お江戸物語 藤恋歌

らんふぁ

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四十七話

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とりあえず、家老には汚れた着物を脱いで貰い、ベタベタになった髷やら顔やらをさっぱりと、と湯殿にいざなった。


まんまと思惑通りに事が運び、ほくそ笑んだ山城屋が念を押す。「太夫、逃げはなりませんよ、お約束なさったのですからな」


「…あい」


「姉様……!」
泣き崩れる吉野。


家老は鈴代屋の花魁、皆に嫌われていた。


嫌な男の思いの儘にされるなど、いくら金で左右される身とは言え、死ぬほど辛かろう。


自分の過ちの為に……!


しかし、シャンと頭を高く上げた太夫は、妹花魁に微笑んで、彼女の涙を拭ってやった。「吉野、もう泣くのはよしなんし。……命を取られる訳でなし……」


太夫の姉様であった、朝霧太夫……今はもう、立派なお大尽に身請けされて吉原には居ない。


彼女は、例の刃情沙汰の少し後、やもめの商家の主に落籍されたのだった。


少し年配だったが、人柄が良い客で、朝霧を大事に思ってくれていた。


おそらく幸せに暮らしているに違いない。



そんな朝霧太夫は吉原にいる間、何くれとなく妹花魁の自分を庇い、可愛いがってくれた物だった。


金が左右し、遊女同士が競争し、妬み合う華やかな地獄……


涙の吉原……


その-方で、泥の中に咲く蓮のように….……それこそ密やかに咲く……女達の連綿と繋がる、そんな想いがなければ、どうして生きて行けよう?


吉野はまだ若い。その芽を摘んではならない。


あんな下劣な男達の為になど……!


私は白雪太夫。


“太夫”

仇や疎かにそう呼ばれはしない。


吉原一の花魁だと言う事。


松の位の花魁だと言う事。


そう……太夫とは、常に誇り高い。


どんな男だろうが、この誇りだけは奪えない。


白雪太夫はピシッとと背筋を伸ばした。「……わちきにも、ご家老様をもてなす支度がありんす。……失礼を」

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