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聞き捨てならない話

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私達の迂闊な会話に、さすがに千尋様がツッコミを入れようとしたところを、すかさず絢香さんが逆質問で封じた。

さっきストーカーと罵られたせいか、絢香さんの返しに千尋様の背中がピクリと動く。足を踏み出して千尋様の顔を仰ぎ見れば、千尋様は思い出すように目を泳がせていた。


「たしか……一族率いて全面戦争、と言っていたようだが。穏やかじゃない話だ、あれはうちの一族を指しているのか?」


千尋様の言葉を聞いて、私は正直ちょっとほっとした。

そこからなら絢香さんが陰陽師だっていう話はたぶん終わっていた筈。

さすがにそこが知られると面倒なことになりそうだもの。ちらりと綾香さんを見たら、絢香さんも明らかにホッとした顔をしていた。

一方千尋様は、なおも口元に手をあて、思案気に眉根を寄せている。


「他にも妖狐一族は怖い、融通が利かなそう……だから俺にも出張って欲しくない、そう言っていたような」

「めっちゃ聞いてるじゃねえか」

「聞き捨てならない話だからな。だがそれは誤解だぞ」


千尋様は、さも心外だと言いたげに腕組みする。


「確かに我ら妖狐一族は、伝統や一族の掟を重んじる。融通が利かなそうだと言われれば、そういう面もあるかも知れない。しかし筋さえ通せば、友人や……大切な人の助けになることにやぶさかではないぞ」

「その筋を通すのが面倒なんだよなー」


小さな声で、絢香さんがひとりごちる。

だよねぇ、お屋形様が納得いくレベルで筋を通すの、ぶっちゃけ難しいと思うわ。


「……それに、別に一族まで動かさずとも、俺が手伝う分には問題ないだろう」

「そもそも一族動かしてもらおうなんて思ってねーよ。ぶっちゃけお前が単独で動いたとしても、そのうちお前の親父や周囲の奴らが、呼んでもいねえのにしゃしゃり出てきて面倒くせえことになりそうだってのがイヤなの」

「そんな大層なことになるような事をしでかそうとしているのか! ならばなおさら真白を関わらせるわけにはいかん!」


ぐいっと手を引っ張られたかと思ったら、一瞬で千尋様の背に庇われていた。千尋様の背中しか見えないけど、これは絢香さんがムカつきそうなパターンだなぁ。ケンカにならなきゃいいけど。


「てめぇなぁ」


あ、やっぱり。絢香さんの声、超不機嫌そう。


こそっと千尋様の背中から顔だけ出して覗いてみたら、絢香さんはゲンナリしたようにため息をついていた。


「……」


あ、絢香さんと目が合っちゃった。

に、睨まないでよ。私が悪いわけじゃないもん。
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