上 下
5 / 13

第2夜会 除け者の隠された答案用紙-ハイドペーパー(中編)

しおりを挟む




「アンズの答案用紙はすり替えられたのだ!」

 びしっと指を突きだしながらチェルシーは答える。

「すっ、振り替えですか?」

 ユアが困惑する。

「まあ~、チェルシー……君の推理を聞こうじゃないか」

「ふふん。アンズとユアが言っていたことがポイントだよ。
 ポイント1:アンズの前には嫌がらせをするヒルダ一行
 ポイント2:アンズの列は解答用紙が足りない
というところだ。つまりだよ。アンズの列の前に座っているヒルダ一行の誰か解答用紙を一枚余分に取っていたんだ。だから、アンズの列の解答用紙が足りなかったんだ!」

「……つまりどういうことですの?」

 煙草をふぅ~……と吹かしながらロサナはチェルシーに質問した。ちなみにアンズとユアも首を傾げていてわからなかったようだ。チェルシーがやれやれと両手をあげる中、アーニャが続いた。

「あ~、試験が終わって後ろから答案用紙が前に回って来るときにちゃんと答えが書かれたアンズの答案用紙をあらかじめ調達した別の用紙とすり替えるのか~!」

 ぱちんっ! と指を鳴らしチェルシーはアーニャの方を向き。

「そゆこと! 正解っ!」

「へぇ~やるじゃん。チェルシー」

 二人盛り上がる中、おずおずとアンズが手を上げて話す。

「あっ、あのぅ……答案用紙ですが終わった人から手を上げて、試験監督の指示で試験官たちが回収に一人一人の元にきて直接前に置かれたボックスの中に入れるのです」

「「……えっ!?」」

 ぬか喜びをしている二人の表情が固まる。

「私回収も担当しました」

 ユアが追い討ちをかけるとチェルシーの顔が真っ赤になる。アーニャがチェルシーに向かって。

「……ふふっ……どうやらこの消えた答案用紙の謎をいち早く説いたのは私のようだなっ!」

「やめろぉ! 先程の私の言葉を復唱するな~!」

 物真似をするアーニャに対して顔を真っ赤にして講義をするチェルシーにちょっとした笑いが生まれる。一つ落ち着いた所でアーニャが話し出す。

「根本的な可能性の話をしていい~?」

「なんだよ」

「アンズは試験会場にいじめっ子がいる話をしたけど、これってミスディレクションってやつじゃないかな~」

「「「ミスディレクション?」」」

 ロサナ以外の三人が首を傾げる。

「マジシャンや小説家が用いる、真実を悟らせないために誤った真実に導く手法ですわ。しかし、アーニャからその言葉が出るとは意外ですわね」

「あたしたちが実験を間違えた時に『あそこはミスリードだったね~』と言うんだけど、つい二~三日前に友達の探偵とここで食事したときにミスディレクションって聞いたんだ~。面白いやつだから今度アンズの様にゲストで呼ぶよ。……まあ~それは置いておいて、現状の状態を聞くに同じ会場にいじめっ子がいて、アンズの解答用紙が無くなった。これを聞くとさ~普通にいじめっ子がやった犯行だと思うわけよ~」

「事実私たちもヒルダを含めた五人を調査中ですわ」

「そこ~そこがミスディレクションなわけさね。私は実は試験監督、試験官を買収して彼・彼女らがやった犯行だと思ったわけよ~。よくよく考えてみて? だって他人の試験を妨害する行為なんて学校側が知ったらどうするよ~」

「良くて無期限停学および重要資格試験の参加不可。普通は退学。最悪追放の後すべての機関に情報開示……未来はないですわね」

「こわ……」

 チェルシーも引いているがロサナを挟むユアとアンズも青ざめた目をしている。

「まぁ~学問に身を置く者としてはそれが当たり前の処罰だよね。だからロサナも不正を無くすために大枚をはたいて試験監督や試験官を多く雇う。必然的に監視も厳しくなりリスキー……そんな状況下で他人の試験の妨害なんて自分自身でやるには厳しすぎだよ~……ただその中で監視する側ってお互いに注意を向けない傾向にあると思うんだよね~」

「なるほど……試験を買収してしまい解答用紙をすり替えさせるのか」

「そゆこと~」

「私以外にもあの会場には試験監督、試験官が五人いましたがどのかたもそんなことをするような人には見えなかったです……それにロサナさんの前で言うのは言いづらいけど、報酬が破格すぎです。試験をしっかりと監視するだけで沢山のお金が貰えるのに、それこそたった一人の人間を落とし入れるために危険を犯すとは私には思えないです」

「でも、試験官が一人一人の用紙を回収してボックスにいれるんだよね~? じゃあどこに消えたの?」

「私の前でボックスを開けて一つ一つの会場を順番に添削しましたわ。しかし、アンズの解答用紙だけが出てきませんわ」

「んむ~……わからない~」

「アンズはどう思うのだ?」

「わっ私ですか!?」

 チェルシーから急に話題を振られアンズは驚く。

「ああ。今回の一件の被害者はアンズだ。学校では教師や周りの目もあるから思っていることを話せなかっただろう……しかし、ここでの話を外で広めることはないし皆アンズの力になりたいと思っている。一人の生徒に肩入れする校長もいるが気にしないでくれ」

「ふふっ。私はチェルシーのそんな男前な所好きですわよ」

 チェルシーのジョークに少しだけ周りの凝り固まった空気が緩くなった。そしてアンズは思いを吐き出す。

「わっ……私はヒルダたちだと思ってます! いつも……いつも! 私をいじめてくる! どうして私を! なんで! マリーが助けてくれたのにどうしていつも邪魔をしてくるの! 皆さん! お願いいたします! ヒルダ! ヒルダの証拠を一緒に見つけてください!」

 涙を流しながらアンズは黒い部分を吐き出していく。そして、ユアが優しく話しかける。

「私もその場で試験官をしていた責任があります……皆で知恵を出し合えばきっと何とかなるはずです」

「そうですわ……みなせさんはこれまでの話を聞いて何かお気づきの点はないですか?」

 全員の視線がみなせの方へ向く。みなせはゆっくりと皆に紅茶を配り始め話し出す。

「私が気付いたことを話ことは可能でございますが、アンズ様とロサナ様にお願いしたいことがございます」

「わっ私ですか!?」

「私にできることであれば大丈夫ですわ」

 ロサナが煙草に火をつける。

「ではまずアンズ様……私が話すことはあくまでも皆様の話を聞いた上での想像となります。事実と異なる可能性がございますし、必ずしも喜ばしい結果ということは約束致しかねますがよろしいでしょうか?」

「はっはい! 覚悟は出来ております」

「続きましてロサナ様。もしも、回収ボックスがそのままであるならばこちらに持ってきていただいて、中身を確認させて頂くことはできますでしょうか?」

「ええ。そのままなのでもちろんですわ。お電話お借り致しますわ」

 ロサナが席を立ち一階の電話機へと向かおうとしたところ、みなせとロサナを除く全員が驚いた表情をしていることに気付いた。

「どうかなさいまして?」

「いっいやいや、これは学校の機密事項に該当するんじゃないのか?」

「先生……持ち出しはまずいのでは?」 

「大丈夫ですわ。私には全権がありますしそれにみなせさんを信頼していますから」

「私も電話を借りよう」

「チェルシーさん!?」

「なあに、もしこれでつまらんトラブルに巻き込まれてロサナが大変なことになったら寝覚めが悪いし、何より嫌だからな。私の騎士も呼んで護衛させよう」

「ありがとう。チェルシー」

「いやお互い様さ」

 二人は仲良く階段をおり、しばらくすると戻ってきて席へと着いた。

「みなせさん……手配が終わりましたわ。一~二時間で届く予定ですわ。何故ボックスを回収するのですか?」

 みなせはゆっくりと語りだす。

「皆様のお話をお伺いしている中でアーニャ様が答えられた【ミスディレクション】が私には引っ掛かりました」

「ん~。でもさ皆には否定されたじゃん」

「いいえ。私はアーニャ様の推理を聞き『解答用紙が無くなった』と『犯人を生徒であるヒルダと思わせる』という所に二つのミスディレクションがあると思いました」

「よくわからないな。それはロサナとユアにも否定されたし、アンズもそれはないといっていただろう」

「はい。私も絶対にヒルダだと思います」

「そこでございます。それがまた引っ掛かりました……ですがまだ推測の状態。ボックスが届いてからお話をさせていただきましょう……恐らく、ボックスの中にまだ残っているアンズ様の解答用紙を探しだせたらの話でございますが……」

『!?』

 みなせの言葉に全員が驚きの声を上げる。その中みなせは落ち着いた様子で全員にデザートを配っていく。

「来るまでには時間がございますので、紅茶とデザートの木苺のパイをお食べください……」

 


後編へつづく
しおりを挟む

処理中です...