」と嘆いていた。「また」の意味も分かっている。
「ゴールデンウィークには入籍するから、それ以降はZ世が新しいママだからな。」
A雄の宣言に、E郎は反発した。
「やなこったい、そんなことは断固拒否する!」
「なんだって?!」
「パパ知らないの? 15歳になったら自分の意思で養子縁組するかどうか決められるんだ。僕はZ世さんの養子になんかならないからね!」
A雄は自分の再婚と子どもの誕生を祝わないE郎に怒っていた。
「E郎はパパがお腹を痛めて産んだんだぞ?!」
「知ってるよ。だけど、僕はパパとは別人格だもん。無理ったら無理!」
E郎は断固拒否の姿勢を見せた。
「お前、一緒にパパや新しいママと住まないのか?」
「やだね、ここに残ってばあちゃんと一緒に住む!」
このセリフを聞いた祖母は嬉し泣きした。
「E郎、昔はいい子だったのに、そんなこと言うなんて、パパ知らないからな!」
夜10時過ぎ、E郎は自室でB子に電話した。
「もしもし、ママ、パパがZ世さんとゴールデンウィークに再婚するって。Z世さん、妊娠したみたい。」
「予想通りの展開ね。むしろちょっと遅いくらい。」
B子の顔は呆れていた。
「で、E郎はどうするつもり?」
「それの相談のために電話したんだよ。僕、Z世さんの養子になる気はないし、一緒に住む気もないから、しばらくここにいようと思うんだけど。」
「うん。」
「しばらくしたらママのところに戻っていい?」
B子は涙を流していた。
「当たり前じゃん、いつでも帰ってきなよ!」
「高校卒業したら九州の大学に行きたいんだけど、それでもいい?」
「いい、いい、寂しいけど全然いい!」
またB子はカメラに顔を近づけたらしく、今度は口だけが画面に映っていた。
「ママ、近い!」
「あは、ごめんね。」
画面は正常に戻った。
「問題はここを出るタイミングなんだよね。ばあちゃん、仕事してないからいつも家にいて、黙って出てくるの難しいんだ。でも、受験勉強のこともあるから、高二のうちには出たいな。」
B子は顎に手を当てて考えた。
「多分だけど、パパのことだから、新しく家庭を持ったら実家にはお金を入れなくなると思うんだよね。そんなに給料良くないはずだし。」
「そうなの?」
B子は頷いた。
「E郎は知らないだろうけど、私が高校の学費払ってるからね。その上にいくらかパパに養育費払ってる。離婚のときに話し合って決めたんだけど、そのときの給料からあまり上がってないなら、新しく家庭を持った上に実家にお金入れるとか無理だから。」
「へー。」
「それでね、パパの実家もそこまでお金持ってる訳じゃないのよ。ばあちゃんは今働いてないでしょ? そしたらなおのこと。」
「ということは……。」
「むしろ、ばあちゃんも、『出て行ってくれてありがとう』ってなると思うよ。」
E郎は酷いと思ったが、E郎だって祖母を騙しながら生活してきたのだ。仕方ない。
5月1日、A雄とZ世は、挙式せずに入籍のみ行った。両家親族ともこの結婚には反対しているようであり、式を挙げられなかったのだ。もちろんZ世が妊娠中のため新婚旅行にも出掛けない。ただ、A雄の荷物の引越しのみを行った。
「E郎、本当に来ないのか?」
トラックに自分の荷物を積み込んだA雄が、E郎の部屋に来て尋ねた。
「行かないったら行かないんだって。しつこいなあ。」
A雄は横にいるZ世に、「絶賛反抗期中なんだ、ごめん」などと言い訳している。
「E郎くん、気が変わったらいつでも来てね。」
Z世の言葉に、E郎は言った。
「黙れ、ブス!」
「何だと?」
A雄の怒りが爆発した。怒りに任せて秘密を暴露してしまった。
「お前は俺の子ではあるけど、本当はママの子じゃないんだからな?」
「はあ?」
「ママとは血が繋がってないんだ。パパから30万をだまし取ってバックレた女の子どもなんだぞ?」
「そんなこと聞いてねーし。」
「自分も言ってねーし。」
A雄はドヤ顔をした。
「そんな奴の子どもを育ててやったのに、感謝しないんなら、こっちから捨ててやる。じゃあな。」
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