90 / 100
【SS】田所青年の憂鬱
しおりを挟む
この声、絶対男だろう。背もちょっとだけ俺より高いし喉仏あるし胸もないし!
ていうか誰? この超絶イケメンな外人さん? コスプレイヤー? どっちか分かんないけど、なんで俺の名前知ってんの???
俺の中で疑問符が渦巻き過ぎて声が出なかった。
エプロンしてるってことはもしやバイトか? アカリちゃん、なんちゅうクオリティのバイト入れてんの? ていうか俺、ロシア語はもちろん英語も話せないんだけど。
助けて、と思った瞬間、厨房の奥から勢いよく誰か飛び出してきた。
「あっ、すみません田所さん!」
「あ、アカリちゃん!」
救いの神が!
「この人誰? 新しいバイト? イケメン過ぎない?」
「え、えっと……」
思わず矢継ぎ早に聞いてしまってアカリちゃんを困らせてしまった。
「驚かせてしまってすみません。私はナフュールと申します。今日はアカリに無理を言って、店の手伝いをさせてもらったのですよ」
「えっ、あっ、日本語……上手っすね……」
どう見ても異国の顔から発される流ちょうな日本語にこっちが戸惑ってしまった。
「俺、田所伸也です。あ、名刺……」
「大丈夫です。名刺、多分分からないので」
名刺を渡そうとしたらアカリちゃんにやんわり止められた。そんなところは外人さんっぽいのか。今ひとつわからん。色んな衝撃が抜けきれなくて呆けたようにナフュールさんを見たら、視線を感じたのか彼が俺を見てにっこりと笑った。
美形が眩しい。
「タドコロサン、アカリがいつもお世話になっています」
「え、あ、いや。俺の方が世話になってる方なんで……っていうか、あれ?」
今、アカリがお世話になって……って言った? なにその身内感。いやいや、どう考えてもアカリちゃんと親戚とは思えないんだけど。
「ちょっと待って。ナフュールさんて、アカリちゃんとどういう関係……?」
恐る恐るアカリちゃんにそう尋ねた俺に、ナフュールさんの方から爆弾発言が飛び出した。
「私はアカリの伴侶です」
「はんりょ……伴侶って、あの伴侶!? えっ、旦那様ってこと!?」
「は、はい。まだ結婚してないですけど……近いうちに」
「えっ、もしかしてこの人、あの二度と会えないって言ってた人……?」
「なぜかその、会えちゃいまして」
アカリちゃんが真っ赤になってほっぺたを両手でおさえる。湯気が出そう。可愛い。
そして、そんなアカリちゃんを見つめるナフュールさんを見た瞬間、俺は悟った。
あ、こりゃ無理だわ……。
この神々しい美形に勝てる気がしない。
アカリちゃんは「何百回もフラれた」なんて言ってたけど、絶対に嘘だ。だってこのナフュールさんとやら、アカリちゃんを見る眼差しがもう、『好き』で溢れてるし。
愛おしそうに見つめる、ってこういう時に使うんだなぁ……なんて要らぬ発見をしてしまったじゃないか。
ちくしょう。相手が強すぎて悔しい気持ちすら浮かんでこないんだが。
「これからは時々こうしてお店の手伝いに立とうと思いますので、よろしくお願いします」
窓から差し込む朝日の中でにっこり微笑むナフュールさんは、プラチナ色の髪がきらきらと煌めいて神々しい美しさだ。
もう人外だろう、これ。
「よろしく……」
毒気も抜かれて、俺はすごすごといつものテーブルにつく。
ちぇ、絶対に俺の方がお似合いだと思うのになぁ。
悔し紛れにそう思ってみたけれど、アカリちゃんはまだ頬が熱いのか両手で頬っぺたをおさえたまま逃げるように厨房に戻っていって……その後ろ姿を見ていたら、なんだかこれでいいような気がしてきた。
この前はアカリちゃん、あいつの話をしてた時、すごく寂しそうだった。今のアカリちゃんはこっちが照れるくらいに幸せそうだ。
そう、きっと、これで良かった。
「良かったね、アカリちゃん」
アカリちゃんが運んできてくれた朝食のプレートを、俺はなんとか笑顔で受け取った。
終
ていうか誰? この超絶イケメンな外人さん? コスプレイヤー? どっちか分かんないけど、なんで俺の名前知ってんの???
俺の中で疑問符が渦巻き過ぎて声が出なかった。
エプロンしてるってことはもしやバイトか? アカリちゃん、なんちゅうクオリティのバイト入れてんの? ていうか俺、ロシア語はもちろん英語も話せないんだけど。
助けて、と思った瞬間、厨房の奥から勢いよく誰か飛び出してきた。
「あっ、すみません田所さん!」
「あ、アカリちゃん!」
救いの神が!
「この人誰? 新しいバイト? イケメン過ぎない?」
「え、えっと……」
思わず矢継ぎ早に聞いてしまってアカリちゃんを困らせてしまった。
「驚かせてしまってすみません。私はナフュールと申します。今日はアカリに無理を言って、店の手伝いをさせてもらったのですよ」
「えっ、あっ、日本語……上手っすね……」
どう見ても異国の顔から発される流ちょうな日本語にこっちが戸惑ってしまった。
「俺、田所伸也です。あ、名刺……」
「大丈夫です。名刺、多分分からないので」
名刺を渡そうとしたらアカリちゃんにやんわり止められた。そんなところは外人さんっぽいのか。今ひとつわからん。色んな衝撃が抜けきれなくて呆けたようにナフュールさんを見たら、視線を感じたのか彼が俺を見てにっこりと笑った。
美形が眩しい。
「タドコロサン、アカリがいつもお世話になっています」
「え、あ、いや。俺の方が世話になってる方なんで……っていうか、あれ?」
今、アカリがお世話になって……って言った? なにその身内感。いやいや、どう考えてもアカリちゃんと親戚とは思えないんだけど。
「ちょっと待って。ナフュールさんて、アカリちゃんとどういう関係……?」
恐る恐るアカリちゃんにそう尋ねた俺に、ナフュールさんの方から爆弾発言が飛び出した。
「私はアカリの伴侶です」
「はんりょ……伴侶って、あの伴侶!? えっ、旦那様ってこと!?」
「は、はい。まだ結婚してないですけど……近いうちに」
「えっ、もしかしてこの人、あの二度と会えないって言ってた人……?」
「なぜかその、会えちゃいまして」
アカリちゃんが真っ赤になってほっぺたを両手でおさえる。湯気が出そう。可愛い。
そして、そんなアカリちゃんを見つめるナフュールさんを見た瞬間、俺は悟った。
あ、こりゃ無理だわ……。
この神々しい美形に勝てる気がしない。
アカリちゃんは「何百回もフラれた」なんて言ってたけど、絶対に嘘だ。だってこのナフュールさんとやら、アカリちゃんを見る眼差しがもう、『好き』で溢れてるし。
愛おしそうに見つめる、ってこういう時に使うんだなぁ……なんて要らぬ発見をしてしまったじゃないか。
ちくしょう。相手が強すぎて悔しい気持ちすら浮かんでこないんだが。
「これからは時々こうしてお店の手伝いに立とうと思いますので、よろしくお願いします」
窓から差し込む朝日の中でにっこり微笑むナフュールさんは、プラチナ色の髪がきらきらと煌めいて神々しい美しさだ。
もう人外だろう、これ。
「よろしく……」
毒気も抜かれて、俺はすごすごといつものテーブルにつく。
ちぇ、絶対に俺の方がお似合いだと思うのになぁ。
悔し紛れにそう思ってみたけれど、アカリちゃんはまだ頬が熱いのか両手で頬っぺたをおさえたまま逃げるように厨房に戻っていって……その後ろ姿を見ていたら、なんだかこれでいいような気がしてきた。
この前はアカリちゃん、あいつの話をしてた時、すごく寂しそうだった。今のアカリちゃんはこっちが照れるくらいに幸せそうだ。
そう、きっと、これで良かった。
「良かったね、アカリちゃん」
アカリちゃんが運んできてくれた朝食のプレートを、俺はなんとか笑顔で受け取った。
終
21
お気に入りに追加
2,750
あなたにおすすめの小説
はずれの聖女
おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。
一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。
シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。
『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。
だがある日、アーノルドに想い人がいると知り……
しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。
なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。
【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない
天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。
だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!
吉野屋
恋愛
母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、
潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。
美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。
母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。
(完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)
【完結】見た目がゴリラの美人令嬢は、女嫌い聖騎士団長と契約結婚できたので温かい家庭を築きます
三矢さくら
恋愛
【完結しました】鏡に映る、自分の目で見る姿は超絶美人のアリエラ・グリュンバウワーは侯爵令嬢。
だけど、他人の目にはなぜか「ゴリラ」に映るらしい。
原因は不明で、誰からも《本当の姿》は見てもらえない。外見に難がある子供として、優しい両親の配慮から領地に隔離されて育った。
煌びやかな王都や外の世界に憧れつつも、環境を受け入れていたアリエラ。
そんなアリエラに突然、縁談が舞い込む。
女嫌いで有名な聖騎士団長マルティン・ヴァイスに嫁を取らせたい国王が、アリエラの噂を聞き付けたのだ。
内密に対面したところ、マルティンはアリエラの《本当の姿》を見抜いて...。
《自分で見る自分と、他人の目に映る自分が違う侯爵令嬢が《本当の姿》を見てくれる聖騎士団長と巡り会い、やがて心を通わせあい、結ばれる、笑いあり涙ありバトルありのちょっと不思議な恋愛ファンタジー作品》
【物語構成】
*1・2話:プロローグ
*2~19話:契約結婚編
*20~25話:新婚旅行編
*26~37話:魔王討伐編
*最終話:エピローグ
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚
mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。
王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。
数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ!
自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる