「   」

茶々あやめ

文字の大きさ
上 下
13 / 17

「写真」

しおりを挟む
「ねえ、よっちゃん、この写真見て!」

麗華が古いアルバムを広げて、僕に見せてきた。子供の頃、二人で海に行ったときの写真だ。僕が貝殻を拾い、麗華が笑顔でピースをしている。だが、その端に見覚えのない男の顔がぼんやりと写っていた。

「誰だ、この人?」僕は首をかしげた。

「さあね。でも、気味が悪いよね」麗華は不安げに笑う。

アルバムは何度も見返してきたはずだ。なのに、この顔は初めて見る。僕たちの記憶にはない男だ。

「編集とかじゃないのか?」

「お母さんがそんなことするわけないでしょ」麗華は首を振る。

その瞬間、男の顔がほんの一瞬だけ微かに動いた気がした。まるで、こちらを見つめているかのように。

「今、動かなかったか?」

「え? そんなわけないよぉ、よっちゃんが疲れてるんだよ」

麗華は笑い飛ばすが、僕の中に不安が広がった。その夜、妙な夢を見た。あの男が僕たちの背後に立って、無言で笑っている夢だ。



次の日、僕が仕事から帰ると、麗華はまたアルバムを見ていた。そして、新たな写真にもあの男が写り込んでいた。今度は僕たちのすぐ隣に立っているように。

「捨てよう、このアルバム」

僕が言うと、麗華は急に怯えた顔をした。「ダメ、消えないの。この人、どんどん近づいてくるの」

気味が悪くて、僕はアルバムを押し入れの奥にしまい込んだ。
しかし、その夜もあの男の夢を見た。今度は僕の耳元で「見つけたよ」と囁いてきた。

僕はもう写真を見ないことに決めた。
けれど麗華は、何事もなかったかのようにまたアルバムを引っ張り出してくる。

「ねえ、よっちゃん、今日も増えてるよ。この人、今度は部屋の中にいるみたい」

僕の背筋が凍った。彼女が見ているのは、僕には見えない何かだったのだ。写真の中の男は、もう僕たちのすぐそばにいるのかもしれない。

それ以来、僕たちは写真を撮ることをやめた。次に写るのが僕たち自身ではないと、誰が言えるだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

変容

小紕 遥
ホラー
夢と現実の境界が溶ける夜、突然の来客。主人公は曖昧な世界で何を見るのか。

意味が分かると怖い話 完全オリジナル

何者
ホラー
解けるかなこの謎ミステリーホラー

怪奇蒐集帳(短編集)

naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。  怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——  どれもがただの作り話かもしれない。  だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。  本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。  最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。

田舎のお婆ちゃんから聞いた言い伝え

菊池まりな
ホラー
田舎のお婆ちゃんから古い言い伝えを聞いたことがあるだろうか?その中から厳選してお届けしたい。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

怪談実話 その1

紫苑
ホラー
本当にあった話のショートショートです…

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...