麗しのラシェール

真弓りの

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【ライシオス視点】愛の言葉は呪いの言葉

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「あの、意味が分かり兼ねますが」

「君がぜひにと望むからフローリアを嫁したわけだが……本当は君はラシェールを欲していたのではないかね?」

「何を……!」

「カウグラット将軍が急逝されて、ラシェールは既に寡婦だ。……あの剛健な男が流行病であっさり逝くとは予想もしなかったが……君にとってはチャンスではないのかね?」

冗談じゃない!

なぜ僕が、将軍の急逝を喜ぶ謂れがあるんだ!

あまりの事に眦を吊り上げたら、卿は意味ありげに薄く嗤う。

「今正直に吐露すれば、ラシェールを君にくれてやる事も出来るのだがね」

「何を仰っているのか分かり兼ねます。僕にはフローリアという愛する妻がおりますので」

「その妻が、良いと言っておる」

言葉を失った。

どういう意味だ。

フローリアが、なんだって?

僕の愛するラシェールが、そんな事を言う筈がない。

「なぜ、そんな話に……カウグラット夫人なら、寡婦となられても引く手数多でしょう。なぜ僕にそんな話を持ちかけるのですか、意味が分からない」

あえてカウグラット夫人と表現して、彼女への興味がない事を強調した。確かに彼女は傾国の美しさだが、僕の天使には逆立ちしたって叶わない、僕にとってはフローリアこそが最愛なのだ。

「儂とて、フローリアの望みでなければ……!貴様などにこのような話をする事自体、どれほど儂が業腹か……!」

「ちょっと待って、待ってください!フローリアが望んだというのですか!?なぜ、なぜそんな!」

「貴様がそれを言うか……!」

卿は激昂しているが、こちらも引ける内容じゃない。

「本当に……本当に意味が分かりません。それは、フローリアが僕と離縁を望んでいるという事でしょうか」

「君が望んでいるのだろう」

「そんなわけないでしょう!僕はこの三年近くの間、誰よりも彼女を愛し、慈しんできたつもりです。誰よりも彼女を愛している!」

思わず恥ずかしい事を、しかも舅に向かって叫んでしまったわけだが、僕の天使、麗しのラシェールへの愛を疑われて黙っていられる筈がない。

「……では、なぜあの子を姉の名で呼ぶのだ」

「は?」

「ラシェールと、呼んでいたのだろう」

呼んでいた。毎日毎日、彼女が飽きるくらい、そう呼ぼうと決めていたんだ。

「あの子がどんな気持ちでそれを聞いていたと思うんだ」

喜んでくれていると、思っていた。

確かに彼女の姉の名前かも知れないが『ラシェール』は、この国じゃ恋人を呼ぶ最も愛を込めた呼び名で……初めてそう呼んだ時、彼女は本当に幸せそうに笑ったんだ。

愛を囁いても、いつも恥ずかしそうに俯いて道路ばっかり見ている彼女が、まっすぐ僕を見て。

それなのに、その言葉が彼女を苦しめていたと言うのか。
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