上 下
34 / 80

これから

しおりを挟む
「ちくしょう!」


ゴブリンの巣から帰る道すがら、さっきから、剣士の吠えるような叫びだけが何度も何度も空に響く。

剣士はとっても怒っていた。

Bランクさんにも怒っちゃいたみたいだけど、怒りの矛先は主に自分自身みたいだ。


「止められなかった……何にも、できなかった……ちくしょう!」


あの女の人をBランクさんが刺した時も、あたしが斬られるんじゃないかって時も、全然間に合わなかった事が剣士にとっては凄く凄く悔しくて、我慢できない事だったみたい。


「悔しいのはみんな一緒だよ、僕だって」


そういってアルマさんが拳を小さく握りしめる。そうだよ、武闘家やリーナさんだって悔しそうだし、あたしだって。


同意の証に、あたしはアルマさんの懐からジャンプして飛び出した。


「スラちゃん?」

「どうした」


あたしが突然出てきたもんだから、さっきから呪文みたいにブツブツ「ちくしょう」を繰り返してた剣士までがびっくりしたみたいに立ち止まる。

自分もおんなじ気持ちだって分かって欲しくて、あたしは一生懸命に軽いジャンプを繰り返した。


「何か伝えたいみたいね」

「……さっき、アルマ、みんな悔しいって言った」


武闘家がポツリと言ってくれた言葉に、あたしはまたも一生懸命跳ねて反応する。


「もしかしてスラちゃんも、悔しいの?」


そうだよリーナさん!
悔しいに決まってるじゃん!

そりゃあたしなんかさ、元々そんなに役に立てるとも思っちゃいなかったけど、あたしのせいでBランクさんにみんながなんか責められたんだか忠告されたんだか分からないこと言われたし。

剣の上でいいように弄ばれたし。

今思うと猛烈に悔しいし、自分が情けない。


Bランクさんは皆に、あたしをこれからも連れ歩くなら、他の人にとやかく言わせないくらい強くなれって言ってたけど、よく考えたら逆じゃない。

皆と一緒にいるのも納得だって分かるくらい、あたしが強くなるべきなんだよ。


そう思ったら、俄然闘志が湧いて来た。


「うわっ跳んだ!?」

「超回転してる!」


そう、今のあたしの武器はまだまだ少ない。まずは跳ぶこと。いわゆる体当たりだけど、回転をかけて威力を増すこともできる。

つぎに、スピン。


「なんだ?今度はその場で回り始めたけど」

「ねえちょっと、若干地面が抉れてない?」


その場で高速回転する事で、弱々の敵からなら身を守れるのがこの技だ。


そして、パンチ。


がむしゃらにパンチを繰り出して見せると、みんなの顔が若干強張った。


「な、何かなこれ」

「分かるわけねーだろ、なんか急にキモい動きになった!」


剣士、おまえは後でシメる。まだへっぽこパンチだけど、そのうち岩をも砕く筈なんだから!

しかしパンチは若干不評だからこのくらいにしといてやろう。

お次は溶解。

あたしはそこらの土をひとかけ体に取り込んで、一瞬で消化して見せた。


「今度は土、食べたね」

「お腹すいたのかな」


最後に、今日会得した水鉄砲。

剣士に向かって勢いよく水を吐き出す。


「うわあ、もう!なんなんだよお前、いったい何がしたいんだよ、さっきから!」


あのね、剣士。
これが、今のあたしの手持ちの武器の全部なの。まだまだ弱いあたしだけど、これを一生懸命鍛えて鍛えて、誰もがびっくりするくらい、強くてかっこいいスライムになるから!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」 結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。 彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。 見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。 けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。 筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。 人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。 彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。 たとえ彼に好かれなくてもいい。 私は彼が好きだから! 大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。 ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。 と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】必ず死因との縁を切ってみせます!~このままでは私の大切な人が、みんな帰らぬ人になってしまうので~

鬼ヶ咲あちたん
ファンタジー
眠りから覚めた12歳の侯爵令嬢ファビオラは、先ほどまで見ていた長い夢が、まるで現実かのように感じられた。「私がこれから間違いを犯さないよう、神様が警告してくださったのかもしれないわ」なぜならば夢の中では、ファビオラの家族が濡れ衣を着せられ処刑された上に、ファビオラ自身も19歳で非業の死を遂げていたのだ。「そうならないように、私は正しい行動しなくてはいけないのね」決意を固めるファビオラはまだ知らない。それが夢ではないことを…。

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

継母ができました。弟もできました。弟は父の子ではなくクズ国王の子らしいですが気にしないでください( ´_ゝ`)

てん
恋愛
タイトル詐欺になってしまっています。 転生・悪役令嬢・ざまぁ・婚約破棄すべてなしです。 起承転結すらありません。 普通ならシリアスになってしまうところですが、本作主人公エレン・テオドアールにかかればシリアスさんは長居できません。 ☆顔文字が苦手な方には読みにくいと思います。 ☆スマホで書いていて、作者が長文が読めないので変な改行があります。すみません。 ☆若干無理やりの描写があります。 ☆誤字脱字誤用などお見苦しい点もあると思いますがすみません。 ☆投稿再開しましたが隔日亀更新です。生暖かい目で見守ってください。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...