42 / 100
なんと……いうことでしょう
しおりを挟む
見た目貧弱な私が馬を駆り一人で旅をするものですから、野盗の挑戦は避けられません。
しかし私も伊達に聖女の旅に同行したわけでもありません。魔物と戦うのはコールマンとユーリーン姫が主ではありましたが、当然私も腕に覚えがあります。
魔物に比べれば人である野盗の動きは緩慢ですから、束になってかかってこられても恐れるほどではありません。野盗をなんなく撃退し、軽い食事もしっかりとって星空を眺めながら眠りに落ちようとした時、目の前にふわりと白い鳥が舞い降りました。
「おや、こんなところまで……あなたも大変ですね」
手を出すと体をすり寄せてくれる愛らしい鳥に、ついねぎらいの言葉をかけていました。ユーリーン姫が放ったのであろうその鳥に、乾物で申し訳ないのですが小さな果物を与えます。水と果物を美味しそうについばんでいる姿は、私に安らぎを与えてくれました。
「私も今日はもう寝ますから、今夜はあなたもゆっくり休んでください」
そっと撫でると、私の言葉を理解してくれたのか、嬉しそうにピイ♪ と鳴いて、羽に顔を埋めます。ずっと飛びっぱなしだったのでしょう、疲れた羽を少しでも休めて欲しいものです。
鳥が眠りに落ちる可愛らしい様子を見ながら、私は姫に書をしたためました。
きっと心配しているであろう姫に伝えるべく、元気で旅をしていること、次に向かうアンズポトについて入手している情報などを書き連ねます。
まだ現状を目にしてはいませんが、川が氾濫したのであれば、街の方々の被害は甚大でしょう。国の支援も受けられた方がいいに違いありません。
北の街とは行き来もできないという噂についても触れておきます。すでに王家のもつ情報網にものっているかも知れませんが、知りうる限りを書き込んで、小さく書を折りたたみます。
この書を運ぶこの白い鳥の負担が少しでも軽くなるように。
翌朝私の書を携えて、白い鳥は飛び立っていきました。その小さな姿を見送って、私もまた馬を駆って走りだしました。
一刻も早く街に辿り着いて、復旧にあたりたい。
災害が起こってからもう数日が経っています。水は引いたでしょうが、水に濡れた家財道具の処分や家の掃除など、普通に暮らせるようにするだけでも大きな負担だろうと想像できます。水害のあとには疫病が蔓延することも多い筈です。
むしろ奇跡の力よりも、私の神聖魔法の方が活躍するかも知れません。
野盗を撃退しつつ進み、夜は馬を休め聖杖を眺めアカリの笑顔を思いながら眠りに落ちる。そんな日々を繰り返しているうちに、やがて目指す街が見えてきました。
「なんと……いうことでしょう」
それきり、私は言葉を失いました。
しかし私も伊達に聖女の旅に同行したわけでもありません。魔物と戦うのはコールマンとユーリーン姫が主ではありましたが、当然私も腕に覚えがあります。
魔物に比べれば人である野盗の動きは緩慢ですから、束になってかかってこられても恐れるほどではありません。野盗をなんなく撃退し、軽い食事もしっかりとって星空を眺めながら眠りに落ちようとした時、目の前にふわりと白い鳥が舞い降りました。
「おや、こんなところまで……あなたも大変ですね」
手を出すと体をすり寄せてくれる愛らしい鳥に、ついねぎらいの言葉をかけていました。ユーリーン姫が放ったのであろうその鳥に、乾物で申し訳ないのですが小さな果物を与えます。水と果物を美味しそうについばんでいる姿は、私に安らぎを与えてくれました。
「私も今日はもう寝ますから、今夜はあなたもゆっくり休んでください」
そっと撫でると、私の言葉を理解してくれたのか、嬉しそうにピイ♪ と鳴いて、羽に顔を埋めます。ずっと飛びっぱなしだったのでしょう、疲れた羽を少しでも休めて欲しいものです。
鳥が眠りに落ちる可愛らしい様子を見ながら、私は姫に書をしたためました。
きっと心配しているであろう姫に伝えるべく、元気で旅をしていること、次に向かうアンズポトについて入手している情報などを書き連ねます。
まだ現状を目にしてはいませんが、川が氾濫したのであれば、街の方々の被害は甚大でしょう。国の支援も受けられた方がいいに違いありません。
北の街とは行き来もできないという噂についても触れておきます。すでに王家のもつ情報網にものっているかも知れませんが、知りうる限りを書き込んで、小さく書を折りたたみます。
この書を運ぶこの白い鳥の負担が少しでも軽くなるように。
翌朝私の書を携えて、白い鳥は飛び立っていきました。その小さな姿を見送って、私もまた馬を駆って走りだしました。
一刻も早く街に辿り着いて、復旧にあたりたい。
災害が起こってからもう数日が経っています。水は引いたでしょうが、水に濡れた家財道具の処分や家の掃除など、普通に暮らせるようにするだけでも大きな負担だろうと想像できます。水害のあとには疫病が蔓延することも多い筈です。
むしろ奇跡の力よりも、私の神聖魔法の方が活躍するかも知れません。
野盗を撃退しつつ進み、夜は馬を休め聖杖を眺めアカリの笑顔を思いながら眠りに落ちる。そんな日々を繰り返しているうちに、やがて目指す街が見えてきました。
「なんと……いうことでしょう」
それきり、私は言葉を失いました。
21
お気に入りに追加
2,750
あなたにおすすめの小説
はずれの聖女
おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。
一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。
シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。
『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。
だがある日、アーノルドに想い人がいると知り……
しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。
なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。
【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない
天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。
だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!
吉野屋
恋愛
母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、
潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。
美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。
母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。
(完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
【完結】見た目がゴリラの美人令嬢は、女嫌い聖騎士団長と契約結婚できたので温かい家庭を築きます
三矢さくら
恋愛
【完結しました】鏡に映る、自分の目で見る姿は超絶美人のアリエラ・グリュンバウワーは侯爵令嬢。
だけど、他人の目にはなぜか「ゴリラ」に映るらしい。
原因は不明で、誰からも《本当の姿》は見てもらえない。外見に難がある子供として、優しい両親の配慮から領地に隔離されて育った。
煌びやかな王都や外の世界に憧れつつも、環境を受け入れていたアリエラ。
そんなアリエラに突然、縁談が舞い込む。
女嫌いで有名な聖騎士団長マルティン・ヴァイスに嫁を取らせたい国王が、アリエラの噂を聞き付けたのだ。
内密に対面したところ、マルティンはアリエラの《本当の姿》を見抜いて...。
《自分で見る自分と、他人の目に映る自分が違う侯爵令嬢が《本当の姿》を見てくれる聖騎士団長と巡り会い、やがて心を通わせあい、結ばれる、笑いあり涙ありバトルありのちょっと不思議な恋愛ファンタジー作品》
【物語構成】
*1・2話:プロローグ
*2~19話:契約結婚編
*20~25話:新婚旅行編
*26~37話:魔王討伐編
*最終話:エピローグ
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる