魔法学校の無敵の首席騎士様は、ちょっとコミュ障、大型わんこ系でした

真弓りの

文字の大きさ
上 下
2 / 144

首席騎士様は、威圧感がハンパない……!

しおりを挟む
いやいやいやいや、でもそれって、あり得ないのでは。

だって春の討伐演習のパートナーって、成績上位者から順に組んでいくんだって、先生が言ってたんだもん。

成績のいい人にとってはおさらいみたいに簡単で、あたしたちみたいな下位成績を収めるようなアホは命を張ってレベルアップを図るんだって……そう聞いてたんだもん。

首席騎士様があたしのパートナーって、どう考えても無理がない?

混乱しまくりなあたしの目に、その時、不思議な光景が映し出される。

目の前の雑踏が、さあっと見る間に分かれていく。突然開けた空間の先には、首席騎士様、その人がいた。

あたしとは真逆の万年首席、しかも代々この国の剣とまで呼ばれる名高い騎士の家系に生まれ、魔法だけでなく剣技も得意なゆえに『首席騎士様』と呼ばれる彼は、深い紺の髪に狼のように鋭い視線と仏頂面。

もちろん体格にだって恵まれている。180cmを超えるような長身に、しっかりと筋肉も纏っている魔術師らしからぬ立派な体躯からは、威圧感がビンビンに漂っていた。

ひええ、怖いよう。


「……君が、ユーリン・サクレスか?」


低い落ち着いた声があたしを呼ぶ。

とりあえずあたしは、コクコクと人形みたいに首を縦に動かす事しかできなかった。だって話したことも無いし、首席騎士様は元々が無口な人だから、雑談しているのさえ聞いたことがない。

学年トップの首席騎士様が、万年最下位のあたしとペアだなんて、絶対怒ってるに決まってるもの……!

恐る恐る見上げたら、真っ青で爽やかな空を背景にした、首席騎士様の仏頂面が見えた。

彼の人のピクリとも動かない表情筋からは、何を考えているのかどころか、怒ってるのか呆れてるのか絶望してるのかすら推しはかる事ができない。それが余計の怖かった。


「今回の演習では、君が俺のパートナーらしい。よろしく頼む」

「は、はい!」

「これから演習の説明があるようだが」

「はい!」


もう「はい」しか言えない。

言外についてくるように促されて、あたしはちょこまかと首席騎士様の後に続く。


「頑張れよー!」


ナオルの完全に面白がっている声援を背に受けながら、あたしは黙々と首席騎士様の後について歩いた。やっぱりさぁ、首席ともなると、説明も最前列で聞こうとか思うのね。あたしなんかもう、できれば目立たない端っこでって思うのに。

そんな小さなことにすら、ちょっとしたギャップを感じてしまう。演習の説明が始まるまでの僅かな間、あたしは、真っ直ぐに前だけを見ている首席騎士様をこっそりと見上げていた。

首席騎士様のことで知っていることなんてわずかだけれど、それでも演習が始まるまでに少しでも思い出して、ちょっとでも足手まといにならないように、彼が心地よく過ごせるように尽力したい……そう思った。


そう、思ったんだけどね!


現実ってのは残酷だよ。

長い長い演習における注意事項だの禁止事項だの、ありがたい校長のお話だの、鼓舞するための学年主任のお話だの、さまざま聞いてぐったりしたところで、やっと演習に出ようとしたのにさ。

あたしと首席騎士様をわざわざ呼び止めて、学年主任の先生はこう仰った。


「ユーリン・サクレス、君はハンデだ」
しおりを挟む
感想 83

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる

Mee.
恋愛
 王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。  森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。  オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。  行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。  そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。 ※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

公爵夫人アリアの華麗なるダブルワーク〜秘密の隠し部屋からお届けいたします〜

白猫
恋愛
主人公アリアとディカルト公爵家の当主であるルドルフは、政略結婚により結ばれた典型的な貴族の夫婦だった。 がしかし、5年ぶりに戦地から戻ったルドルフは敗戦国である隣国の平民イザベラを連れ帰る。城に戻ったルドルフからは目すら合わせてもらえないまま、本邸と別邸にわかれた別居生活が始まる。愛人なのかすら教えてもらえない女性の存在、そのイザベラから無駄に意識されるうちに、アリアは面倒臭さに頭を抱えるようになる。ある日、侍女から語られたイザベラに関する「推測」をきっかけに物語は大きく動き出す。 暗闇しかないトンネルのような現状から抜け出すには、ルドルフと離婚し公爵令嬢に戻るしかないと思っていたアリアだが、その「推測」にひと握りの可能性を見出したのだ。そして公爵邸にいながら自分を磨き、リスキリングに挑戦する。とにかく今あるものを使って、できるだけ抵抗しよう!そんなアリアを待っていたのは、思わぬ新しい人生と想像を上回る幸福であった。公爵夫人の反撃と挑戦の狼煙、いまここに高く打ち上げます! ➡️登場人物、国、背景など全て架空の100%フィクションです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

処理中です...