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悲しいけど、もういい
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……そうは思うけれど、もちろん顔には出さない。ロベール様の護衛についている時は感情の揺らぎは命取りだとお父様に重々教えられている。婚約が解消されるということは護衛ももちろん変わるけど、今はまだ私がロベール様を守る盾だから。
「そうでしたか。おめでとうございます」
顔に出した筈は無かったのに、ロベール様は途端にムッとした顔になった。
「本当にお前はつまらないな。もう少し驚くなりしたらどうだ」
「先だってより、ロベール様からのたっての願いだと父から聞いておりましたので。元々女ながらにロベール様の近くに常に侍り、護衛する意図も含まれた婚約だったと聞いておりましたし……ロベール様が、この婚約を快く思っていない事は私も重々理解しておりましたから」
「ふん、当たり前だ。男か女か分からぬようなお前など、この俺に相応しい筈がない」
悔しい。そんなに憎々し気に言わなくても。そもそも護衛なら動きやすいように男子の制服を身につければいいと言ったのはロベール様だ。
こんな格好をしていなければ、いくら身長が高くたってここまで男っぽく見えなかっただろうし、女生徒の皆様に変に人気が出てロベール様の機嫌をさらに悪くさせるような事だってきっとなかった。
私なりに剣の腕を磨くのと同じくらい妃教育も頑張ってきたし、ロベール様のお側で心を尽くしてきたつもりだけれど、結局ロベール様の心にはひとつも響かなかったらしい。
……フルール嬢に見せるような楽しそうな顔、私には見せてくれたことなんか一度たりともないのだから。
ロベール様にとって私という婚約者は、本当に忌々しいものだったんだろうな……。
ますます悲しくなってきたけど、私はあえて微笑みを深くする。
だってもうこの決定は覆らない。ロベール様の護衛から外されるだなんてシュヴァル家の恥だと叱責されても仕方がない事態だけれど、婚約解消の可能性があると私に告げた時、お父様はむしろホッとしたような顔をなさっていたし。
私も、こんなに嫌だと思われてまでロベール様のお傍に居たかったわけじゃない。努力が報われなかったのが悲しいだけだ、きっと。
「私も、ロベール様にはもっと相応しい方がおいでだと思っておりました。優しくて笑顔が可愛い、小さくて愛らしい女性がきっと相応しい」
この、フルール嬢のように。
その言葉だけ飲み込んで、私は頭を下げた。
「至らぬ点が多かったこと、申し訳ありませんでした。ロベール様に相応しいお方と、どうかお幸せに」
「……フン、もういい。行くぞ」
私の態度がやっぱり気に食わないらしいロベール様は、眉間の皺を深くしつつ前方に見えるアカデミーの宿舎へと足を向ける。けれど、ロベール様の婚約者ではなくなった私には、もうそこに用なんかなくなってしまった。
「いえ、私はここまでです。これまでありがとうございました」
「は?」
わかりやすく怪訝な顔で振り返るロベール様。そしてその宿舎の方からは、見慣れた人影が走ってくるのが見えていた。
「そうでしたか。おめでとうございます」
顔に出した筈は無かったのに、ロベール様は途端にムッとした顔になった。
「本当にお前はつまらないな。もう少し驚くなりしたらどうだ」
「先だってより、ロベール様からのたっての願いだと父から聞いておりましたので。元々女ながらにロベール様の近くに常に侍り、護衛する意図も含まれた婚約だったと聞いておりましたし……ロベール様が、この婚約を快く思っていない事は私も重々理解しておりましたから」
「ふん、当たり前だ。男か女か分からぬようなお前など、この俺に相応しい筈がない」
悔しい。そんなに憎々し気に言わなくても。そもそも護衛なら動きやすいように男子の制服を身につければいいと言ったのはロベール様だ。
こんな格好をしていなければ、いくら身長が高くたってここまで男っぽく見えなかっただろうし、女生徒の皆様に変に人気が出てロベール様の機嫌をさらに悪くさせるような事だってきっとなかった。
私なりに剣の腕を磨くのと同じくらい妃教育も頑張ってきたし、ロベール様のお側で心を尽くしてきたつもりだけれど、結局ロベール様の心にはひとつも響かなかったらしい。
……フルール嬢に見せるような楽しそうな顔、私には見せてくれたことなんか一度たりともないのだから。
ロベール様にとって私という婚約者は、本当に忌々しいものだったんだろうな……。
ますます悲しくなってきたけど、私はあえて微笑みを深くする。
だってもうこの決定は覆らない。ロベール様の護衛から外されるだなんてシュヴァル家の恥だと叱責されても仕方がない事態だけれど、婚約解消の可能性があると私に告げた時、お父様はむしろホッとしたような顔をなさっていたし。
私も、こんなに嫌だと思われてまでロベール様のお傍に居たかったわけじゃない。努力が報われなかったのが悲しいだけだ、きっと。
「私も、ロベール様にはもっと相応しい方がおいでだと思っておりました。優しくて笑顔が可愛い、小さくて愛らしい女性がきっと相応しい」
この、フルール嬢のように。
その言葉だけ飲み込んで、私は頭を下げた。
「至らぬ点が多かったこと、申し訳ありませんでした。ロベール様に相応しいお方と、どうかお幸せに」
「……フン、もういい。行くぞ」
私の態度がやっぱり気に食わないらしいロベール様は、眉間の皺を深くしつつ前方に見えるアカデミーの宿舎へと足を向ける。けれど、ロベール様の婚約者ではなくなった私には、もうそこに用なんかなくなってしまった。
「いえ、私はここまでです。これまでありがとうございました」
「は?」
わかりやすく怪訝な顔で振り返るロベール様。そしてその宿舎の方からは、見慣れた人影が走ってくるのが見えていた。
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