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首席騎士様は、状況を見守る④
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水の壁に阻まれて行く先を失った炎を尻目に、手紙たちは小鳥のようにあっという間に飛び去っていく。
通風孔に飛び込んでしまえば、もう手紙の姿は見えない。絶望的な表情でそれを見送った学年主任は、がっくりと膝をついた。
「諦めな。往生際が悪いぜ」
突然近くでこれまでとは違う声が聞こえてビクッとする。目の前に、いきなり人影が舞い降りた。
見れば、ついさっきまで復旧作業のために広い闘技場のあちらこちらにばらけていた先生たちの姿が、次々とかき消えてはあたし達のすぐ近くへと現れる。
風の力を借りたようにふわりと舞い上がったかと思えば、ふんわりと着地する先生。
速度を操っているのか、闘技場の向こうに残像が残っているうちにスゴイ勢いで走ってきた先生。
杖で床を強く打ってその反動で一気に間を詰めてきた先生もいれば、地を走る土に乗って、作り出した波に乗って移動する先生もいる。
各々が、自分の得意な魔法を使って瞬時に集まってくる様は圧巻だった。
明らかに姿が消えて、次の瞬間には目の前に立っていた先生もいたけど、リカルド様みたいな現れ方だったから、これはきっと転移だよね。そういえばリカルド様、分からないところは先生に習ったって言ってたもの、そりゃあ転移が扱える先生だっているだろう。
先生たちの魔法に圧倒されて見とれていたら、いつのまにか先生たちはがっちりとした陣形を組んでいた。
防御系に優れた先生方があたしとリカルド様、そして学長の周りを固めているし、魔術師なのにマッチョな筋力強化魔法の先生ふたりは威圧感たっぷりの仁王立ちで学年主任を見下ろしている。
そしてそれを囲むように、他の先生方が等間隔で円を描いて杖を構えていた。
「な、なんだ貴様ら……」
さすがにこれだけの数に囲まれると、いつも居丈高な学年主任でも怖いのかしら。怯えた目でマッチョ先生たちを見上げている。
その横を、二つの白いものがヒュッと通り過ぎた。
「え? 手紙?」
さっき飛び立っていったのとそっくりな手紙が、今度は外から飛んできたんだけど。
「おお、戻ったか」
小鳥がとまるように、可愛く羽ばたいてから学長の手にふわりと舞い降りたお手紙は、自ら封をとき、便せんへと形を変える。文面に目を通したらしい学長は、ゆっくりと頷いてから学年主任の方へ向き直った。
「王家、そしてユルグス宗家の当主……君の父上も、返事は『諾』だ」
「……!」
「君の懲戒免職はこれで正式な決定事項となった」
学長の言葉を聞いた瞬間、マッチョ先生たちが学年主任の腕を引いて両側から持ち上げる。
「決定ですね。じゃあ、学園の外に捨ててきます」
さらっと酷いことを言いながら、マッチョ先生たちは学年主任を持ち上げたままあっという間に闘技場から出て行ってしまった。学年主任のわめき声もどんどん小さくなって、なんだか訳が分からないうちにすべてが終わってしまった気がする。
「さて、ユーリン君」
「はい!?」
急に学長に呼ばれて、あたしの背中はシャキン! と伸びた。
通風孔に飛び込んでしまえば、もう手紙の姿は見えない。絶望的な表情でそれを見送った学年主任は、がっくりと膝をついた。
「諦めな。往生際が悪いぜ」
突然近くでこれまでとは違う声が聞こえてビクッとする。目の前に、いきなり人影が舞い降りた。
見れば、ついさっきまで復旧作業のために広い闘技場のあちらこちらにばらけていた先生たちの姿が、次々とかき消えてはあたし達のすぐ近くへと現れる。
風の力を借りたようにふわりと舞い上がったかと思えば、ふんわりと着地する先生。
速度を操っているのか、闘技場の向こうに残像が残っているうちにスゴイ勢いで走ってきた先生。
杖で床を強く打ってその反動で一気に間を詰めてきた先生もいれば、地を走る土に乗って、作り出した波に乗って移動する先生もいる。
各々が、自分の得意な魔法を使って瞬時に集まってくる様は圧巻だった。
明らかに姿が消えて、次の瞬間には目の前に立っていた先生もいたけど、リカルド様みたいな現れ方だったから、これはきっと転移だよね。そういえばリカルド様、分からないところは先生に習ったって言ってたもの、そりゃあ転移が扱える先生だっているだろう。
先生たちの魔法に圧倒されて見とれていたら、いつのまにか先生たちはがっちりとした陣形を組んでいた。
防御系に優れた先生方があたしとリカルド様、そして学長の周りを固めているし、魔術師なのにマッチョな筋力強化魔法の先生ふたりは威圧感たっぷりの仁王立ちで学年主任を見下ろしている。
そしてそれを囲むように、他の先生方が等間隔で円を描いて杖を構えていた。
「な、なんだ貴様ら……」
さすがにこれだけの数に囲まれると、いつも居丈高な学年主任でも怖いのかしら。怯えた目でマッチョ先生たちを見上げている。
その横を、二つの白いものがヒュッと通り過ぎた。
「え? 手紙?」
さっき飛び立っていったのとそっくりな手紙が、今度は外から飛んできたんだけど。
「おお、戻ったか」
小鳥がとまるように、可愛く羽ばたいてから学長の手にふわりと舞い降りたお手紙は、自ら封をとき、便せんへと形を変える。文面に目を通したらしい学長は、ゆっくりと頷いてから学年主任の方へ向き直った。
「王家、そしてユルグス宗家の当主……君の父上も、返事は『諾』だ」
「……!」
「君の懲戒免職はこれで正式な決定事項となった」
学長の言葉を聞いた瞬間、マッチョ先生たちが学年主任の腕を引いて両側から持ち上げる。
「決定ですね。じゃあ、学園の外に捨ててきます」
さらっと酷いことを言いながら、マッチョ先生たちは学年主任を持ち上げたままあっという間に闘技場から出て行ってしまった。学年主任のわめき声もどんどん小さくなって、なんだか訳が分からないうちにすべてが終わってしまった気がする。
「さて、ユーリン君」
「はい!?」
急に学長に呼ばれて、あたしの背中はシャキン! と伸びた。
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