陽炎のような、恋をした

真弓りの

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この恋の終わり

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なんでもいい、何か会話をしたいのに、熱いものが込み上げてきて、口を開いたら泣いちゃいそう。私はただ、私を心配そうに見つめる彼の目に、なんとか微笑むことしかできなかった。


彼の手に縋りながら、ゆっくりと横断歩道を渡っていく。
永遠に続いて欲しいと願うけれど、その時間はあまりにも短くて。


横断歩道の端が近づいてくるのが恨めしかった。 


「無理しないで、そこに雰囲気のいい喫茶店があるんです。時間があるなら少しそこで休んだ方がいいかも」


知ってるわ、私そのカフェからいつもあなたを見てたの。あなたもあのカフェ、知ってたのね。保さんと共通の何かを思い浮かべる事が出来るなんて、本当に夢みたい。

彼から、本当に普通のいたわりの言葉があるのが、嬉しかった。私を心配そうに窺う瞳はとても澄んでいるように見える。貴方はいつも、こんな風に人を助けてきたんだね。

私、ずっと貴方に言いたかった事があるの。
何十年も、誰にも見えない所で誰にも感謝されず、ただ人を助け続けて来たあなたに。
やっと言える。これまでの思いが、胸から溢れた。


「ありがとう、貴方がいてくれて……本当に良かった」


彼は、息をのんで……本当に綺麗に笑った。
私がこれまでの何十年の間で見た中で、最高の笑顔だった。


「ありがとう」


何故か彼の口からも、そんな言葉がこぼれた。

どうして貴方がそれを言うんだろう。でも、それが何とも保さんらしくて私は思わず笑ってしまった。なのに、目からは涙が溢れて困ってしまう。だって貴方とこんなに普通に話せる日がくるなんて、思ったこともなかったから。


目の前で、彼の体を柔らかい光が包んで、彼の輪郭が光に溶けていく。


ああ、ついに保さんの心残りの全てが、解消されてしまったのだ。


彼の魂が、天に召されていく。
その顔はとても満たされていて、幸福感に満ちていた。


目が離せなくて、滝のように涙が溢れるまま、彼が光に溶けて行くのを見送った。


好きだったの。
貴方が本当に好きだったの。


私の心の中はあまりにも色々な感情が荒れ狂っていて、そこから先の記憶はない。気がついたら家にいて、周りにはありえないくらいのビールの缶が転がっていた。



それが、私の長い長い片想いの結末だった。

今でも、この交差点を通る度、私は無意識に彼の姿を探してしまう。
もう、彼はいないと分かっているのに……それでも、路上で揺らめく蜃気楼の中に、彼の面影を探す。

いつか、私のこの思いも、薄れていくのだろうか。 

彼が、光に溶けたように、この思いも……いつかは。
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