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初めての来訪者

取引しよう

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「エリカが入った超初心者用は、冒険者じゃない街の人にも公開するつもりだって言ってたよね? でも普通はさ、わざわざ危険な場所にお金払ってまで入らないよ?」


……確かに。


「でも、話題性があれば別でしょ?……アライン王子とエリカ姫御用達って冠、自分で言うのもなんだけど、効果絶大なんだよね」


カエンも不本意そうに、まあなぁ……と同意している。


「しかも、本人に会えるかも、ってのがあると足運ぶ人は相当いると思う。どう? 魅力的じゃない?」


なんと言うか、自分の利用価値をこれ程はっきり言うのも珍しい。それでも、王子の肩書きをかさにきて、とにかく言う事をきかせようというバカよりは数段マシな気がする。少なくとも取引しようという意識があるのはむしろ安心できる。

ゼロは、どう思ったんだろう。

チラリと横目で様子をうかがうと、ゼロは真剣に考えこんでいるように見える。こんな時は多分、話題になってる事以外にも色々思いついて、トリップしているんだ。

こうなると暫く戻ってこない。

仕方なく、王子様にも事情を話し、俺オススメのアップルパイを食べて貰いながら、ゼロの考えが纏まるのを待った。

庶民の行動を文句も言わず待つという、この変わった王子様。本当に結構信じていいんじゃないか?

不機嫌になるでもなく一緒にアップルパイを美味しそうに食べている王子様を見ながら、俺はそんな事を考えていた。

暫くして、ゼロがバッと顔をあげる。


「練兵場、いいと思います! 兵士の人達、何人位いますか? レベルってどれ位ですか? 週に何日位来る感じですか?」


いきなりの、あまりの勢いに、王子様もビックリだ。それでもゼロの矢継ぎ早な質問に答えてくれようというんだろう、ちらりとユリウスを見あげて頷いた。

ユリウスはそれに応えるようにひとつ頷くと、ゼロの質問にすらすらと答えていく。


「今、城とこの街に配備されている兵なら、合わせて100名ほどだろう。レベルは様々だが、殆どがレベル15以上だ。先程の新兵は特殊な例と認識して欲しい。週に何人、何日位来るかは……」


ここでユリウスは王子様に視線を戻した。彼は判断する立場にないという事だろう。


王子様も、「さすがに父上に相談しないと」と口ごもる。


「そっか、そうだよね。えと、じゃあ街やお城の兵士なら、モンスターよりも人タイプとの戦闘訓練が必要ですか? 僕、聞きたい事、いっぱいあって……」


もうゼロの頭は、どういう練兵場にするかでいっぱいのようだ。でも、王子様だってまだ明確な構想や意思が有るわけがない。なんせ今日思いついたんだろうし。

そんな様子を見てカエンが苦笑しつつ、場を収める。


「ゼロ、練兵場は王の考えも盛り込みてぇ。あいつも楽しみにしてんだ。考えを纏めてくっから、2~3日くれねぇか?」


王子様はホッとした表情をみせたが、甘いな。案の定ゼロはキラキラした瞳でこう告げた。


「うん、わかった! もう、すっっっごいの!! 考えてきてね。僕、楽しみで眠れないよ」


ハードルがスゲぇあがったな。ご愁傷さま。 


王子様が頭を抱えたまま帰り、やっとダンジョンには平和が戻った。カエンも王様と相談するために、王子様に同行している。

まぁ、まだレッスン中の兵士達は居るものの、こっちはエルフ達に任せて放っといていいしな。


「ああ~……緊張した」

「さすがに疲れたな」


気疲れがひどかったんだろう、あまりにもゼロがぐったりした表情だったから、そのままカフェでひと休みするかって話になって、俺たちは一つの席を囲んでようやくゆっくりとくつろげた。

あ~……紅茶が旨い。

思えば俺が召喚されて、まだたったの5日だ。5日間で色々あり過ぎなんだよ。さすがにちょっと疲れた。

言葉もなく気を休めている俺たちを、シルキーちゃんたちが口々に労わってくれる。


「お疲れ様ですぅ」

「緊張しましたね~!」

「王子様可愛かったぁ」

「私ユリウス様が好み。カッコ良かった♪」


後半ただの感想になってたけど、まぁいいか。

シルキーちゃんたちがきゃいきゃいと女子トークに花を咲かせている横で、ゼロはちびちびとコーラとやらを呑みながら遠くを見ているような目をしている。


「練兵場の事、考えてんのか?」

「ううん。それはまた、アライン様たちの考えが纏まってからにする。今は、ダンジョンどう造り変えたらいいのかって考えてた」

「そうだな。実際に人が入ってみると、結構問題点もあったしなぁ」


最初に聞いたときには驚いたが、視察に来てくれた事はむしろ感謝したいくらいだ。なんせオープン前にいろいろな問題点が洗い出せたんだから。俺たちは忘れないうちに問題点を纏めるため、マスタールームに戻る事にした。


「自分たちだけお茶とか、酷くない?」


マスタールームに戻るなり、ルリからクレームを入れられる。


「ゴメンね。でもおみやげ持って来たよ。プリン、好きだよね?」


ゼロは抜かりなくルリを懐柔すると、ユキにもミルクを与えていた。なんて準備のいいヤツ。うん、ユキもしっぽがフリフリと振られていて、すごく幸せそうだ。癒やされるなぁ。


「今日はみんな、お疲れ様! みんなのおかげでアライン様もすごく褒めてくれたよ。練兵場造ってこれからもちょくちょく来てくれるって」

「ほんと! 良かった」

「わんわん!」


ルリとユキが歓声をあげる。


「でも問題点もいっぱい分かったから、これからそれを皆で出しあって、オープンまでの間にダンジョンを手直ししたいんだ」


ゼロの説明を受けて、俺たちはでかい紙に問題点を次々に書き込んだ。各々が気づいたものを全部書き出すと結構な数がでたな、やっぱり。

俺たちはそれを元に、ダンジョンをどう変えるかを話しあう。


「やっぱ駆け出し用は難し過ぎたし、罠も多過ぎだろう。対象レベルが細かすぎるのもなんだし、逆にモンスターを強いのに変えて、対象レベルをあげた方がいいんじゃないのか?」

「うん、そっちの方がいいかもね。やっぱりもう少しレベルが高い人も対象にした方がいいかも。低レベルだけだと、1チーム3時間位かかるのに、貰える経験値もポイントも少ないし」

「そう言えば、制限時間は絶対に必要だよな」

「制限時間……そっかぁ、超初心者用ダンジョンは、2段構えで制限時間があればいいのかも」

「そうね。エリカ姫ってお店を見るのがすごく楽しそうだったじゃない? あれを見ててお店をもっと増やしたら、って思ってたんだけど……ショッピングだけに夢中になられても困るものね」

「奥の廃墟部分はモンスターを強化して、対象レベルももう少し幅をとろう」

「だとしても、もう一つはダンジョン要るよねぇ」

「そう言えば、モニターで冒険の課程を見守るのって、ハラハラして意外と楽しかったのよね」

「あ、それは僕も思った」


確かに。俺も若干イライラもしたが、中に入ったヤツが予想もつかないことをするのは面白かったし、一緒に探検しているような気になって純粋にワクワクした。

俺たちが頷くのを見て、ルリが嬉しそうに笑う。


「それでちょっと思いついたんだけど、もしかしてカフェとかにダンジョンの中が見えるモニターを置けば、宣伝にもなるし面白がって人気がでるんじゃない?」

「なるほど……!」

「せっかくだもの、見てて面白い仕掛けが欲しいわ」


ルリが言ったこのなんとも不謹慎な一言が、新たなダンジョンも含めた、今後のダンジョン運営のメイン企画になった。


確かに人が見る事を前提で考えると、新たなダンジョンの方向性はかなり大事だ。

今は街&廃墟系、洞窟系、そしてご褒美ルームの草原&森系がすでに出来ている。せっかくもうひとつダンジョンを作るなら、これと見栄えがかぶらないフィールドにしたい。

煮詰まった俺たちは、一旦話し合いを中断し、王子様が帰ったらやる予定だったものから片付ける事にした。


王子様が帰った今、一番試したいのはこれだ!


「ユニークチケット、使っちゃう!?」

「待ってました!」


すごく試したかったが、何が起こるか分からない謎のチケット。視察が終わってから……と我慢したんだ。


何がでるんだ? いったい何が起こるんだ!? ゼロが取り出すチケットを、ワクワクしながら見つめる。


『ユニークチケットを1枚、消費しますか?』

「承認!」


しかして現れたのは…ゼロを狂喜乱舞させている、この設備。

『錬金釜』!

複数の何かを入れると、違う何かに精製され直すという、恐ろしい釜だ。正直言うと、あまりゼロには触らせたくない。

俺の気持ちを知るよしもないゼロは、もう嬉しくてたまらないらしく、止める間もなくマスタールーム横にものものしい『錬金部屋』なるものを設置してしまった。


「うわぁ~! うわぁ~! どうしよう、嬉しいよぉ!」


狂気乱舞してるからな、それは見れば分かる。だが、あえて止めるからな!


「錬金術師もいねーのに、どーすんだよ。そんなもん」

「もちろん僕がやるよ! スキルチケット、とっといて良かった!」

「だーめーだ! それならちゃんと錬金術師を召喚しろ。お前は絶対にマスターの仕事しなくなる!」


思いついたら試さずにいられない癖に。絶対にダンジョンが恐ろしい事になると断言できる。
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