13 / 144
首席騎士様は、出来た人だ
しおりを挟む
嬉しくなって、あたしはいそいそと焚火の傍に歩み寄る。
「まだ全然できてないですけど、ちゃんとお水のもとも携行食もあるし、携帯用のコップとかお鍋とかもあるんで、すぐに準備しますね」
「ああ」
そう返事はしてくれたものの、首席騎士様は何かを考え込むように僅かに視線を泳がせる。
「? どうかしました?」
「いや、それはいざという時に取っておいた方がいいだろう。水は俺が出す」
さすがに首席騎士様だ。軽ーく呪文を唱えただけで、コップどころかお鍋も水筒の中身もいっぱいになるくらい水を作り出してくれた。
しかも、さっきメタメタにやっつけた魔物からさくっとお肉を切り出して、「肉はこれを使ってくれ」と差し出される。
なんという頼りになるお方。
あたしが塩胡椒して焼くだけ、というワイルド感あふれるお食事を作って、葉っぱを編みこんだお皿にベリーや乾燥野菜をもどしたものを盛り付けている間に、首席騎士様は太っとい木の枝を叩き切って薪を造り、余った魔物の肉を干しておける干場まで作ってしまった。
「うわぁ、すごい!」
思わず感嘆の声もでようってもんだ。
「食事を作って貰っているから、これくらいは」
真顔でそんな事をいう首席騎士様。なんてこった、本当に性格のいい人だった。
怖そうっていうのは、本当にイメージだけだったんだなぁ。
偉ぶるわけでもなく、なおも色々とやってくれようとしてくれる首席騎士様を、あたしは無理やり焚火の前に座らせた。
「もういいですから! あんまり色々やられちゃうと、首席騎士様が出かけちゃった後、あたしがやれることがなくなっちゃいますから!」
「そ、そうか」
「そうです! もう、座って食べちゃってください」
「わかった。……ああ、これは華やかだな」
食卓を見て、褒めてくれた。食卓って言っても、石を積んでその上に首席騎士様が切ってくれた丸太を何本か並べたヤツなんだけどね。
葉を編んで作ったお皿に盛られた料理を言葉少なに褒めてくれて、あたしの世間話にも小さく頷きながら付き合ってくれる。
首席騎士様から何か話題をふってくれることはないけれど、その穏やかなたたずまいはあたしを落ち着かせてくれた。討伐演習でパートナーが首席騎士様だと分かってからずっと、緊張しっぱなしだった気持ちが、ゆっくりとほぐれていくのが自分でもわかる。
「首席騎士様って、優しいんですね」
つい、素直な気持ちが口から飛び出た。すると、首席騎士様は意味がわからないとでも言いたげな顔でぽかんと口を開けている。
「本当だったら、成績上位者から順にパートナーが組まれるはずなのに、あたしみたいな落ちこぼれと演習だなんて、もっと嫌がられると思ってました。それに、早速迷惑かけちゃったし」
「いや、別に迷惑ではないが」
そう、そうやって気にした様子もなく振舞ってくれることがどんなにありがたいか。
「むしろ泣かせてしまったのに、優しいと言われても」
なのに首席騎士様は、小さくそんなことを呟いて、ちょっと悲しそうな顔で目を伏せてしまった。
「まだ全然できてないですけど、ちゃんとお水のもとも携行食もあるし、携帯用のコップとかお鍋とかもあるんで、すぐに準備しますね」
「ああ」
そう返事はしてくれたものの、首席騎士様は何かを考え込むように僅かに視線を泳がせる。
「? どうかしました?」
「いや、それはいざという時に取っておいた方がいいだろう。水は俺が出す」
さすがに首席騎士様だ。軽ーく呪文を唱えただけで、コップどころかお鍋も水筒の中身もいっぱいになるくらい水を作り出してくれた。
しかも、さっきメタメタにやっつけた魔物からさくっとお肉を切り出して、「肉はこれを使ってくれ」と差し出される。
なんという頼りになるお方。
あたしが塩胡椒して焼くだけ、というワイルド感あふれるお食事を作って、葉っぱを編みこんだお皿にベリーや乾燥野菜をもどしたものを盛り付けている間に、首席騎士様は太っとい木の枝を叩き切って薪を造り、余った魔物の肉を干しておける干場まで作ってしまった。
「うわぁ、すごい!」
思わず感嘆の声もでようってもんだ。
「食事を作って貰っているから、これくらいは」
真顔でそんな事をいう首席騎士様。なんてこった、本当に性格のいい人だった。
怖そうっていうのは、本当にイメージだけだったんだなぁ。
偉ぶるわけでもなく、なおも色々とやってくれようとしてくれる首席騎士様を、あたしは無理やり焚火の前に座らせた。
「もういいですから! あんまり色々やられちゃうと、首席騎士様が出かけちゃった後、あたしがやれることがなくなっちゃいますから!」
「そ、そうか」
「そうです! もう、座って食べちゃってください」
「わかった。……ああ、これは華やかだな」
食卓を見て、褒めてくれた。食卓って言っても、石を積んでその上に首席騎士様が切ってくれた丸太を何本か並べたヤツなんだけどね。
葉を編んで作ったお皿に盛られた料理を言葉少なに褒めてくれて、あたしの世間話にも小さく頷きながら付き合ってくれる。
首席騎士様から何か話題をふってくれることはないけれど、その穏やかなたたずまいはあたしを落ち着かせてくれた。討伐演習でパートナーが首席騎士様だと分かってからずっと、緊張しっぱなしだった気持ちが、ゆっくりとほぐれていくのが自分でもわかる。
「首席騎士様って、優しいんですね」
つい、素直な気持ちが口から飛び出た。すると、首席騎士様は意味がわからないとでも言いたげな顔でぽかんと口を開けている。
「本当だったら、成績上位者から順にパートナーが組まれるはずなのに、あたしみたいな落ちこぼれと演習だなんて、もっと嫌がられると思ってました。それに、早速迷惑かけちゃったし」
「いや、別に迷惑ではないが」
そう、そうやって気にした様子もなく振舞ってくれることがどんなにありがたいか。
「むしろ泣かせてしまったのに、優しいと言われても」
なのに首席騎士様は、小さくそんなことを呟いて、ちょっと悲しそうな顔で目を伏せてしまった。
0
お気に入りに追加
1,446
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜
川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。
前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。
恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。
だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。
そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。
「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」
レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。
実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。
女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。
過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。
二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる