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私は別れを決意した

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ああやって幸せそうな恋人達を見ると、嬉しい気持ちの一方で一抹の寂しさが胸を過ぎる。


それはきっと、あの異世界で今も暮らしている私の愛しい人を思い出してしまうからだろう。

元気かなあ、神官長様。

今でも鮮明に覚えてる、私があの世界を離れるんだと分かった時の神官長様の驚愕した顔。いつだって冷静で、端正な顔に揺るがない微笑を浮かべてたあの方の、あんなに驚いた顔、初めて見たんだよね。いやあ、最後にいいもの見れたなあって、結構感動したの。


思い出して、思わずふふっと笑いが漏れる。


私の大好きな人は、あの世界で初めて出会った人だった。

流れるような白金の艶めかしい髪も、紫の瞳も、常に微笑みを湛えた口元も、全てが好み……さっきの強面くんじゃないけど、萌えまくった私は一目で恋に落ちた。


神殿でも魔を祓う旅路でも、溢れる気持ちを抑えきれなくってかつてないほど情熱的に愛を伝えたわけだけど、気持ちいいくらい空振りしてたっけ。

うん、全然だめだったなあ。
神官長の困ったように笑う顔が思い出される。そうね、1日3回くらいは振られてたと思う。

当時の自分を思い出すと恥ずかしいけど、あんな情熱はきっと、もう二度とない。


一年も経つというのにあの方の姿を思い出すだけで胸が熱くなるどうしようもない私と違って、神官長様の心は今日も、女神エリュンヒルダ様への祈りと民への慈愛で満たされて、平和になったあの世界で心穏やかに過ごしていらっしゃる事だろう。


いつだって静謐な佇まいで、暇さえあれば女神への祈りを捧げていた。

背筋がピシッと伸びていて、所作の一つ一つが優雅だった。

旅の途中で出会った人の、どんなに小さな困りごとも真剣に耳を傾けていた。

優しいけど、お役目にはとてつもなく厳しくて妥協を決して許さなかった。

褒めたり、叱ったり、励ましたりしながらも、いつだって私と向き合ってくれた。



大好きで、大好きで。

だからこそ、私は別れを決意した。





全ての魔が祓われて、凱旋したその日。私は夢の中で女神エリュンヒルダ様にお会いした。

女神はまるでヴィーナスもかくやという眩いばかりの美貌だというのに気さくな方で、たくさんのお話をした。とっても感謝してくれて、地に投げるだけでいつでも日本の元の時間軸に戻れるという石をくれた上で、世界を救ったお礼に、一つだけ望みを叶えてくれるという。

その夢のような話に、私のテンションはいきなりマックスまで上がった。

だって、女神様が願いを叶えてくれるんだよ!?

そんなの、女神エリュンヒルダ様じゃないと出来ない事をやってもらうしかないじゃない?


女神エリュンヒルダ様を篤く篤く信仰する神官長が喜ぶ顔が目に浮かんで、私は狂喜乱舞した。
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