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「誰の靴」
しおりを挟む麗華が玄関から僕を呼ぶ声がした。行ってみると、そこには見覚えのない黒い革靴が一足、ぽつんと置かれていた。サイズは僕のよりも大きい。
「これ、誰の靴?」麗華は困惑した顔で僕を見上げる。
「さあ……お客さん?」
「今日は誰も来てないよ。朝、出かけるときもなかったし」
僕たちの家に不審者が入ってきたのかと一瞬身構えたが、玄関ドアはしっかり施錠されている。それに、靴以外に何も荒らされた形跡はない。
「気味悪いな。外に出しておくか」
僕はその靴を手に取り、外に放り出した。だが、その瞬間、背後で麗華が小さく悲鳴を上げた。
「どうした?」
「今、靴が動いた気がするの……」麗華の顔は真っ青だ。
「気のせいだろ。疲れてるんじゃないか?」僕は笑い飛ばしたが、内心は不安が広がっていた。
その夜、僕たちは妙な物音で目を覚ました。廊下からカツン、カツンと硬いものが床を叩く音がする。僕は静かにドアを開け、音のする方へと歩いていった。廊下の先、玄関のあたりで何かが動いている気配があった。
「誰だ?」と声をかけても、返事はない。玄関の明かりをつけると、さっき外に出したはずの黒い靴が再びそこに置かれていた。僕は驚いて靴を調べると、中から古びた写真が一枚落ちてきた。
写真には、僕と麗華が写っていた。見覚えのない場所で、見知らぬ人物が後ろに立っている。麗華は写真を覗き込んで「こんなの撮った覚えないよ」と震えた声で言った。
「これは一体……」
気味が悪くなり、その写真を破り捨てて靴ごとゴミ袋に入れて、家の外に捨てた。しかし、翌朝になって再び玄関を開けると、例の黒い靴がまたそこに戻ってきていた。しかも今回は靴の中に別の写真が入っていた。
今度の写真には、僕たちが昨夜廊下で立ち話をしている姿が映っていた。撮られた覚えは一切ない。「これはもうただ事じゃない」と感じた僕は、靴を持って近所の神社へ向かうことにした。
神社の神主に事情を話すと、「これは『憑き物』だね。捨てても戻ってくる。それが狙いだ」
「どうすればいいんですか?」
「簡単には取れないが、封印することはできる。靴を持ってきて正解だ」
神主はお祓いを始めたが、その間も靴はまるで抵抗するかのように震え始めた。やがて神主が最後の呪文を唱えると、靴はぴたりと静止した。
「これで大丈夫だ。二度と戻ってくることはないだろう」
僕たちは安心して家に帰ったが、その夜、再びあの音が聞こえてきた。カツン、カツンと玄関から――。恐る恐るドアを開けると、そこには新しい靴が一足、そして新しい写真が一枚置かれていた。
その写真には、僕たちの家の前で微笑む見知らぬ男性の姿が写っていた。
「もう……どうしたらいいんだろうね」と麗華が震え声で言う。
僕は答えられなかった。何か得体の知れないものに追い詰められている気がして、冷たい汗が背中を伝っていった。これが終わるのは、一体いつになるのか――。
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