お江戸物語 才蔵とお艶

らんふぁ

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三章 消えない傷痕

二話

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「……傷が疼くと……どうしても思い出しちまう」



お艶の両親は、“いわきや”と名付けた蕎麦屋を営んでいた。

彼女が13歳の時、店に浪人の押し込みが入り、売り上げを奪って逃げたのである。

小さな蕎麦屋の売り上げなどはたかが知れている。

それなのに、押し込みは両親を斬り殺し、少女だったお艶も斬った。

生き残ったのは本当に奇跡だった。

たまたま店に寄った才蔵の父親が瀕死のお艶を発見したのである。


当時は才蔵の父親が岡っ引きをしていた。


お艶の父信吉は、何時も快く江戸の治安に走り回る幼なじみの才蔵の父親……佐七に、例え店を閉めてからでも蕎麦や飯を食べさせてくれた。

自分の所に寄るのは、よくよくの事だと分かっていたからである。


その日は大きな捕り物があり、佐七親分は朝から、昼飯夕飯抜きで遅くまで走り回っていた。


もう腹は空ききり限界に来ていた。

家まで保ちそうにない。

悪いと思いつつ、声をかけようとして異変に気づいた。

開け放しの戸口……。 

錆のような生臭い……仕事柄良く知っているこの臭い……。 
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