あたし、スライム。初めての恋をしました

真弓りの

文字の大きさ
上 下
43 / 80

とほほ……

しおりを挟む
ナックルをパンチする辺りに仕込んではみたけれど、困った事が分かった。

練習の成果で、重石なしでも威力のあるパンチを繰り出せるようになっていたというのに、このナックル自体が結構重いもんだから、パンチを繰り出すとそっちに重心が偏っちゃって、結果重石がなくっちゃ体自体がパンチに引っ張られちゃうんだ。

でも、重石もナックルも両方体の中に入れてたらすっごく重いし、なにより絶対薬草が潰れちゃう。だって両方とも結構な大きさなんだもの……。

あたしは重石とナックルの真ん前で、途方にくれてしまった。


「スラ吉、そんなお前にプレゼントだ」


声の方を見たら「どうだ!」と言わんばかりの得意げな顔で、仁王立ちのコーチが居た。


「言っとくけど俺の小遣いで買ったんだからな、感謝しろよ!」


そう言ってコーチがあたしの頭上から何かを落とす。

それは、あたしの真横にゴスッという、えげつない音を立てて着地した。

な、なんだろうコレ。あたしと同じ若草色の、半円形の物体。音は凄く重そうだったけど……。

おずおずとそれに近づいて、ちょっと押してみたけどビクともしない。見た目の大きさよりも随分と重たい物みたい。肌触りはつるっとしてるけど冷たくて、ちょっとナックルを触った時みたいにヒンヤリするから、金属なのかな?


「それは錘だ」

「スイって、武器の?」


アルマさんがそう聞いてくれて、あたしは初めてコレが武器なんだと知った。


「ああ、本来はその突起の部分に鎖とか通して振り回して使うもんなんだけどな。質量が高いからちっこくっても重いだろ?あの重石デカイからよ、ナックルもあるならジャマかと思って」

「すごーい!まさかトマがそんな気の利くことするなんて!」


リーナさん、酷い。


「だからさっき出かけてたのか、言ってくれれば買ってきたのに」

「ナイフ買うついでにな」

「うわ、自腹で買ったのか」

「アルマ買ってくれなかったじゃんか」


子供みたいに口を尖らせるコーチに、アルマさんが「ごめんごめん」と財布を開ける。どうやらこのパーティーのお財布は、アルマさんががっちりと握っているみたいだった。


「いーよ、今度すげー剣買ってもらうから」

「うわ、高くついた」


そんな風に笑っている二人の傍で、あたしはその錘をそっと体に入れてみた。


お……も……っ……!


重い!
見た目ちっちゃくって卵の半分くらいの大きさなのに、ナックルより重い!!!

もしかしたら重石よりも若干重いかも知れない……。


確かに大きさはコンパクトで、ナックルも一緒に装備してみたけどこれなら薬草は潰れないと思う。

そうなってくると気になるのは重さで、錘とナックル両方の重さを抱えたまま旅にでるのかと思うとさすがに憂鬱になってしまった。ぶっちゃけ、めっちゃ重い。動くのしんどい。


「あ、平べったくなった」

「重いんじゃない?」

「げ、重すぎたか?」


上から心配げな声が降ってくる。

ハッ!

いかん!不安がってる場合か!

ジョットさんもコーチも、あたしのために準備してくれたんだ! あたしが怖気づいてどうする!


「おお!立ち上がった!」

「頑張れ!スラ吉、お前なら出来る!」


やってやる!やってやるとも!
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...