26 / 73
噂になっているんだろうか
しおりを挟む
「待てよ、レニー!」
急いで校門を出ようとする私を呼び止める声に、反射的に振り向いた。
騎士科でよく呼ばれる愛称で私を呼ぶ声。それはとても聞き慣れたものだったから、それが誰かなんて予想はついている。騎士科の修練場方から走ってくるのは案の定ダグラスだった。
下校途中の生徒たち中でもひときわ目立つ高い身長。人の波を縫うように走っていても軸がぶれないのはきっと体幹が鍛えられているからだろう。先日ダグラスには不覚をとってその剣を顔に受けたばかりだ。彼に負けないように私ももっと鍛えないと……なんて思っているうちに、ダグラスは私のもとへ辿り着いた。
軽やかな身のこなしだ。さすが私のライバルなだけはある。
「どうした、ダグラス」
「どうした、じゃねえよ。もう五日も修練場に来てないじゃないか。殿下の婚約者じゃなくなったなら……その、鍛錬に使う時間は増えるんじゃないのか?」
「ああ、そのことか」
思わず苦笑した。
私にケガを負わせた翌日は朝一番に様子を見にきてくれたし、その日の午後にロベール様との婚約が解消されたと発表されたらまた心配そうな顔で現れた。翌日もその翌日も、何かとこうして話しかけてきてくれる。本当にマメな男だ。
きっと私にケガを負わせたという良心の呵責と、殿下に見限られ護衛ですら無くなった私の気持ちを慮ってくれているのだろう。ダグラスは剣の腕前も素晴らしいが、誠実で情にあついところもとても好ましい。
「大丈夫、今はちょっと別件で忙しいだけなんだ。心配をかけて悪いな」
「別件って……森の民か?」
「!」
「やっぱり思い当たる事があるって顔だな」
驚いた。
確かにルシャとは毎日会っている。ルシャの住まいを決めるためにどの森でどんな素材が取れそうかをもう少し見極めたいというルシャの希望を叶えるために、ここ数日は連日一緒にウチの管轄の森を巡っているわけだが、噂になるのもなんだと思ったからわざわざ王都を守る城壁の門を出た辺りで待ち合わせをしているというのに……。
特段噂好きでもないダグラスが知っているほどに、私がルシャと行動を共にしている事は噂になっているのだろうか。
「なんで知っているんだ」
恐る恐る聞いてみたら、ダグラスは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「兄貴が、お前が緑色の髪の男とちょいちょい街の外で逢引……一緒に、街の外に出てるって言うから……!」
「ああ、そうか。ダグラスの兄上は門を守っていたんだったな、そう言えば」
「やあ!」
「うわっ!?」
合点がいったと頷く私の目の前で、いきなり後ろから襲撃を受けたらしいダグラスが前のめりに体勢を崩す。
急いで校門を出ようとする私を呼び止める声に、反射的に振り向いた。
騎士科でよく呼ばれる愛称で私を呼ぶ声。それはとても聞き慣れたものだったから、それが誰かなんて予想はついている。騎士科の修練場方から走ってくるのは案の定ダグラスだった。
下校途中の生徒たち中でもひときわ目立つ高い身長。人の波を縫うように走っていても軸がぶれないのはきっと体幹が鍛えられているからだろう。先日ダグラスには不覚をとってその剣を顔に受けたばかりだ。彼に負けないように私ももっと鍛えないと……なんて思っているうちに、ダグラスは私のもとへ辿り着いた。
軽やかな身のこなしだ。さすが私のライバルなだけはある。
「どうした、ダグラス」
「どうした、じゃねえよ。もう五日も修練場に来てないじゃないか。殿下の婚約者じゃなくなったなら……その、鍛錬に使う時間は増えるんじゃないのか?」
「ああ、そのことか」
思わず苦笑した。
私にケガを負わせた翌日は朝一番に様子を見にきてくれたし、その日の午後にロベール様との婚約が解消されたと発表されたらまた心配そうな顔で現れた。翌日もその翌日も、何かとこうして話しかけてきてくれる。本当にマメな男だ。
きっと私にケガを負わせたという良心の呵責と、殿下に見限られ護衛ですら無くなった私の気持ちを慮ってくれているのだろう。ダグラスは剣の腕前も素晴らしいが、誠実で情にあついところもとても好ましい。
「大丈夫、今はちょっと別件で忙しいだけなんだ。心配をかけて悪いな」
「別件って……森の民か?」
「!」
「やっぱり思い当たる事があるって顔だな」
驚いた。
確かにルシャとは毎日会っている。ルシャの住まいを決めるためにどの森でどんな素材が取れそうかをもう少し見極めたいというルシャの希望を叶えるために、ここ数日は連日一緒にウチの管轄の森を巡っているわけだが、噂になるのもなんだと思ったからわざわざ王都を守る城壁の門を出た辺りで待ち合わせをしているというのに……。
特段噂好きでもないダグラスが知っているほどに、私がルシャと行動を共にしている事は噂になっているのだろうか。
「なんで知っているんだ」
恐る恐る聞いてみたら、ダグラスは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「兄貴が、お前が緑色の髪の男とちょいちょい街の外で逢引……一緒に、街の外に出てるって言うから……!」
「ああ、そうか。ダグラスの兄上は門を守っていたんだったな、そう言えば」
「やあ!」
「うわっ!?」
合点がいったと頷く私の目の前で、いきなり後ろから襲撃を受けたらしいダグラスが前のめりに体勢を崩す。
5
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説
新婚なのに旦那様と会えません〜公爵夫人は宮廷魔術師〜
秋月乃衣
恋愛
ルクセイア公爵家の美形当主アレクセルの元に、嫁ぐこととなった宮廷魔術師シルヴィア。
宮廷魔術師を辞めたくないシルヴィアにとって、仕事は続けたままで良いとの好条件。
だけど新婚なのに旦那様に中々会えず、すれ違い結婚生活。旦那様には愛人がいるという噂も!?
※魔法のある特殊な世界なので公爵夫人がお仕事しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです
めぐめぐ
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。
さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。
しかしナディアは全く気にしていなかった。
何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから――
偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。
※頭からっぽで
※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。
※夫婦仲は良いです
※私がイメージするサバ女子です(笑)
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる