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カミングアウト

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「いやいや、あれは素材も製造過程もハッキリしてるだろ!」

ええい、面倒なヤツめ。

そりゃ確かに食物とは到底思えない物使う時もあるし、釜の液は得体が知れないが……錬金術師たるもの、そんな事気にしてたら仕事にならんだろ。

しかも普通に調理した場合でも、いったん料理ができあがると錬金レシピに掲載されて、超シンプルな材料を錬金釜にぶち込めばなぜか料理ができあがるんだから、まじめに料理を作るより数段ラクだ。

たまに遊び心で変わったものをぶち込むと、驚きの効果がついたりするから止められない。


「ゆず、男には冒険だって必要なんだよ」


優しく肩を叩いたら、力一杯振り払われた。

「そんな冒険心は要らねーっつうの! 第一オレ、今女だし! 普通に料理された美味いメシが食いたいっつーの!」


あらあら、まあまあ。

ゆずの口からそんな言葉が出ようとは。

女の子の自覚が出始めたなんて、目出度いやらキモいやら……今夜はお祝いに赤飯でも炊いてやろうか。


「な、なんだよ急にニヤニヤして」

「いやぁ? 三か月にしてお前にもついに女の子だって自覚が出たかと思って」


はっとしたように両手で口を押さえる姿も可憐だ。

真っ赤な顔で睨みつけてくるのもなかなか可愛いと思うぞ? もちろんキャッシュちゃんには負けるがな!

そんな事を考えていたら、ゆずが肩を落とし、ため息と共に思わぬ事を言いだした。


「別に、今じゃないし」

「へ? 何が?」

「女だって自覚なんか、とっくに出来てるって言ってるの。毎日毎日、会う人全部が女として接してくるのに、自覚出来ないわけないでしょ」


え、何それ。

て言うか、急に言葉遣いも違くね?


「ちゃんと外では女らしく、おしとやかにしてる」


マジで!?


「陸が気持ち悪いかと思って、家ではあえて男言葉遣ってただけ。……私だって、変わろうって頑張ってるんだから」


何そのカミングアウト!

何その拗ねたような仕草! ちょっと唇尖らせて上目遣いとか、ツボ押さえてくるじゃねーかこの野郎!


「だから……」


ちょっと視線を外し、口ごもるゆず。

ヤバい、可愛い。


「ご飯は普通に作って欲しいなぁ」

「………」


コケた俺は悪くない。無言で拳を握ったのも悪くない筈だ。


「いたっ!! なんで!? 今の可愛くなかった?」

「んー? ゲンコツが足りなかったか?」

「足りた! 足りてる!」


慌てて距離をとったゆずは「おかしいな……あれで大体みんなお願いきいてくれるのに」とか聞き捨てならない事を呟いている。

心臓に悪い技を使うなっつーの!
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