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ストーカー案件じゃねえかよ

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「いや、やめておこう。それより絢香、先ほどの話だが」

「いやいやいや、テメー勝手に人の部屋に入って来て、何普通に話進めようとしてんだ!」


絢香さんがベッドから勢いよく立ち上がりながら千尋様に詰め寄る。軽いファイティングポーズで、今にも殴りかかりそう。

さっきまでは千尋様の突然の登場にさすがに驚いていたのか、ぽかーんと口を開けたまま時が止まったように固まっていたというのに、ほんとうに威勢がいい人だなあ。


「お前ももっと怒れ! 男が部屋に勝手に入って来てるんだぞ!? ストーカー案件じゃねえかよ」

「まあそうなんだけどさ。だから言ったじゃん、絢香さんが来るともれなく千尋様も来ちゃうって」

「だから怒れって! お前がそんな風だからこのストーカー狐が調子に乗るんだぞ!」


そうかも知れないけど……と思いつつ千尋様を見上げてみれば、珍しくシュンとした情けない顔をしていた。

やだ、ちょっと萌える。


「すまない」


やめて、そんなあからさまにシュンとした顔しないで。そっと目を逸らして俯いたかんばせが美麗なことには定評があるのよ、千尋様ったら!

うんうん、悲しげに伏せた目……長い睫毛が麗しい。光を受けた白銀の髪がその横顔にサラリと落ちてきて、いやもうキラキラキラキラエフェクトでもかかったんじゃないかと思ったよ。

ここぞとばかりに穴があくんじゃないかってくらい見つめまくっていたら、目の前でいきなりパンッと手が打ち鳴らされた。

ハッとして見上げれば、うんざりしたような絢香さんの顔。


「アホ面で見惚れてるんじゃねーよ、この千尋オタク! 早速顔にだまされやがって」

「しょうがないじゃない。絢香さんだって真白ちゃんの涙目上目遣いスチルがあったら萌えるでしょ!」

「今まさに若干近いものを見てるけどな。中身がお前だと思うとなんだかなあ」


おのれ! 真白オタクめ。しかし言わんとする事は分かる。

真白ちゃんは千尋様に全力で怯えつつもなんとか良き妻になろうと必死で努力していた健気な娘だ。私もそんなところが好きだった。

あのいじらしい性格までは再現できないんだよ、ごめんね絢香さん。


「仲が良すぎる!」


私と絢香さんの間に割って入ってきた千尋様は、そのまま私を背中で隠すように絢香さんと向き合っている。


「さっきから何を言っているんだ、意味が分からない。頼むから俺にも分かるように話してくれ」

「あ、悪い、つい。って言うか千尋サマ、話の内容ってどこから聞いてた?」

「む……」
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