お江戸物語 才蔵とお艶

らんふぁ

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二章 クチナシの花

ニ話

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お艶はそれから、手早く食事の支度をした。

炊きたてのご飯、熱々のネギと豆腐の味噌汁。

芋の煮っ転がしに漬け物。

それに鰹。

「お♪鰹か!」才蔵は破顔した。


見栄っ張りの江戸っ子は鰹に限らず、初物を誰よりも早く食べたがる傾向が強い。

当然値はかなり張るので、出たからと言って、すぐに口に入れられるのは、大店の金持ちぐらいだ。

結局、庶民の才蔵達が食べられるのは、かなり遅くなって……魚河岸でも鰹が珍しくもなくなり、値段もボチボチ落ち着く頃からである。

三太も満面の笑みになった。「オイラ、鰹は今年、初物っすよ。初鰹、女房を質に入れても食いたいってね♪」

「……おやぁ?お前さん、そうなのかい?」お艶は亭主を怨ずるように軽く睨む。

途端に才蔵はブルブル首を振った。「ンな事するけぇ!大事な女房だ。勿体ねえ。おう、三太にはやらなくていいぜ。この罰あたりめ」

「親分~」

「……そうしようかね」

三太は泣きを入れた。「姐さ~ん。もう勘弁しておくんなさい。失言でした!」

その情けない顔に笑ったお艶は、ちゃんと三太にも出してやり、3人は賑やかに食事を取った。




食後の茶をのんびり喫していた三太は、親分の微妙な合図に気が付く。

三太「…!あの、オイラそろそろ…姐さん、ご馳走様でした。美味かった!」

お艶「え?もう帰るのかい?」
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