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第一章 A・B・C・D
B子とC子、ご対面
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妊娠中も出産後も、D夫は全く育児以外の家事をしなかった。D夫の会社は比較的大きな会社で、産休や育休の制度はしっかりしていたし、手当も支払われてはいた。しかし、やはり通常通りの給料が支払われるわけではないので、生活費が足りず、C子は家事とアルバイトに明け暮れる日々を過ごしていた。
ある日、D夫がとんでもないことを言った。
「僕、子育てがすごく楽しくて、パパ業が天職なんじゃないかと思うくらいなんだ。それで、僕が会社を辞めて専業主夫になろうかと思うんだけど、どうかな?」
当然C子は反対した。
「ちょっと待ってよ! お金はどうするの?」
「結婚してここ半年くらいC子のことを見ていたけど、働いているC子は輝いてるよ。だから、C子が外に働きに行ってお給料を稼いできたらいい。」
当たり前のようにD夫が言うので、一層C子は反発した。
「私、休学中なんだけど、大学は辞めろというの?」
「仕方ないよね。二人で話し合って結婚して子どもを産むことにしたんだから。今の時代、大学なんて年をとってから行くの、珍しくないよ。」
せっかく受験勉強をして入った大学だったので、C子としてはせめて卒業はしたかった。実家の親にも「卒業だけはしなさい。」と言われている。C子は言った。
「学費を出してくれた親にも説明ができないよ。」
急にD夫は険しい顔をした。
「そもそも君の両親はあまりにも頭が固すぎるんだよ。男が外で働いて、女が家の中のことをするべきだなんて、何世紀前の話なんだ、って。男も妊娠する時代、専業主夫なんか珍しくないじゃないか!」
たしかに、ニュースでは専業主夫の話がよく取り上げられている。しかし、よく聞いてみると、その多くは夫婦いずれかの実家が資産家であったり、妻がバリバリのキャリアウーマンだったりするのである。C子たちの場合はいずれでもない。むしろ、大手企業に勤めるD夫が主に働き、せめてC子は残り二年ある大学を卒業すべきなのではないか。
「私が卒業するまで、せめて後二年、働いてくれないの?」
D夫は憤然として言った。
「後二年っていうけど、僕が働いて、君が大学に行っている間、この子は誰が世話をするの? まさか保育園に預けろとか言うんじゃないよね。」
「そうするしかないでしょう?」
C子の回答にD夫は笑った。
「あのね、僕はC子が外で働いている間、色んな育児書を読んでたくさん勉強したんだ。子どもは3歳までは親の愛情をたっぷり注がないといけない。そうしないと後で心の弱い子に育ってしまう。だから、僕は少なくともこの子が3歳になるまでは働きに出ないからね。」
D夫のドヤ顔を見て、C子は後悔した。どうしてあのとき、責任をとって結婚するなどとD夫に言ってしまったのだろう。どうしてあのとき、A雄の子をおろしてA雄と音信不通にしてしまったのだろう。A雄ならこんなことは言わないはずだ。
C子はアルバイト先の昼休み、A雄のメールアドレスを探すべく携帯電話のメールフォルダを見ていた。C子は、D夫に親兄弟以外の連絡先を全て消されてしまったが、一部のメールについては消し忘れたのか残ったままになっていた。
その中で、一つだけA雄からのメールを発見した。
「C子さん
実は、僕はC子さんの子どもを妊娠したようです。病院で調べてもらって、それは確実になりました。もし、C子さんが浮気をしていて他の男の子どもを妊娠していたのならば、そのことは僕は許すつもりです。だから、僕と結婚しませんか? とにかく一度話がしたいです。返事ください。
A雄」
C子は青ざめた。どうして今までこのメールに気が付かなかったのだろう。もっとも、これは一年くらい前のメールだ。当時このメールをC子が見たとしても無視していただろう。しかし、今となっては違う。C子はA雄にメールを送ることにした。
「A雄さん
もう遅いかもしれないけど、お互いに今の状況をお話できませんか? 連絡待ってます。
C子」
3日後の夜、A雄から簡単な返信があった。
「明日午後七時に駅前の喫茶店で待っています。」
その日、C子はバイトで遅くなるとD夫に告げ、約束の時間に駅前の喫茶店に赴いた。しかし、そこには、A雄だけではなく、見知らぬ女と赤ちゃんがいた。
「初めまして、B子です。あなたがC子さんですか?」
C子はよく分からないまま、挨拶をした。
「はい、C子です、初めまして。」
「そしてこの子が私たちの子ども、E郎。」
B子が紹介したE郎はC子の顔を見ると泣きだしてしまった。
「あらあら、困った子でちゅねー。こんなときに泣くなんて。」
B子はE郎をあやしている。C子は切り出した。
「あの、その子が私の子どもだというのは本当ですか?」
今度はA雄が話し始めた。
「あのね、僕、当時付き合ってたのは、君とこのB子だけなんだ。で、妊娠中のDNA鑑定でE郎とB子の母子関係は否定された。そうしたら、E郎の生物学上の母親は君しかいない。」
C子は再度E郎を見た。確かに目元が自分に似ている。
「でも、そこをグッとのんで結婚して、E郎を一緒に育てていこうって言ってくれたのがB子なんだ。」
B子は言った。
「だから、私はこの子を自分の子として育てていく。あなたには何も請求しない代わりに、金輪際A雄やE郎に会ったり連絡したりしてほしくないの。分かるわね?」
C子は焦った。
「待ってください、あなたたちが私に何を請求できるって言うんですか!」
「もし、この子が本当にあなたの子なら、A雄はあなたに対して、額はともかく養育費を請求できるわよね。でも、E郎はあなたの子じゃなく、私の子として育てるんだから、あなたに養育費は請求しない。そういうこと。」
「はあ。」
C子は頷いた。
「さあ、他にあなた、私たちに言いたいことはある?」
B子はC子に発言を促した。C子はしばらく俯いて考え込んでいたが、意を決したようにA郎の方を向いて話し始めた。
ある日、D夫がとんでもないことを言った。
「僕、子育てがすごく楽しくて、パパ業が天職なんじゃないかと思うくらいなんだ。それで、僕が会社を辞めて専業主夫になろうかと思うんだけど、どうかな?」
当然C子は反対した。
「ちょっと待ってよ! お金はどうするの?」
「結婚してここ半年くらいC子のことを見ていたけど、働いているC子は輝いてるよ。だから、C子が外に働きに行ってお給料を稼いできたらいい。」
当たり前のようにD夫が言うので、一層C子は反発した。
「私、休学中なんだけど、大学は辞めろというの?」
「仕方ないよね。二人で話し合って結婚して子どもを産むことにしたんだから。今の時代、大学なんて年をとってから行くの、珍しくないよ。」
せっかく受験勉強をして入った大学だったので、C子としてはせめて卒業はしたかった。実家の親にも「卒業だけはしなさい。」と言われている。C子は言った。
「学費を出してくれた親にも説明ができないよ。」
急にD夫は険しい顔をした。
「そもそも君の両親はあまりにも頭が固すぎるんだよ。男が外で働いて、女が家の中のことをするべきだなんて、何世紀前の話なんだ、って。男も妊娠する時代、専業主夫なんか珍しくないじゃないか!」
たしかに、ニュースでは専業主夫の話がよく取り上げられている。しかし、よく聞いてみると、その多くは夫婦いずれかの実家が資産家であったり、妻がバリバリのキャリアウーマンだったりするのである。C子たちの場合はいずれでもない。むしろ、大手企業に勤めるD夫が主に働き、せめてC子は残り二年ある大学を卒業すべきなのではないか。
「私が卒業するまで、せめて後二年、働いてくれないの?」
D夫は憤然として言った。
「後二年っていうけど、僕が働いて、君が大学に行っている間、この子は誰が世話をするの? まさか保育園に預けろとか言うんじゃないよね。」
「そうするしかないでしょう?」
C子の回答にD夫は笑った。
「あのね、僕はC子が外で働いている間、色んな育児書を読んでたくさん勉強したんだ。子どもは3歳までは親の愛情をたっぷり注がないといけない。そうしないと後で心の弱い子に育ってしまう。だから、僕は少なくともこの子が3歳になるまでは働きに出ないからね。」
D夫のドヤ顔を見て、C子は後悔した。どうしてあのとき、責任をとって結婚するなどとD夫に言ってしまったのだろう。どうしてあのとき、A雄の子をおろしてA雄と音信不通にしてしまったのだろう。A雄ならこんなことは言わないはずだ。
C子はアルバイト先の昼休み、A雄のメールアドレスを探すべく携帯電話のメールフォルダを見ていた。C子は、D夫に親兄弟以外の連絡先を全て消されてしまったが、一部のメールについては消し忘れたのか残ったままになっていた。
その中で、一つだけA雄からのメールを発見した。
「C子さん
実は、僕はC子さんの子どもを妊娠したようです。病院で調べてもらって、それは確実になりました。もし、C子さんが浮気をしていて他の男の子どもを妊娠していたのならば、そのことは僕は許すつもりです。だから、僕と結婚しませんか? とにかく一度話がしたいです。返事ください。
A雄」
C子は青ざめた。どうして今までこのメールに気が付かなかったのだろう。もっとも、これは一年くらい前のメールだ。当時このメールをC子が見たとしても無視していただろう。しかし、今となっては違う。C子はA雄にメールを送ることにした。
「A雄さん
もう遅いかもしれないけど、お互いに今の状況をお話できませんか? 連絡待ってます。
C子」
3日後の夜、A雄から簡単な返信があった。
「明日午後七時に駅前の喫茶店で待っています。」
その日、C子はバイトで遅くなるとD夫に告げ、約束の時間に駅前の喫茶店に赴いた。しかし、そこには、A雄だけではなく、見知らぬ女と赤ちゃんがいた。
「初めまして、B子です。あなたがC子さんですか?」
C子はよく分からないまま、挨拶をした。
「はい、C子です、初めまして。」
「そしてこの子が私たちの子ども、E郎。」
B子が紹介したE郎はC子の顔を見ると泣きだしてしまった。
「あらあら、困った子でちゅねー。こんなときに泣くなんて。」
B子はE郎をあやしている。C子は切り出した。
「あの、その子が私の子どもだというのは本当ですか?」
今度はA雄が話し始めた。
「あのね、僕、当時付き合ってたのは、君とこのB子だけなんだ。で、妊娠中のDNA鑑定でE郎とB子の母子関係は否定された。そうしたら、E郎の生物学上の母親は君しかいない。」
C子は再度E郎を見た。確かに目元が自分に似ている。
「でも、そこをグッとのんで結婚して、E郎を一緒に育てていこうって言ってくれたのがB子なんだ。」
B子は言った。
「だから、私はこの子を自分の子として育てていく。あなたには何も請求しない代わりに、金輪際A雄やE郎に会ったり連絡したりしてほしくないの。分かるわね?」
C子は焦った。
「待ってください、あなたたちが私に何を請求できるって言うんですか!」
「もし、この子が本当にあなたの子なら、A雄はあなたに対して、額はともかく養育費を請求できるわよね。でも、E郎はあなたの子じゃなく、私の子として育てるんだから、あなたに養育費は請求しない。そういうこと。」
「はあ。」
C子は頷いた。
「さあ、他にあなた、私たちに言いたいことはある?」
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