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【勇者:葵視点】俺は願いを口にした

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「って訳で、さっさと選んでくれない?あんまり時間かけたくないんだよねえ、ボヤボヤしてたら優香、簡単に死んじゃいそうだしさあ」

「は?死ぬ?え、なんで」

「もう、質問ばっかりだねえ、葵ってこんな話す子だっけ」


いや、普段はむしろ無口な方だけども!どう考えたって流せる話じゃないから!


「葵に未来を選ぶチャンスを与える代わりに、葵が次に行く筈だった異世界に優香が代わりに行ったんだよ。優香は元々勇者じゃないから戦闘苦手だしさ、聖女の加護もないから放っておいたらすぐに死んじゃいそうなんだよねえ」

「そんな、自殺行為じゃないか。なんでそんな」

「なんでって、優香の願いだし。だからさあ、早く選んでくれない?葵は本当に数千年に一人ってくらいの逸材だから、できればまた勇者やってくれると嬉しいんだけど。今ならうんと攻略しがいのある世界が選べるよー?優香と葵、二人も勇者が出来れば世界の進化が早まるし、いい事づくめなんだよね」


なんてこった、そんなの選択肢なんてあって無きが如しだ。ていうか、死ぬかも知れないなら確かに神様の言うとおり、ここでくっちゃべってる場合じゃない。

ユウカさんとやらを助けられるのは、多分この世でたった一人、俺だけだ。この神様は、助けるにしても命くらいしか助けてくれなそうだし。

心の中で決意を固め、自らの願いを口にする。

もちろん、神様はニンマリと唇の端を高く吊り上げた。


「ね、聞かない方が良かったでしょ?考え方が勇者そのものの葵が、優香のこと放っとけるわけないもんねえ」


当たり前だ、放っておけるワケがない。ていうか速攻で助けに来て良かった。


「優香さん、それマジですか」

「大いに真面目に戦ってるわよ!」


やっぱりか。

派手に空ぶってばかりの割に大振りを止めないのは、何かこだわりか策でもあるのかとちょっぴりだけ期待したが、どうやら真面目に空ぶってただけみたいだ。

となると、こういっちゃなんだが優香さんには正直戦闘センスがない。いや、もしかしたらこれから磨かれていくのかも知れないけど、現時点ではからっきしと言っていいほどセンスがない。

たぶん俺が来なかったら初日で死んでるか大怪我を負ったに違いない。


「よく俺の代わりに勇者になるとか言ったなあ」


うっかり口にしたら、優香さんに凄い目で睨まれた。と思ったら、見る間にそのデカめの瞳に薄っすらと涙が浮かぶ。俺は内心うろたえた。

いや、その、泣かそうとは思ってなかったんだ。
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