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愛らしいクダちゃん

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「千尋様も、雅様のお屋敷には近づかないでください」

「む? なぜだ」

なぜだと言われると……刺激して欲しくないからですが。そう言ってしまうわけにはいかない。


「あの、その、やっぱりその、心配ですし……」

「そうか!!!! 真白は優しいな!」


めちゃくちゃしどろもどろだったのに、私の言葉を素直に喜ぶ千尋様を見ると、なんかこう罪悪感がむくむくと湧き上がってくる。

ごめんなさい、千尋様。

なんとか千尋様にも「雅様のお屋敷には近づかない」という約束をして貰って、私はようやく安心して家路についた。


「ただいまー」

「おや、今日は早かったねえ」


暖簾をくぐって店に入ると、淡雪さんが極上の笑顔で出迎えてくれる。

うん、今日も妖艶。繊細な桜の柄が入った煙管がとてもお似合いだ。


「その顔は、何か手がかりが見つかったようだねえ」

「あ、分かります? でもちょっと厄介な事もあって……早速、絢香さんに連絡をとらないと」

「手に負えない事があったらちゃんと相談するんだよ?」

「はい、いざとなったらクダちゃんを派遣しますので!」


元気よくそう答えて、私は急いで自室がある二階へと急いだ。無理に聞き出そうとせず、ある程度こうして任せてくれる淡雪さんの心づかいがありがたい。

仕事を回してくれる淡雪さんの顔に泥を塗るわけにはいかないから、依頼が失敗するかしないかの瀬戸際になったら迷わず相談しよう。ただ、自分でできるところまでは頑張らないと。

自室にこもった私は、胸の前で手を組み、精神を集中する。周りの音が掻き消えて、目の前が白く穏やかな光に包まれたその時。


「きゅ?」


愛らしい、小さな鳴き声が耳をくすぐる。


「クダちゃん!」


両手の平を上に向ければ、その上にふんわりもふもふした小さな毛玉が落ちてきた。


「きゅう!」


ああ、この可愛いつぶらな瞳! 可憐な鳴き声! 私の使い魔、管狐のクダちゃんが長細い胴を精一杯に伸ばして私にすり寄ろうとしてくれているのがこれまた可愛い。


「あああ~~~……癒される……!」


ひとしきりなでなでし、もふもふとモフり、柔らかな毛皮を堪能してから、私はハッと我に返る。


「違う、違う。癒されてる場合じゃないんだった」


私の雰囲気が変わったのを察知してか、クダちゃんもピシッと背筋を伸ばす。


「クダちゃん、あのね。急で悪いんだけど、絢香さんに文を渡してきて欲しいの」

妹さんが雅様のお屋敷にいるかも知れない事、突撃したいけれど千尋様の監視が厳しくて難しいことなどの重要事項だけを手早く文にしたためて、クダちゃんの長い胴体にしっかりと結わえ付ける。
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