上 下
8 / 26
ヘタレマスターに召喚されたんだが

ワクワクする楽しそうなダンジョン?

しおりを挟む
そして、ただの仔犬にしか見えないユキのステータスを見た俺とゼロは、一瞬だけ固まった。


名前:ユキ
LV:1
種族:幻獣(幻狼:幼生)
性別:未分化
レア度:5

◆能力値
HP:700/700
MP:450/450
STR(筋力):90
VIT(耐久):115
INT(知力):75
MIN(精神):85
DEX(器用):30
AGI(敏捷):90
LUK(幸運):120

スキル:下級水魔術・牙

▽スキル詳細
《下級水魔術》下級の水属性魔術を扱う事が出来る。

《牙》牙を武器とした戦闘を行う事ができる。


レアモンスター召喚チケットで召喚したんだから、よく考えればあたり前なんだが、もちろんただの仔犬じゃない。

なんと幻狼と呼ばれるレア種族だった。

滅多にお目にかからない上に、野生の成獣に会ったら命がない、と言われる程凶暴だ。この愛らしさからはとても想像できなかった。

こいつも俺と同じで、成長するとさらにレア度があがるタイプらしい。今は癒し系ペットでも、すぐにでかくなって、強力な戦力になるだろう。


「うわぁ! ルリもユキも凄いな!」


ゼロに手放しで褒められて、二人はとにかく嬉しそうだ。ユキなんかしっぽをちぎれそうなくらいにブンブンふりながら、飛び跳ねて喜んでいる。

う~ん、とてもじゃないが凶暴だと名高い幻狼とは思えない。単に可愛い。

ルリとユキのレベルがあがれば、もしもの時の備えも強固になる。戦力にはある程度目処がたったよな。


「ゼロ、仲間も揃ったし、そろそろ本気でダンジョン作らないか?」


俺の提案に、ゼロは勢い良く頷くと、設計図のようなものをベッドの上に大きく広げて見せてくれる。なんと、昨日俺がカエンにしごかれている間に、3人で話した内容を纏めていたらしい。意外に準備が良くてちょっと驚いた。


「みんな、見て! これがこれから僕たちが造っていくダンジョンだよ!」


誇らしげなゼロの姿に、ユキはわけもわからず飛び跳ねて喜んでいる。そしてルリは、ちょっと意外そうな顔で小首をかしげた。


「これから造るって……もしかして、このダンジョンって出来たてなの?」

「ああ、ダンジョンモンスター俺が最初で、ルリが二番目に召喚されたから、ほんとにこれからって感じだな」

「すごい! そんな初期に立ち会えるなんてラッキーだわ。面白くなりそう」


その気持ち、わかる。

既にできあがってるダンジョンで、古参のモンスターとかいたら、どうしても自由度は低くなるもんな。確かに俺たちはラッキーだ。



「あー嬉しいな! ダンジョンマスターになった時は本当に死んだ方がマシだって思うくらい怖かったけど、こんな楽しそうなダンジョンが作れるなら、来る人もワクワクするだろうし、僕だって嬉しい……ほんと良かった」

「ワクワクする楽しそうなダンジョン??? どういうこと?」


心底嬉しそうに呟くゼロに、ルリが不思議そうに問いかける。そりゃそうだ、これまでの経緯を知らないんだから、いきなり楽しそうなダンジョンとか言われても、疑問しか出ないだろう。

ダンジョンなんて本来、血で血を洗う、命をとったりとられたりの凄惨な現場だ。

でもこのダンジョンは違う。これから仲間になっていくモンスター達には、そこを最初にわかってもらう必要があるんだろう。

俺とゼロは、二人にこれまでの経緯をかいつまんで話すことにした。

特に茶々を入れるでもなく、不満そうな声を漏らすでもなく、真面目な顔で俺たちの話を聞き終えたルリは割とあっさりと「とりあえず話はわかったわ」と頷いた。


「それじゃあここは普通のダンジョンじゃなくて、冒険者がレベルアップするための訓練施設になるわけなのね?」

「うん!」


すげーなルリ、めっちゃ理解が早い。ちなみにユキはキラキラお目々でしっぽをフリフリしてるけど、多分わかってないと思う。


「ここに来れば冒険者の人は経験値も戦闘力も、罠の回避能力もあがって嬉しいでしょ?」

「そうね。あたしが駆け出し冒険者なら、確かにそういう施設があれば嬉しいかも」


ゼロの力説にも素直に同意してくれている。俺よりよっぱどゼロの考えに理解があるのかも知れない。なんか意外だ。


「僕達から見たら撃退ポイントと経験値があがるし、ギルドにとっては冒険者の実力の見極め精度もあがるよねから、誰も損しないと思うんだ」


そう、確かに3者ともに利点がある仕組みなんだよな。ゼロは一見ヘタレっぽく見えるけど、実は結構頭使ってるよな。


「僕も誰か殺さずに済むし、もう大満足だよ!」


満面の笑顔を見せたゼロは、今度はダンジョンポイントやらコアやらも含め、これまでに理解したダンジョン造りのルールを惜しげもなくルリに説明していく。

配下を信頼してくれるのはありがたいが、こんなに手の内を丸明かしなダンジョンマスターって大丈夫なんだろうか。

基本俺たちはマスターを害することはできないわけだが、信頼しすぎるのもどうかとは思うんだよなぁ。

まぁ、ダンジョンモンスターでさえないカエンにだって手の内をさらしてるんだから、いまさら心配しても仕方ないか。


そんなことをつらつらと考えていたら、どうやら説明が終わったらしい。

なんなく仕組みを理解した顔のルリと、多分ただ楽しそうなユキも交えて、ゼロが書いてくれた設計図を元に俺たちはダンジョンのイメージを固めていく。

大まかな構想はこんな感じだ。


ダンジョンは冒険者のレベルに合わせて2種類用意する。

ひとつはLV.4~7までの駆け出し冒険者用。

ありがちな薄暗い洞窟タイプで、入り口は軽めのモンスター配置だが、奥にいくに従って、様々な罠やモンスターとの連戦が入り、体力を削られたところでボス戦という、中々ハードな内容だ。その代わり、宝箱も多めに置いてやる。

カエンの話では、これ位のレベルの冒険者が一番危ないらしい。

罠にもモンスターにも慣れていないし、退き際の判断も甘い。このコースでは、モンスターの特性を学び、自分の実力や弱点を見極めてもらうのが主な目的だ。

もうひとつはLV.0~3までの超初心者用。

ここはカエンたっての希望で、街人の女の子でも、運が良ければ半分は進めるようになっている。

可愛い街並みを模したダンジョンで、前半はスライムなどのどこか愛嬌があるモンスターしか登場しない。だが、後半に行くほど廃墟になっていき、複数のモンスターと対峙するようになり、ボス戦はずぶの素人にはかなりきついオーク数匹と戦ってもらう。

はっきり言って、ここは初心者のレベルアップ用ダンジョンだ。レベルが低過ぎて依頼も出しにくい冒険者を、ここで鍛えるのが目的になる。

人手不足が深刻らしく、ゆうべカエンは一般の街人にも開放して、素質がありそうなのをスカウトすると張り切っていた。


「普通の町みたいなダンジョンを造るだなんて、面白くていいわね!」

「うん、ここは冒険者じゃない人にも解放するダンジョンだから、とっつきやすい方がいいかと思って」

「確かに、それなら冒険者じゃなくても、面白そうだからってチャレンジしてくれそうだわ」


最初はただ聞いているだけだったルリだけれど、話が深まるうちにだんだんと楽しそうに考えを巡らせはじめた。


「せっかく街並みがあるなら、お店も開いたらいいんじゃない?」

「お店? 薬草とか売る系の?」

「もちろん武器や防具でもいいし、アクセサリーなんかもいいと思うわ。ここでしか買えないものをウリにするのよ。冒険者じゃなくても足を運びたくなると思うわよ」

「うわ、それ面白そうだね!」


ルリのおかげでアイディアもふくらんで、ゼロも超絶楽しそうだ。でも確かにそれなら、ルリの言うように客の幅も広がるかも知れないな。検討の余地ありだ。


ひとしきり和気藹々と話し合い、小腹がすいた俺たちは昼メシを食いながら、ダンジョンコアの新着情報をチェックしていく。

おお! 案の定、また何か増えてるな。


『条件を満たしたため、レア度2までの妖族が召喚可能となりました』


条件? ああ、もしかしてルリを召喚したからか? でも、俺やユキは?

そこまで考えて思い当たる。

龍族や幻獣族は少なくともレア度1や2はいないもんな。納得しつつ、新たに召喚出来るようになった妖族のラインナップをのぞき込んだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...