ガテン系ホストクラブ「No-King」

ユンボイナ

文字の大きさ
上 下
4 / 9
第一章 体験入店

女子大生4人組

しおりを挟む
 「No-King」の営業時間は健全に12時までである。11時でシズコが帰ってしまったので、純平と誠は他の席を盛り上げに行くことにした。
 誠がさっと店内を見渡すと、若い女性4人組の客がいて、ホストが二人しかついていなかったので、「あそこに行こう!」と純平を促した。
「あ、爽やかなガソスタのお兄さんとワイルドな工事のお兄さんが来た!」
ソファーの真ん中に座っている女の子が指を指して言った。
「君たち、学生さんかな?」
「そうなんです、変なホストクラブがあるって友達から聞いて遊びに来ました。」
 その女の子は、ジーンズにTシャツ、スニーカーというラフな出で立ちであったが、他の四人も似たような服装だった。明らかに普段ホストクラブに行く層ではない。
 誠は優しそうな笑顔を向けて言った。
「変な、ってどういうこと?」
別の女の子が言った。
「ホストっぽいホストはいなくて、みんなガテンでお酒飲まなくて丼物とか食べるって。でも来てよかったです。パワーもらいました!」
 後から純平が誠に説明されたことだが、その席に元からついていたホストは、早食い名人の猛に、怪力自慢の大和である。猛は店の牛丼を30秒で完食するという特殊技能を持っていたし、大和はどんなものでも持ち上げる。
「こっちのぽっちゃりしたお兄さんには一分で大盛りカツカレーを平らげてもらいました。」
「一分? あれを??」
純平は黄色いTシャツにデニムのオーバーオールを着た猛を見つめた。猛は細い目をさらに細めて言った。
「僕にとって、まさにカレーは飲み物ですから。」
また別の女の子が言った。
「ムキムキのお兄さんには、六法を破ってもらったんだよね。」
たしかに、テーブルの上には真っ二つに引き裂かれたポケット六法が転がっていた。
「電話帳より硬かったけど、何とかいけるもんすね。」
 タンクトップと短パンで自分の筋肉を見せつけている大和は、ニヤリと笑った。
 純平が呆然として立っていると、真ん中のジーンズの女の子が、「ワイルドさん、隣に来て!」と呼ぶのでそちらに移動した。誠はソファーの向かいに置いてある椅子に座った。
「ワイルドさん、ワイルドさんは何ができるの?」
「俺は……体験入店で入ったばかりだから、まだ何もできないよ。」
「えー! けど、ワイルドさん、ヒゲの伸び具合がいい感じだよね。ちょっと触っていい?」
ジーンズの女の子は、純平の頬や顎の辺りを右手で撫でた。
「チクチクする! アヤカも触ってごらんよ。」
ジーンズの子にアヤカと呼ばれた、純平の右隣に座っているロングスカートの女の子は、「えーっ!」と言いながら、恐る恐る純平の顔に手を伸ばした。しかし、なかなかアヤカは純平の顔に触れないようだった。
「いいから思い切って触っちゃいなよ!」
純平は、「俺には拒否権がないのかよ」と思いつつも、アヤカのほうに顔を向けた。アヤカは顔を赤らめている。
「ワイルドさん、その子、まだ彼氏いないんですよ。何とかしてやってください!」
アヤカは、恥ずかしそうにうつむいた。 誠が言った。
「彼氏なんて慌てて作ることないよ。みんな、ゆっくり大人になっていけばいいんだ。たまにはこんな場所に遊びに来たりしてね。」
「爽やかさん、何か達観したようなこと言って、ついでに営業してる!」
ジーンズの子が笑った。どうもこのグループは、ジーンズの子がリーダーのようだ。その左隣に座っている膝丈スカートの女の子は、さっきから誠の顔をじっと見つめているようだった。
「マユ、急に黙っちゃって、爽やかさんのことがタイプなの?」
ジーンズが膝丈スカートに声を掛ける。
「うん、結構タイプだわ。レギュラー満タン!って言われたい。」
誠はおどけて、「レギュラー満タン!」と大声で叫んだ。それを聞いた猛が、「カレーも満タン!」と言ったので、一同笑った。
「ぽっちゃりさんはまだ満タンじゃないの?」
「腹八分、じゃない、腹七分くらいですね。」

 一番端に座っていた、ワンピースを着た女の子が急に思いついたように言った。
「せっかくだから、インスタ映えするようなことしてもらいたいな。」
すかさず誠が言った。
「5000円でお姫様抱っこできますよ。」
「えー、高い! もっと安く何かできない?」
不満そうなワンピースに、めげずに誠は提案する。
「おんぶや肩車は3000円。」
「それも高い! 1000円くらいで何かできない?」
大和が言った。
「俺が力こぶ作るんで、それにぶら下がるんなら1000円でいいっすよ。」
ワンピースはちょっと考えていたが、大和に言った。
「そしたらさあ、筋肉さんが両腕で力こぶ作るでしょ? それに両側から1人ずつぶら下がるのも1000円??」
「それは二人だから2000円っす。」
「えー、せめて1500円にまけてよ。」
大和が伺うように誠の顔を見た。誠は言った。
「いいじゃん、もうすぐ閉店なんだし、学生さんの思い出作りに1500円でやってやりなよ。」
「じゃあ、やるか。」
大和はソファーから立ち上がって、席の近くのスペースに移動した。それを見たワンピースは大和の隣に駆け寄った。
「もう一人、誰かぶら下がりたい人いる?」
ワンピースが他の女の子たちに声を掛けたが、ジーンズも膝丈スカートも「私はいいかな。」などと言っている。ジーンズは言った。
「アヤカ、せっかくだから行きなよ。男の免疫つけなきゃ!」
「え、私?」
ロングスカートのアヤカはまごまごしていたが、純平が「記念に行きなよ。」と促したので、そろそろと立ち上がって大和のほうへ行った。
「ふんっ!」
大和が額に青筋を立てて両腕で力こぶを作ると、その両側から二人の女子がぶら下がった。ジーンズがスマートフォンを向け、「はい、チーズ!」と言って撮影した。
「どうなの、写真の出来上がりは?」
ワンピースがジーンズのスマホ画面を確認する。純平も横から覗きこんだが、どう見てもボディビルダーとそのファン二人なので笑ってしまった。しかし、ワンピースは真顔で言った。
「じゃあそれ、私に送っておいてよ。」
「オッケー! アヤカにも送るね。」
アヤカは無言だった。

 4人が会計を済ませた帰り際、ジーンズが言った。
「お兄さんたち楽しかった! ところで名刺は貰えないの?」
誠・猛・大和はそれぞれポケットから名刺を取り出して、4人に渡した。
「あれ、ワイルドさんは名刺ないの?」
「俺、今日体験入店だから……」
純平が言うと、ジーンズは「残念だなあ。」と言った。
「またのご来店をお待ちしています!」
誠が元気よく言って頭を下げると、4人は店を後にした。ただ、アヤカだけはチラチラと純平のほうを振り返っていた。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...