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天才の住処

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ルシャはちょっとだけ困ったように小首を傾げた。

「そっちこそ大丈夫なの? 王子様の婚約者だよね」

「まったく問題ない。じゃあ、明日」

「う……うん」

怪訝な顔をして、それでも去っていったルシャの後ろ姿を見送りながら、私は明日、ルシャにどう切り出そうかと忙しく考えを巡らせていた。

***

「うわぁ、これは凄いな!」

翌日約束通りルシャの宿を訪れた私は、彼の部屋に一歩足を踏み入れるなり、思わず歓声を上げてしまった。

だって、凄い。

そこらで買って来たんだろう棚には所狭しと小さな小瓶が並べれられていて、そのひとつひとつに日付や数字、効能みたいなものを書き入れた小さなラベルが貼ってある。

壁からはいくつかロープが渡されていて、乾燥した薬草だの花だの木の皮だのがぶら下がっている。

そして机や床には調合器具っぽいものがいくつもあって、彼が本当に真剣に錬金に取り組んでいるのだろうことが感じられた。

「ホントに来たんだね。まぁ座ってよ」

「ああ、ありがとう」

「足元、気を付けてね」

本当だ。本も積みあがってるし、調合途中の粉薬みたいなものも調合器具の中に残ってる。不用意に動くと粉を巻き上げてしまいそうだ。

「この部屋見てヒくんじゃなくって目を輝かせるなんて、結構アンタも肝が太いね」

「そうか? ワクワクする物しかないじゃないか」

ついついキョロキョロしてしまうのは仕方ないだろう。だって、魔女の館みたいだ。ここからあんなに素晴らしい効能を持つ薬が作られるのかと思うと興奮するしかない。

できるだけ少ない動作でテーブルに着くと、ルシャは意外にも可愛いらしいカップに紅茶を注いでくれた。そして、最後になにかまあるい玉を紅茶に落とす。

「あ、砂糖入れたけど大丈夫だよね?」

「ああ、これ砂糖なんだね」

……と言った瞬間、紅茶の色が淡い若草色に染まった。

「うわ! 綺麗」

「僕が作った砂糖、甘くて色も変わるんだよ。面白いでしょ」

「凄い! 飲んでみていい?」

「もちろん」

口に含むと、その紅茶はこれまでに飲んだことがない味……というか、香りがした。まるで森の中にいるみたいに、すがすがしくて柔らかい……落ちつける香りだ。

「この紅茶、色も素敵だけれど、香りが素晴らしいね」

「ありがと。僕の母ちゃんが調合したお茶なんだ。僕もこのお茶、大好き」

「そんな大切なお茶でもてなしてくれたとは嬉しいよ」

「……やっぱあんたって変わってるね」

照れたように笑って、ルシャはなぜか壁際の棚に視線を移す。
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