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なんというイケメン

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勢い余って床を転がったゆずは、それでも持ち前の運動神経で無理やり立ち上がる。

驚き過ぎて声も出ない俺なんか目にも入っていない様子で、リストの元へ一足飛び。胸元に縋り付いたのかと思いきや、なんとゆずの細腕はギリギリとリストの襟元を絞め上げた。


「ばか! リストのバカ! 陸に変な事言ったら一生恨むから!」

「うぐ……っ、ご、ごめ、ん……!」


さすがに息が苦しいらしく、声もろくにでないリスト。ゆずのあまりの剣幕に俺もつい見入ってしまったが、これ以上シメられるとリストがヤバい。

俺はおそるおそる、ゆずに近づいて慎重に声をかけた。


「ゆ、ゆず」


ぴくり、とゆずの肩が動く。

振り向いてくれないあたり、やっぱりまだ怒ってるな。下手すりゃ俺も吊し上げ……もしくは腹パンか再度の回し蹴りの餌食だ。

俺はより一層丁寧に声をかける。


「えーと……ゆず、さっきはごめん」


何が悪かったかぶっちゃけまだ分かってねえけど。とりあえずはリストの命と俺の安全が優先だ。


「別に、怒ってないし」


明らかに声は不機嫌つうか拗ねた感じじゃあるけれど、少なくとも話は通じるらしい。良かった。


「あのさ、とりあえずリストを離してやって」

「えっ……あっ! ご、ごめん、リスト!」


ようやくゆずから解放されたリストは、崩れるように座りこみ、激しく咳き込んでいる。無理もない、かなり強い力で絞め上げられてたみたいだし。

それなりにガタイのいいリストを小柄なゆずがここまで追い込むとは。我に返ったゆずは、「ごめんなさい! 大丈夫!?」と必死にリストの背中をさする。

うんうん、そんなに心配するくらいなら絞め上げるみたいな野蛮なマネは止めような。


「あ、ありがとう。もう大丈夫だから」

「ホントに? ごめんね、リスト」


あくまでもリストは紳士的な態度を崩さない。本当にたいしたヤツだ。


「でもね、ゆずちゃん」


そう言ってリストは、まだ若干涙目だったゆずの小さな頭をポンポンと軽く撫でた。

……なんだろう、なんか今。

胸のあたりがチリッと来た気がするんだが。


「ちゃんと言った方がいいと思うけど」

「わかってる、けど」


優しい眼差しで見下ろすリストと、それに照れたように俯くゆず。

なんだよ、やっぱりお似合いじゃねえか、と思うんだけど。

ただな、なんか面白くない。これが「リア充バクハツしろ」というやつか。


「ま、余計なお世話だとはわかってる」

「そんなこと」

「ちゃんと仲直りしろよ。陸も。ちゃんとゆずちゃんの話聞いてやってくれよな」


最後までさわやかな笑顔で、リストは颯爽と去っていった。

ちくしょう、なんというイケメン。
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