10 / 26
ヘタレマスターに召喚されたんだが
今日中にある程度、ダンジョンを完成形に出来るか?
しおりを挟む
4日目の朝、何故か俺はゼロのキングサイズベッドで目を覚ました。
「………?」
「あ、ハク! おはようっ」
ゼロが慌てて飛んできて、涙目でごめんね、ごめんね、大丈夫? と謝ってくる。
そうか、昨日のカエンによる地獄の手合わせで、多分気絶したんだろうな、俺。
ゼロも本気で反省しているようだから、仕方なく許しておいた。既にマスタールームの中にはいい匂いが立ち込めている。どうやら今日もカエンが朝食を差し入れてくれたようだ。
「おっ、起きたか。どうだぁ? 身体は」
良かった、今日は魔王モードじゃない。大丈夫だと答えると、カエンは機嫌良くゼロの頭を撫でた。
「ホラな! 回復魔法効いてるだろ? 良かったなぁ」
ちょっと待て! 気絶するまでしごいた上に、その日魔法ならったばっかの半人前に回復させやがったのか! 俺の扱い、ひどくない?
「そんな顔すんなって。俺と特訓したおかげでまたDPも大量に入ってるんだろ?」
悪びれる様子もなく、カエンは「一石三鳥ってね」とニヤついている。そして、ふと思い出したように言った。
「ところで、お前らに頼みがあるんだが。今日中にある程度、ダンジョンを完成形に出来るか?」
「えっ!?」
ユキと遊んでいたゼロも、思わず声をあげる。
「また、なんで急に」
思わず訪ねると、カエンは珍しく言い淀んだ。
「あー……その、この前王宮に行ったって言ったよな? でな、王がこのダンジョンの話をバラしちまったらしくて、ワガママ王子が視察に行くって聞かねぇんだと」
「王子様!? いくつ?」
「あー、人間はなあ、あっという間に成長するからちとあやふやなんだが」
いきなり話に食いついてきたルリに驚きながらも、カエンは律義に答えている。ていうか、俺が爆睡してる間に、ルリもユキもだいぶカエンに慣れたみたいだな。
「確か、18とかそこらじゃねーか? そろそろ成体ってトコだ」
「あら、素敵。いいじゃないの、ご招待したら?」
ルリのヤツ、すっかり「王子様見たい」モードになってるじゃねーか。話にならん。まだダンジョンなんかできたてで安全確認も出来てねーのに、そんなVIP招待出来るかっつーの!
こちとら真面目に心配しているというのに、マスターであるゼロは至って呑気だった。
「へぇー、王子様かぁ。ちょっと見てみたいかも。ね、ユキ?」
ゼロの言葉に、ユキも嬉しそうにシッポをふりふりして答えている。おいおい、マジかよ。
カエンは上機嫌で「じゃ、頼んだぜ!」と言い残し、ギルドに行ってしまった。
ああ……。この脳天気集団の面倒、俺一人で見るのかよ。
虚しくなったが落ち込んでいる暇はない。こうなったらやれるだけの事をやるしかない。幸いカエンの撃退ポイントが昨日もゲットできたおかげで、それなりに使えるDPはある。
ゼロと話し合い、まずは人手を増やすため、昨日召喚出来るようになった妖族たちを召喚することになった。
『シルキー8体、エルフ男女各3体、ドワーフ4体、ピクシー男女各3体を交配強化付与で、180Pを消費して召喚しますか?』
「承認!」
うわ、ゼロときたら相変わらずの潔い買い物っぷりだな。昨日カエンにキレられたのも、全然こたえていないらしい。
しかも、現れたモンスターにも、テキパキと指示を与えている。
こんな時にはゼロだって結構頼もしいんだと初めて知った。なんだよ、ちゃんとマスターらしいとこもあるんじゃないか。
ピクシーたちは超初心者用ダンジョンを巡回してもらうことにして、ドワーフは各ダンジョンごとに配置する。2人は超初心者用ダンジョンで店を開く準備だ。アクセサリーと服に分かれて、各自売り物になる魔具を作り、後の2人は駆け出し用ダンジョンで武器と防具の店を担当してもらうjことになった。
次々に持ち場へと向かう妖族達の背中は、なんとも頼もしい限りだ。
後はシルキーとエルフたちだが……ここでゼロは、ちょっとだけ困った顔をした。
「どうした?」
「いや、ご褒美ルームの人員も纏めて喚んじゃったけど、まだご褒美の中身決まってないし、何してて貰おうかと思って」
「悩まなくても別に皆、受付の準備でいいんじゃねぇの? 明日カフェもやってみるなら仕込みもいるだろうし。材料召喚してやってもらえば?」
ゼロは「そっか」と素直に納得し、またテキパキ指示を出す。
う~ん、それにしてもやっぱエルフはやっぱみんな美形なんだな。そしてシルキーはかわいい!! 女の子の楽しげな声が入って、ダンジョンは一気に華やかな雰囲気になった。
本日のお仕事分担が終わったところで、さて、次は……。
「なぁ、ゼロ。昨日のカエン撃退の経験値、俺達3人に入れてくれよ」
撃退ポイントはDPと同量の経験値が入るらしい。ポイントはそれなりに使ってしまっただろうが、経験値はまだ無傷だ。経験値を割り振ってくれれば戦力もずいぶんと強化できるだろう。
その結果、俺はレベル21、ルリはレベル11、ユキはレベル10にあがった。これで出来る事の幅が広がってくれればいいんだけどな。
期待を込めて、点滅する「新着情報」を順に聞いていく。
『ゼロ、ハク、ルリ、ユキ、のレベルが上がりました』
おお!? ゼロもレベルが上がってる! ダンジョンマスターはダンジョンを造るとかなのか召喚するとか、多分そういうのでレベルが上がっていくんだろう。
『レア度2の妖族を全て召喚したため、レア度3の召喚が可能となりました』
『ゼロが、新たな称号を入手しました』
『ルリが、新たなスキルを入手しました』
感心する俺をよそに次々と流れていくアナウンス。皆のステータスを見るのが楽しみ過ぎるな、これは。
そこに、驚きの情報がぶち込まれる。
『分裂によりスライムが1匹増えました』
えぇ!? スライムがもう増えた!?
「うわ、予想より早いね! 交配強化が効いてるのかな?」
ゼロも驚いてはいるが、何か思いついたのかブツブツ呟き始めた。
新着情報はこれが最後だったようでダンジョンコアは黙ってしまったが、ゼロは考えに没頭してしてまっているようでトリップしたままだ。仕方がないので、ゼロが落ち着くまで、ルリとユキに「モンスター勝手に増殖作戦」実行中である事を説明してやった。
「職場結婚、推奨って事?」
小首をかしげたまま、そう解釈したらしいルリ。まぁ、そうとも言うのか。
そんな馬鹿話をしていたら、突然ゼロが目の前でパシン! と手を合わせ、いきなり俺を拝んできた。
「ハク、お願い! 僕、回復の温泉造りたい! 召喚してもいい!?」
さっきから何か真剣に考え込んでいた結論がそれか。何をどう考えたらそこに行き付くんだよ。俺は若干脱力した。
「お願い! どうしても、ど~しても! 実験したい事があるんだよ! 回復の泉と、聖なる泉だけ召喚させて?」
なんか増えてるし。
でも、マスターの癖に俺に必死で哀願しているのを見ると、不憫にも思える。まあ、ポイントもまだあるみたいだしな。俺は快く許してやる事にした。
『地下三階の壁に、聖なる泉:小を設置しますか?』
「承認!」
『地下三階床中央に、回復の泉(温泉タイプ) :大を設置しますか?』
「承認!」
素早く設置を済ませると猛ダッシュで走り出すゼロを追って、俺たちも行き先もわからないまま、ただただ走る。いきついた先は、地下三階のご褒美ルームだった。
殺風景な岩肌のダンジョンの中、ほんわかと湯気が立ちのぼる温泉が湧き出ている。なんとも気持ちよさそうだ。そして部屋の奥には透明な水をたたえた清廉な泉もある。あれが多分『聖なる泉』なんだろう。
「きゃ~! 回復の温泉なんて素敵! ねぇゼロ、入ってもいい?」
「ゴメン……ルリはあとで入って」
多分本気じゃないだろうルリの言葉を真に受けて、ゼロはまた真っ赤になっている。
ああやってすぐ赤くなるからルリにからかわれる羽目になるんだと思うが、こればかりはガマンしろっつっても無理だろうなぁ。
確かにいくら同じモンスター扱いとはいえど、ユキと同じようにはできないよな。
ちなみにユキはすでに心のままに温泉に飛び込み、ひとしきりじゃぶじゃぶと遊び、いまは濡れた体をブルブルと思い切りふって水を飛ばしている。こちらも相変わらずかわいい。
それからゼロが始めたのは、思いもかけないことだった。
いま俺達の前には、今日生まれたのも含め、7匹のスライムがプルプルしている。そしてゼロの目はキラキラしている。いったい何をやらかすつもりなんだよ……。
時々とんでもないことしでかしたりするから、若干不安なんだが。心配しつつ見ていたら、ゼロは一歩前へ出てスライムたちに語りかけた。
「それではスライムの皆さーん! この中でずっと水の中でも平気な子、いますかー?」
プルプルっと顔を見合わせた? スライムたちの中から、おずおずと2匹が前にでる。
「じゃあ、魔法に興味ある子、いますかー?」
ま、魔法!? うわ、驚いた事に1匹だけ前にでてきた。ていうか、スライムって言葉通じてるんだな。
「はい、じゃあ他の子はダンジョンに戻っていいからね。ありがとう」
4匹のスライムはぽよぽよと跳ねながらダンジョンに戻っていく。それを満足げに見送ると、ゼロは残ったスライムたちに指示を与えた。
「君は回復の泉、君は聖なる泉を住みかにしてね。僕がいいって言うまでは、誰か来ても攻撃しないように!」
さっき水の中でも平気だと答えていた2匹のスライム達は、ゼロに返事をするようにプルプルっと体を震わせると、各々の泉に入る。
それを見届けた俺たちは、最後の1匹を連れてようやくマスタールームに戻ったわけだが。
「ええっ!?私がぁ?」
ルリは「そんなの、無理よ~」と嘆きながら、ベッドに突っ伏している。
ゼロから、このスライムに魔法を教えるように頼まれたからだ。まあ確かに相当なムチャぶりではあるよな。
「だってこの子、明らかに脳みそないじゃない? 賢さとか、ちゃんと数値見た?」
言いたい放題だな。
心なしかスライムもしょんぼりしている。ユキがスライムのプルプルボディをペロペロ舐めて、慰めているっぽいのが微笑ましい。
「お願いだよルリ。教えるの、すごい上手だったし、おかげで僕も回復魔法が覚えられたんだし」
「だから脳みその量が違うの!」
頑なに拒否するルリを困った顔で見おろし、ゼロは「しょうがないなぁ」と呟いているけれど、この場合、しょうがないのはお前だ。
「じゃあ、教えてくれたら王子様に紹介してあげる」
うわ、餌で釣ろうとしてやがる! 意外と腹黒い。
ろくでもないこと言い出したな、と思ったけれど、俺の考えのほうが甘かったらしい。ルリはおもむろにベッドから起き上がった。
「……じゃあ、頑張ってみるけど」
そうしてルリは、案外チョロくスライムの先生になった。
「………?」
「あ、ハク! おはようっ」
ゼロが慌てて飛んできて、涙目でごめんね、ごめんね、大丈夫? と謝ってくる。
そうか、昨日のカエンによる地獄の手合わせで、多分気絶したんだろうな、俺。
ゼロも本気で反省しているようだから、仕方なく許しておいた。既にマスタールームの中にはいい匂いが立ち込めている。どうやら今日もカエンが朝食を差し入れてくれたようだ。
「おっ、起きたか。どうだぁ? 身体は」
良かった、今日は魔王モードじゃない。大丈夫だと答えると、カエンは機嫌良くゼロの頭を撫でた。
「ホラな! 回復魔法効いてるだろ? 良かったなぁ」
ちょっと待て! 気絶するまでしごいた上に、その日魔法ならったばっかの半人前に回復させやがったのか! 俺の扱い、ひどくない?
「そんな顔すんなって。俺と特訓したおかげでまたDPも大量に入ってるんだろ?」
悪びれる様子もなく、カエンは「一石三鳥ってね」とニヤついている。そして、ふと思い出したように言った。
「ところで、お前らに頼みがあるんだが。今日中にある程度、ダンジョンを完成形に出来るか?」
「えっ!?」
ユキと遊んでいたゼロも、思わず声をあげる。
「また、なんで急に」
思わず訪ねると、カエンは珍しく言い淀んだ。
「あー……その、この前王宮に行ったって言ったよな? でな、王がこのダンジョンの話をバラしちまったらしくて、ワガママ王子が視察に行くって聞かねぇんだと」
「王子様!? いくつ?」
「あー、人間はなあ、あっという間に成長するからちとあやふやなんだが」
いきなり話に食いついてきたルリに驚きながらも、カエンは律義に答えている。ていうか、俺が爆睡してる間に、ルリもユキもだいぶカエンに慣れたみたいだな。
「確か、18とかそこらじゃねーか? そろそろ成体ってトコだ」
「あら、素敵。いいじゃないの、ご招待したら?」
ルリのヤツ、すっかり「王子様見たい」モードになってるじゃねーか。話にならん。まだダンジョンなんかできたてで安全確認も出来てねーのに、そんなVIP招待出来るかっつーの!
こちとら真面目に心配しているというのに、マスターであるゼロは至って呑気だった。
「へぇー、王子様かぁ。ちょっと見てみたいかも。ね、ユキ?」
ゼロの言葉に、ユキも嬉しそうにシッポをふりふりして答えている。おいおい、マジかよ。
カエンは上機嫌で「じゃ、頼んだぜ!」と言い残し、ギルドに行ってしまった。
ああ……。この脳天気集団の面倒、俺一人で見るのかよ。
虚しくなったが落ち込んでいる暇はない。こうなったらやれるだけの事をやるしかない。幸いカエンの撃退ポイントが昨日もゲットできたおかげで、それなりに使えるDPはある。
ゼロと話し合い、まずは人手を増やすため、昨日召喚出来るようになった妖族たちを召喚することになった。
『シルキー8体、エルフ男女各3体、ドワーフ4体、ピクシー男女各3体を交配強化付与で、180Pを消費して召喚しますか?』
「承認!」
うわ、ゼロときたら相変わらずの潔い買い物っぷりだな。昨日カエンにキレられたのも、全然こたえていないらしい。
しかも、現れたモンスターにも、テキパキと指示を与えている。
こんな時にはゼロだって結構頼もしいんだと初めて知った。なんだよ、ちゃんとマスターらしいとこもあるんじゃないか。
ピクシーたちは超初心者用ダンジョンを巡回してもらうことにして、ドワーフは各ダンジョンごとに配置する。2人は超初心者用ダンジョンで店を開く準備だ。アクセサリーと服に分かれて、各自売り物になる魔具を作り、後の2人は駆け出し用ダンジョンで武器と防具の店を担当してもらうjことになった。
次々に持ち場へと向かう妖族達の背中は、なんとも頼もしい限りだ。
後はシルキーとエルフたちだが……ここでゼロは、ちょっとだけ困った顔をした。
「どうした?」
「いや、ご褒美ルームの人員も纏めて喚んじゃったけど、まだご褒美の中身決まってないし、何してて貰おうかと思って」
「悩まなくても別に皆、受付の準備でいいんじゃねぇの? 明日カフェもやってみるなら仕込みもいるだろうし。材料召喚してやってもらえば?」
ゼロは「そっか」と素直に納得し、またテキパキ指示を出す。
う~ん、それにしてもやっぱエルフはやっぱみんな美形なんだな。そしてシルキーはかわいい!! 女の子の楽しげな声が入って、ダンジョンは一気に華やかな雰囲気になった。
本日のお仕事分担が終わったところで、さて、次は……。
「なぁ、ゼロ。昨日のカエン撃退の経験値、俺達3人に入れてくれよ」
撃退ポイントはDPと同量の経験値が入るらしい。ポイントはそれなりに使ってしまっただろうが、経験値はまだ無傷だ。経験値を割り振ってくれれば戦力もずいぶんと強化できるだろう。
その結果、俺はレベル21、ルリはレベル11、ユキはレベル10にあがった。これで出来る事の幅が広がってくれればいいんだけどな。
期待を込めて、点滅する「新着情報」を順に聞いていく。
『ゼロ、ハク、ルリ、ユキ、のレベルが上がりました』
おお!? ゼロもレベルが上がってる! ダンジョンマスターはダンジョンを造るとかなのか召喚するとか、多分そういうのでレベルが上がっていくんだろう。
『レア度2の妖族を全て召喚したため、レア度3の召喚が可能となりました』
『ゼロが、新たな称号を入手しました』
『ルリが、新たなスキルを入手しました』
感心する俺をよそに次々と流れていくアナウンス。皆のステータスを見るのが楽しみ過ぎるな、これは。
そこに、驚きの情報がぶち込まれる。
『分裂によりスライムが1匹増えました』
えぇ!? スライムがもう増えた!?
「うわ、予想より早いね! 交配強化が効いてるのかな?」
ゼロも驚いてはいるが、何か思いついたのかブツブツ呟き始めた。
新着情報はこれが最後だったようでダンジョンコアは黙ってしまったが、ゼロは考えに没頭してしてまっているようでトリップしたままだ。仕方がないので、ゼロが落ち着くまで、ルリとユキに「モンスター勝手に増殖作戦」実行中である事を説明してやった。
「職場結婚、推奨って事?」
小首をかしげたまま、そう解釈したらしいルリ。まぁ、そうとも言うのか。
そんな馬鹿話をしていたら、突然ゼロが目の前でパシン! と手を合わせ、いきなり俺を拝んできた。
「ハク、お願い! 僕、回復の温泉造りたい! 召喚してもいい!?」
さっきから何か真剣に考え込んでいた結論がそれか。何をどう考えたらそこに行き付くんだよ。俺は若干脱力した。
「お願い! どうしても、ど~しても! 実験したい事があるんだよ! 回復の泉と、聖なる泉だけ召喚させて?」
なんか増えてるし。
でも、マスターの癖に俺に必死で哀願しているのを見ると、不憫にも思える。まあ、ポイントもまだあるみたいだしな。俺は快く許してやる事にした。
『地下三階の壁に、聖なる泉:小を設置しますか?』
「承認!」
『地下三階床中央に、回復の泉(温泉タイプ) :大を設置しますか?』
「承認!」
素早く設置を済ませると猛ダッシュで走り出すゼロを追って、俺たちも行き先もわからないまま、ただただ走る。いきついた先は、地下三階のご褒美ルームだった。
殺風景な岩肌のダンジョンの中、ほんわかと湯気が立ちのぼる温泉が湧き出ている。なんとも気持ちよさそうだ。そして部屋の奥には透明な水をたたえた清廉な泉もある。あれが多分『聖なる泉』なんだろう。
「きゃ~! 回復の温泉なんて素敵! ねぇゼロ、入ってもいい?」
「ゴメン……ルリはあとで入って」
多分本気じゃないだろうルリの言葉を真に受けて、ゼロはまた真っ赤になっている。
ああやってすぐ赤くなるからルリにからかわれる羽目になるんだと思うが、こればかりはガマンしろっつっても無理だろうなぁ。
確かにいくら同じモンスター扱いとはいえど、ユキと同じようにはできないよな。
ちなみにユキはすでに心のままに温泉に飛び込み、ひとしきりじゃぶじゃぶと遊び、いまは濡れた体をブルブルと思い切りふって水を飛ばしている。こちらも相変わらずかわいい。
それからゼロが始めたのは、思いもかけないことだった。
いま俺達の前には、今日生まれたのも含め、7匹のスライムがプルプルしている。そしてゼロの目はキラキラしている。いったい何をやらかすつもりなんだよ……。
時々とんでもないことしでかしたりするから、若干不安なんだが。心配しつつ見ていたら、ゼロは一歩前へ出てスライムたちに語りかけた。
「それではスライムの皆さーん! この中でずっと水の中でも平気な子、いますかー?」
プルプルっと顔を見合わせた? スライムたちの中から、おずおずと2匹が前にでる。
「じゃあ、魔法に興味ある子、いますかー?」
ま、魔法!? うわ、驚いた事に1匹だけ前にでてきた。ていうか、スライムって言葉通じてるんだな。
「はい、じゃあ他の子はダンジョンに戻っていいからね。ありがとう」
4匹のスライムはぽよぽよと跳ねながらダンジョンに戻っていく。それを満足げに見送ると、ゼロは残ったスライムたちに指示を与えた。
「君は回復の泉、君は聖なる泉を住みかにしてね。僕がいいって言うまでは、誰か来ても攻撃しないように!」
さっき水の中でも平気だと答えていた2匹のスライム達は、ゼロに返事をするようにプルプルっと体を震わせると、各々の泉に入る。
それを見届けた俺たちは、最後の1匹を連れてようやくマスタールームに戻ったわけだが。
「ええっ!?私がぁ?」
ルリは「そんなの、無理よ~」と嘆きながら、ベッドに突っ伏している。
ゼロから、このスライムに魔法を教えるように頼まれたからだ。まあ確かに相当なムチャぶりではあるよな。
「だってこの子、明らかに脳みそないじゃない? 賢さとか、ちゃんと数値見た?」
言いたい放題だな。
心なしかスライムもしょんぼりしている。ユキがスライムのプルプルボディをペロペロ舐めて、慰めているっぽいのが微笑ましい。
「お願いだよルリ。教えるの、すごい上手だったし、おかげで僕も回復魔法が覚えられたんだし」
「だから脳みその量が違うの!」
頑なに拒否するルリを困った顔で見おろし、ゼロは「しょうがないなぁ」と呟いているけれど、この場合、しょうがないのはお前だ。
「じゃあ、教えてくれたら王子様に紹介してあげる」
うわ、餌で釣ろうとしてやがる! 意外と腹黒い。
ろくでもないこと言い出したな、と思ったけれど、俺の考えのほうが甘かったらしい。ルリはおもむろにベッドから起き上がった。
「……じゃあ、頑張ってみるけど」
そうしてルリは、案外チョロくスライムの先生になった。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
千年王国 魔王再臨
yahimoti
ファンタジー
ロストヒストリーワールド ファーストバージョンの世界の魔王に転生した。いきなり勇者に討伐された。
1000年後に復活はした。
でも集めた魔核の欠片が少なかったせいでなんかちっちゃい。
3人の人化した魔物お姉ちゃんに育てられ、平穏に暮らしたいのになぜか勇者に懐かれちゃう。
まずいよー。
魔王ってバレたらまた討伐されちゃうよー。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
スライムダンジョンのダンジョンマスター
白街
ファンタジー
目を覚ますと知らない部屋にいてダンジョンコアを名乗る水晶玉がいた。
水晶玉によると、俺はこのダンジョンコアの実験官に選ばれたらしい
異世界召喚+ダンジョン経営、俺の大好物じゃないか!最強のマスターになってやるぜ……え?スライムしか召喚できない?進化してないと赤ん坊より弱い?
よし!殺されないように人間に媚び売ろう!
面白かったらお気に入り登録お願いします。
※小説家になろうとノベルアッププラスでも投稿してます。話が一番進んでるのはなろうです。
国を建て直す前に自分を建て直したいんだが! ~何かが足りない異世界転生~
猫村慎之介
ファンタジー
オンラインゲームをプレイしながら寝落ちした佐藤綾人は
気が付くと全く知らない場所で
同じオンラインゲームプレイヤーであり親友である柳原雅也と共に目覚めた。
そこは剣と魔法が支配する幻想世界。
見た事もない生物や、文化が根付く国。
しかもオンラインゲームのスキルが何故か使用でき
身体能力は異常なまでに強化され
物理法則を無視した伝説級の武器や防具、道具が現れる。
だがそんな事は割とどうでも良かった。
何より異変が起きていたのは、自分自身。
二人は使っていたキャラクターのアバターデータまで引き継いでいたのだ。
一人は幼精。
一人は猫女。
何も分からないまま異世界に飛ばされ
性転換どころか種族まで転換されてしまった二人は
勢いで滅亡寸前の帝国の立て直しを依頼される。
引き受けたものの、帝国は予想以上に滅亡しそうだった。
「これ詰んでるかなぁ」
「詰んでるっしょ」
強力な力を得た代償に
大事なモノを失ってしまった転生者が織りなす
何かとままならないまま
チートで無茶苦茶する異世界転生ファンタジー開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる