上 下
119 / 144

魚人さんたちが言うことには

しおりを挟む
と言ってもお母さんはあたし達の言葉はわかっても、人語を話すことはできないらしくて、間にお父さんを挟んでの二段構えの通訳だから、意思疎通自体は時間がかかる。

それでも、目的が一緒だったのが良かったんだろう。

この海で暴れてるヤツをなんとかしたい。

あたし達も、鳥人さん達も、魚人さん達も、思いはひとつだ。

魚人さん達のギャっとかキューとかグガグゴ言ってるようにしか聞こえない言葉をお母さんがクアッ、クルルル……と通訳してくれたところによると、船が転覆した時はやっぱり海のなかも荒れに荒れていたらしい。

嵐がおこると当然海も荒れるけれど、普通は潮の流れが早くなって、かき回されるように不規則な海流になるんだって。でも、今日は違った。

普通に天気の良い朝だったこともあって、魚人さんたちの多くは日が昇る前から海に潜っていた。食事を確保するためでもあるけれど、働いている船が出航できずにいるものだから、退屈しのぎに海底を散歩していたっていうから優雅な話だ。

港の近くだからまだそんなに水深も深くなくて、太陽の光が頭上にゆらゆらと揺らめいて見える穏やかな海だったのに。

なんの前触れもなく、急激に潮目が変わったかと思うと渦を巻いて荒れ始めた。

この近海で巨大な渦が発生するだなんて魚人さんたちも初めてのことだ。海底ののんびり散歩を楽しんでいた四人の魚人さんたちは恐れおののいて岸の方へ向かって一斉に逃げる。

その時。水に新たな振動が加わった。

恐れつつ上をみたら、もがく数人の人影が見える。そこには船から投げ出され、渦巻く潮の流れにもまれてなすすべもない漁師たちの姿があった。


「そんな荒れた海の中、あいつらを助けてくれたんだなぁ、ありがとうな」


感動したらしいお兄さんが涙ぐんでお礼を言う横で、リカルド様は難しい顔で何かを考え込んでいた。


「……渦は自然発生したんだろうか、あるいは渦を発生させている魔物がいるのか」


リカルド様のつぶやきに、あたしも同意だ。だって確かに違和感を感じるよね。これまで発生したことがないのに、急に渦が巻くだなんて。


「わからない、と言っている。彼らも渦がなぜ発生したのかわからないそうだ。発生が急な上に大規模すぎるから自然発生はあり得ない、だが魔物も見ていないんだと言っている」

「本当に水龍って関係なかったんですね」

「ああ、水龍というからには大きなものなんだろうし、今回の件に関係しているならば姿が見えないというのは理屈にあわないだろうな」

「水龍は関係ないらしいぞ。水龍も海が荒れることに迷惑してるんだとさ」
しおりを挟む
感想 83

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します

シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。 両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。 その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。

処理中です...