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良かったんじゃない?

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ルシャはおもむろにその棚から小さな小瓶を取り出して、中から黄色いまあるい玉をつまみ上げた。

「これ、母ちゃんのお茶を褒めてくれたお礼」

またも私のカップにポトリと落としたかと思うと、紅茶を継ぎ足す。するとさっきの黄色い玉が、ゆっくりとほどけ……まるでドレスの裾が広がるように花開いた。

「うわ……」

感歎の声しか出なかった。

ちいさなカップの中で、レースのように可憐な花びらを持った神秘的な花がゆっくりと花開いていく。

「僕達の森に咲く花なんだ、綺麗だろう?」

「ホントに、綺麗だ……」

無理に訪ねてきたというのに、もてなしの茶だけでもう胸がいっぱいになるくらいの体験をしてしまった。飲むのがもったいなくて、ずっとずっと見つめていたい気持ちになる。

色も、香りも素晴らしい上に、こんなに素敵なオプションまでつけてくれるだなんて。お茶って、実はすごく奥深いものだったんだな……。

「アンタさ、王子様との婚約、解消になったんだって?」

お茶の中に浮かぶ花が完全に開き切るのをただただ見守っていた私に、ルシャがポツリと言った。視線を上げると、頬杖をついてこちらを眺めているルシャと目が合った。

「ああ、知ってたんだな」

「今日はどこもその話題で持ちきりだったよ。でもまぁ……良かったんじゃない?」

「良かった? 珍しい事を言うね。その意見は初めてだ」

「そう? でもあの王子様はアンタの事きっと大切にしないよ。人生長いしさ、添い遂げるなら一緒に居て幸せになれるヤツの方がいいし、ちゃんとアンタの事を思って大事にしてくれるヤツの方がいいでしょ」

「……」

「当然でしょ。なんでそんなにキョトンとした顔するのさ」

「いや……」

いや、だって、そんな事考えた事もなかった。

ロベール様……殿下は私にとって大切な主で、命を投げ出してでも守るべき人で……共に居て幸せになれるかだなんて、考えの端にも浮かばなかったから。

でも、そう言われてみて初めて気付く。そんな事にも気づけないから、私は婚約を解消されたという事なんだろう。殿下だって共に居て幸せになれる人と添い遂げたいに決まってる。

ていうか、そういう意味では殿下は最初から私など眼中になかったんだな、多分。

男子の制服を着て男言葉で話すように指示されてたし、殿下はいつだって私を護衛として扱った。

そして私もまた、ただの護衛として常に殿下の側に控え、ゆくゆくは公務の補助をする事が自分の存在意義なんだと本気で思っていた。
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