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「いいから、ここは笑って『ありがとう』って言っとけ」

「なんでだよ」

「後で美味いもん食わせてやるから」


釈然としない表情で黙る美少女。

こんな時の譲は理路整然と説得したところで聞く態勢になんかならないからな、ぶっちゃけエサでつるのが一番だ。

幸いコイツは俺の作るメシに弱い。美味いメシをエサに、話を聞く態勢になった譲は説得も簡単、イヤイヤでも大体言う事聞いてくれるんだよな。


「後で説明するからさ、今は言う事きいてくれ」


ヒソヒソと話し合った結果、譲は不機嫌そうに唇をとがらせたまま、リストに「じゃあ、よろしく頼む」と呟いた。

うん、お前に愛想笑いとか期待した俺がバカだったよ。

それでもリストはニコニコと機嫌良く笑い、見た目美少女の譲に握手を求めている。コイツはコイツで徹底したフェミニストっぷりだ。


「ところで君、名前は?」

「ゆず……」

「こいつの名前はゆず、俺はリクだ」


渋々握手を交わして名乗りかけた譲を制して、俺は一歩前に出る。「ゆずる」だと男っぽすぎるから、とりあえず今は「ゆず」でいいよな。はからずも可愛い感じの名前になったし。


「そうか、俺はリスト。良ければ君も町の外への冒険の時には呼んでくれ。まだこの周辺は開拓途中で危険な魔物も多いからね」

「助かるよ。俺たちこの村に来たばかりで、まだ何も分からないんだ。よろしくな」


リストは急にしゃしゃり出てきた俺に嫌な顔をすることもなく、愛想よく笑って俺にも握手を求めてきた。こいつ性格もイケメンなんだよな、若干キザで腹黒いとこもあるけど。

爽やかに去っていくリストを見送りつつ、俺はにんまりとした笑いを抑えられなかった。

だってさ。

ふつう男主人公ならリストを雇えるのって一週間も後なんだぜ? なんか裏技発見したみたいで嬉しいっつうか。


「……おい、そろそろ説明してもらおうか」


感慨にふけっていたら、隣から怒りを抑えているのが丸わかりの、くぐもった声が聞こえてきた。嫌な事を無理矢理やらせたから、かなりご立腹のようだ。

ギルドへ向かう道すがら、俺は立てた仮説を譲に全て話してみた。


「は!? ゲームの世界? ここが?」


ゲームの主人公になっているなんて、バカな事言うなと軽く一発殴られるかと思ったけど、さすがに自分が女になっている異常事態が効いているのか、譲はおおむね大人しく俺の話を聞いてくれている。

ほんと、こうして黙ってると可愛いんだけどな。


「よりによってゲームかよ……シミュレーションゲーム? ってなんだっけ。ゲームとかタルいからあんまやった事ねぇし、ワケ分かんねぇよ」


譲が途方に暮れたようにつぶやいた。
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