お江戸物語 藤恋歌

らんふぁ

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四十九話

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白雪太夫は自分の部屋で寝化粧を施していた。


ゆっくりと……。



あの男の事だ。おそらく一度だけとは限るまい。


吉野の過ちを盾にして、どれだけ貪欲に自分を貪ろうとするか……


鏡に映るその顔……



……泣いていた。




遣り手のお梅が襖の向こうから声を掛けた。「……太夫、その……まだかと…。」


「……あい。只今」 


涙を拭き、白粉を塗り直し、鮮やかな紅を引く。



心に氷の鎧を覆う為に……。









ほの暗い行灯が、布団に2つ並べられた枕をぼんやりと照らす。


もう準備は整っていた。


軽く着物を引っ掛けた外記は、艶かしい蒲団の上で目当ての人間が来るのを待っていた。


吉原一の白雪太夫。



散々彼女には気を持たせられ、小馬鹿にされたのだ。


だが遂に我が手に堕ち、意趣返しが出来るというもの。


膳の件では鈴代屋にはしてやられたが、あの若い未熟な花魁のおかげで、結局は思い通りになった。



外記は太夫の滑らかな白い肌を思い、暗い欲望に耽る……


どのようにしてやろうか……



あの誇り高い女を屈伏させてやるのは、さぞかし気分が良かろうて……




襖が静かに開いた。


「来たな……参れ」


外記は側に来た、寝姿の太夫の手を取り撫で回す。


嫌悪感に思わず肌が粟立った。


「寒いのか?」


「……あい。少し…」


外記は脂ぎった顔に笑いを浮かべた。「何、すぐに暖かくなるわ……。だが、一度はその邪魔な物を脱がんとな……」


太夫のしごきに手を伸ばし、結び目を解いた。


彼女は……男の欲望に満ちた瞳に映る己を見たくなくて、目を瞑る……


なだらかな肩から薄い肌襦袢が滑り落ちた……。

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