男の妊娠。

ユンボイナ

文字の大きさ
上 下
27 / 47
第四章 生まれた子どもたちの行方~その二

両親の離婚⑶

しおりを挟む
 その日の夜10時過ぎ、E郎が風呂から上がって自室でゴロゴロしていると、B子からテレビ電話がかかってきた。
「E郎、今日ちゃんと学校行った?」
「行ったよ。ママ、どうしたの?」
「いや、やっぱり家に帰ったら誰もいないの寂しいなあと思って。」
B子の顔は笑っているが、何となく元気がなかった。
「ママ、こうやって会えるんだから元気出してよ。この時間ならパパもいないし、ばあちゃんも上がってこないから電話してきていいし。」
B子の顔が少し険しくなった。
「パパ、また帰りが遅いの?」
「最近はずっと11時過ぎてる。僕が寝ようとすると足音が聞こえてくるんだ。じいちゃんばあちゃんには、仕事だって言ってるけど。」
「もう! 何か嫌なことがあったら私に電話してね。」
怒り顔のB子に、E郎が言った。
「話変わるんだけど、これ、パパに内緒の相談なんだけど。」
「え、何?」
「もし僕が、例えば九州の大学に行くって言ったら応援してくれる?」
画面の中のB子は顎に手を当てて考えている。
「九州なら一人暮らししたいってことよね。」
「そうそう。」
「私はE郎の一人暮らしには賛成なんだ。将来結婚したときに、家事は一通りできないといけないもんね。ただ費用がなあ。学費の安い国公立なら何とかしてあげる。」
E郎は目を輝かせた。
「もし、パパやばあちゃんが反対しても助けてくれる?」
「何、E郎、今からそんな先の話をして反対されてんの?」
B子はカメラに顔を近づけたようで、顔がどアップになった。
「違う、まだ話してないよ。だけど、何となくあの二人、反対しそうじゃん?」
「あー、確かにね。大丈夫、18歳になったら法律上は成人だし、あとは誰がE郎に学費を出すかって話だから、仮にパパとばあちゃんが反対したところで、私がお金を出せばいいだけの話でしょ?」
B子は話に熱中してさらにカメラに近づいているようで、画面には鼻だけが映っている。
「ママ近すぎ!」
「本当だ、ごめんなさい。」
B子はカメラから顔を離した。
「とにかく、私立の医学部なんかは絶対無理だけど、国公立なら何とかしてあげるから頑張りなさい!」
「ありがとう、ママ。また電話するね。」
「はーい。」
 電話は切れた。これでもし、A雄や祖母が一人暮らしを反対しても、B子を頼れば何とかなりそうという安心材料ができたE郎は、消灯して眠りについた。

*****

 「E郎、E郎に弟か妹ができそうなんだ。」
A雄からそう聞かされたのは、高校一年の四月半ばだった。E郎は白けた目でA雄を見ていた。
「何だよ、もっと喜んでくれよ!」
「パパ、ごめん、今更言われてもふーんって感じ。相手はZ世さんなんでしょ?」
 祖母がA雄とZ世の結婚にずっと反対していて、それを強行突破するために二人は子どもを作ったのだ。そんなことはE郎にだって、祖母の愚痴を聞いていれば分かる。夕方祖母は、「またデキ婚みたいよ」と嘆いていた。「また」の意味も分かっている。
「ゴールデンウィークには入籍するから、それ以降はZ世が新しいママだからな。」
A雄の宣言に、E郎は反発した。
「やなこったい、そんなことは断固拒否する!」
「なんだって?!」
「パパ知らないの? 15歳になったら自分の意思で養子縁組するかどうか決められるんだ。僕はZ世さんの養子になんかならないからね!」
A雄は自分の再婚と子どもの誕生を祝わないE郎に怒っていた。
「E郎はパパがお腹を痛めて産んだんだぞ?!」
「知ってるよ。だけど、僕はパパとは別人格だもん。無理ったら無理!」
E郎は断固拒否の姿勢を見せた。
「お前、一緒にパパや新しいママと住まないのか?」
「やだね、ここに残ってばあちゃんと一緒に住む!」
このセリフを聞いた祖母は嬉し泣きした。
「E郎、昔はいい子だったのに、そんなこと言うなんて、パパ知らないからな!」

 夜10時過ぎ、E郎は自室でB子に電話した。
「もしもし、ママ、パパがZ世さんとゴールデンウィークに再婚するって。Z世さん、妊娠したみたい。」
「予想通りの展開ね。むしろちょっと遅いくらい。」
B子の顔は呆れていた。
「で、E郎はどうするつもり?」
「それの相談のために電話したんだよ。僕、Z世さんの養子になる気はないし、一緒に住む気もないから、しばらくここにいようと思うんだけど。」
「うん。」
「しばらくしたらママのところに戻っていい?」
B子は涙を流していた。
「当たり前じゃん、いつでも帰ってきなよ!」
「高校卒業したら九州の大学に行きたいんだけど、それでもいい?」
「いい、いい、寂しいけど全然いい!」
またB子はカメラに顔を近づけたらしく、今度は口だけが画面に映っていた。
「ママ、近い!」
「あは、ごめんね。」
画面は正常に戻った。
「問題はここを出るタイミングなんだよね。ばあちゃん、仕事してないからいつも家にいて、黙って出てくるの難しいんだ。でも、受験勉強のこともあるから、高二のうちには出たいな。」
B子は顎に手を当てて考えた。
「多分だけど、パパのことだから、新しく家庭を持ったら実家にはお金を入れなくなると思うんだよね。そんなに給料良くないはずだし。」
「そうなの?」
B子は頷いた。
「E郎は知らないだろうけど、私が高校の学費払ってるからね。その上にいくらかパパに養育費払ってる。離婚のときに話し合って決めたんだけど、そのときの給料からあまり上がってないなら、新しく家庭を持った上に実家にお金入れるとか無理だから。」
「へー。」
「それでね、パパの実家もそこまでお金持ってる訳じゃないのよ。ばあちゃんは今働いてないでしょ? そしたらなおのこと。」
「ということは……。」
「むしろ、ばあちゃんも、『出て行ってくれてありがとう』ってなると思うよ。」
E郎は酷いと思ったが、E郎だって祖母を騙しながら生活してきたのだ。仕方ない。

 5月1日、A雄とZ世は、挙式せずに入籍のみ行った。両家親族ともこの結婚には反対しているようであり、式を挙げられなかったのだ。もちろんZ世が妊娠中のため新婚旅行にも出掛けない。ただ、A雄の荷物の引越しのみを行った。
「E郎、本当に来ないのか?」
トラックに自分の荷物を積み込んだA雄が、E郎の部屋に来て尋ねた。
「行かないったら行かないんだって。しつこいなあ。」
A雄は横にいるZ世に、「絶賛反抗期中なんだ、ごめん」などと言い訳している。
「E郎くん、気が変わったらいつでも来てね。」
Z世の言葉に、E郎は言った。
「黙れ、ブス!」
「何だと?」
A雄の怒りが爆発した。怒りに任せて秘密を暴露してしまった。
「お前は俺の子ではあるけど、本当はママの子じゃないんだからな?」
「はあ?」
「ママとは血が繋がってないんだ。パパから30万をだまし取ってバックレた女の子どもなんだぞ?」
「そんなこと聞いてねーし。」
「自分も言ってねーし。」
A雄はドヤ顔をした。
「そんな奴の子どもを育ててやったのに、感謝しないんなら、こっちから捨ててやる。じゃあな。」
A雄はZ世の腕を引っ張って部屋を出て行った。しかし、「ママとは血が繋がってない」とは……早速E郎はB子に電話した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...