上 下
5 / 73

なんで血ぃダラダラ流しながら笑ってんの……?

しおりを挟む
そんな都合のいい薬なんかあったら騎士団で流通してるしね。でも、ダグラスの心配を軽くするには十分な嘘だろう。

後ろ髪を引かれたような顔で振り返り振り返り去っていくダグラスを見送って姿が見えなくなった途端、血の気が引いたようにくらっとして、私は蛇口にもたれかかった。

さすがにちょっと貧血っぽいかも。これだけ血が止まらないレベルなら本当に傷が残る程のケガだったんだろう。

顔に傷、か。やれやれだ。

同年の男達よりも高い身長、ロベール様に強制された結果すっかり身に馴染んだ男言葉と男子の制服。しかも王家から婚約破棄された上に顔に傷まで拵えたとあっちゃ嫁の貰い手なんてある筈もない。

ここまでくれば笑いも出る。

自分の女性としてのマイナススペックに苦笑しつつ、騎士として高みを目指して生きていこう、と腹を括った時だった。

「何笑ってるのさ……」

めちゃめちゃ怪訝そうな声がどこからか聞こえてくる。

辺りを見回してみたら蛇口の向こうの大木から、なんとも繊細そうな……まるで妖精のような男の子が顔だけ出してこちらを見ていた。

ふわふわした淡い若草色のポニーテールと神秘的な薄い桃色の瞳、透き通るような白い肌には見覚えがある。海の向こうの国から来た森の民、フルール嬢とまったく同じ配色だ。

ただし全体的に優し気で明るい印象のフルール嬢と違って、こちらの男の子はネコのようなツリ目が可愛いけど、びっくりするくらいの顰めっ面。今も木にしっかりとしがみついていてガードが硬いし、到底話しかけやすいタイプじゃない。

そういえばあの国からはフルール嬢ともう一人、派遣されていたんだっけ。選択する科が違うからか、あんまり会ったことなかったなぁ。

「ちょっと怖いんだけど。なんで血ぃダラダラ流しながら笑ってんの……?」

「ああ、ごめん。血は単に止まらないだけなんだけど、笑ってたのは自分の馬鹿さ加減にだよ。模擬戦でまともに剣をくらっちゃってさ」

「……笑い事じゃないじゃん……」

顰めっ面のまま呆れたみたいに言ったと思ったら、木の影に隠れてモゾモゾしたあと、またぴょこんと顔を出す。思いっきり顰めっ面のままなのに、なんだか可愛らしい。

いいなぁ、私もこんな顔と背丈と雰囲気に生まれたかった。いやでも騎士にはなりたいから、やっぱり今のままでいいのか。

何回もやってきた自問自答を飽きずにまたやってしまった。

私の中にはいつだって、可愛い女の子になりたかった思いと騎士として立派になりたい気持ちが同時に存在する。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約解消は君の方から

みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。 しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。 私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、 嫌がらせをやめるよう呼び出したのに…… どうしてこうなったんだろう? 2020.2.17より、カレンの話を始めました。 小説家になろうさんにも掲載しています。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

貴方でなくても良いのです。

豆狸
恋愛
彼が初めて淹れてくれたお茶を口に含むと、舌を刺すような刺激がありました。古い茶葉でもお使いになったのでしょうか。青い瞳に私を映すアントニオ様を傷つけないように、このことは秘密にしておきましょう。

婚約破棄されたので初恋の人と添い遂げます!!~有難う! もう国を守らないけど頑張ってね!!~

琴葉悠
恋愛
  これは「国守り」と呼ばれる、特殊な存在がいる世界。  国守りは聖人数百人に匹敵する加護を持ち、結界で国を守り。  その近くに来た侵略しようとする億の敵をたった一人で打ち倒すことができる神からの愛を受けた存在。  これはそんな国守りの女性のブリュンヒルデが、王子から婚約破棄され、最愛の初恋の相手と幸せになる話──  国が一つ滅びるお話。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

来世はあなたと結ばれませんように【再掲載】

倉世モナカ
恋愛
病弱だった私のために毎日昼夜問わず看病してくれた夫が過労により先に他界。私のせいで死んでしまった夫。来世は私なんかよりもっと素敵な女性と結ばれてほしい。それから私も後を追うようにこの世を去った。  時は来世に代わり、私は城に仕えるメイド、夫はそこに住んでいる王子へと転生していた。前世の記憶を持っている私は、夫だった王子と距離をとっていたが、あれよあれという間に彼が私に近づいてくる。それでも私はあなたとは結ばれませんから! 再投稿です。ご迷惑おかけします。 この作品は、カクヨム、小説家になろうにも掲載中。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

処理中です...