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【勇者:葵視点】優香さんの頑張り

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自分達を中心に結界を張る。これで低級な魔物は寄ってこれない筈だ。安心安全の結界を張って安心してくれるかと思いきや、優香さんはなんだかとても複雑そうな顔をした。


「……葵ちゃんが最初に旅をした時には、こんな魔法使えなかったよね。いつも、魔物に寝込みを襲われるんじゃないかって、小さな物音にも反応してた」


驚いた。本当に俺の旅をつぶさに見ていたんだろう、その言葉には実感がこもっている。

ただ、それと比較して優香さんが申し訳ない気持ちになることないんだけどな。実際俺の時はこんな過酷な環境じゃなくて草原スタートだったし魔物だってもっと出現頻度が低くお手軽に倒せるやつだった。

どっちかっていうと、今回の方が条件は厳しいと思う。


「なんかズルしてるみたいで気がひけるけど……でも、もう限界かも」


呟くようにそう言ったと思ったら、優香さんは崩れるようにその場に倒れた。慌てて近寄れば、穏やかな寝息が聞こえて、密かに安堵する。

どうやら結界に安心して、突然襲いきた睡魔に抗えなかったらしい。

ああ、なんか自分で戦うより数倍疲れた気がする。心配でおれの体も無駄に緊張していたみたいで、気がつけば体がバッキバキに固まっていた。

う~ん、とひとつ伸びをしてから、俺は優香さんが倒した魔物の回収にとりかかった。血抜きしたり捌いたり丸焼きにしたり、優香さんが目覚める前にやっときたいことも色々あるしな。

優香さんが起きたら、まずは飯を食って落ち着いてから、改めて話をしよう。

さっきは優香さん興奮しちゃってて、うまく受け止めきれないみたいだった。でも、俺が自分の意思で勇者を続けようと思ってることも、優香さんが無理して勇者になろうとしなくていい事も、ちゃんと分かって欲しいから。


*************


「美味しー!葵ちゃん、天才!」


優香さんが全力で褒めているもの……それはウサギっぽいのの丸焼きだったりする。持ち歩いている塩コショウ及び以前の世界で気に入っていたタレを焼きながらぶっかけるだけという、野趣溢れる一品だ。


「空腹は最大のスパイスとか言うの、本当なんだな」

「そんなに謙遜しないでも、本当に凄い美味しいよ。ありがとう、葵ちゃん」


そんな事言いつつこっそりスープに魔法で水足してたけどな、優香さん。申し訳ないが、どんなに素早くさりげなくやったところで、俺の動体視力は大体のものは見分けられてしまうんだ。どうやら俺の味付けは優香さんには若干濃いらしい。
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