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プロローグ(後編)
連戦
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【ノクテンヴァルトの入り口】
私とレイラは同時に地面に降り立⸺たなかった!
スッと着地した私に対し、レイラはぺたんと座り込んでしまった。
直後、
「ねぇ…」
と彼女は半ベソをかいたような顔つきで私に言う。
『ん?なに??』
とぼけた顔で返事する私。
「空飛ぶのこんなに怖いなんて聞いてないんだけどぉぉぉ!!!」
「学園の授業でさ、ふよふよ~って浮かぶのあったじゃん!」
「私はあれすっごく楽しくてさ、私でもできるんだぁって♪」
「そのちょっと速い版をイメージしてたのに何あれ!!」
「二度と飛びたくない…」
あぁ、学園の授業でやったやつね。
(私は記憶を巡らせる。)
あれはたしか下級魔法の"浮遊"だ。
術式構築さえうまくいけば、詠唱不要で発動することができる下級魔法。
風に持ち上げてもらうというよりは、足元に圧縮された空気の塊を生成してそれに乗るというほうがイメージしやすいだろうか。
もちろん、宙に浮いたまま移動はできるが、それほど速度を出せるものではない。
せいぜい軽いジョギングくらいだ。
一方、私が今回使った魔法は、中級魔法の"疾空"。
こちらは、対象者の身体全体を風が包み込んでくれる。
風のバリアを身に纏い、その上で、360度どの角度からでも推進力を調整することで高速移動が可能となる魔法である。
今回は、レイラも一緒に飛ぶということもあって、術式構築時にある程度オートパイロット的な要素も組み込んである。
二人分の体重をその都度考えて制御するのはちょっと大変だから。
でも、オートにした分、動きに雑さみたいなのは出ちゃったかもね。
そっかぁ、イメージと違ったかぁ…笑
『ごめんね♡でもすぐ着いたでしょ?』
と軽く答える私。
レイラはおしりについた土をパンパンとはらいながらゆっくり立ち上がり、
「そ、それはそうだけどぉぉ。」
しかし、次の瞬間にはシリアスな顔つきに変化する。
「魔物たち、いっぱいいるね…ウェアウルフとゴブリンがメインかしら?」
私も魔力探知をかけて気が付いた。魔物たち独特の瘴気、妖気。
彼女はそれを肌で感じ取ったのだろう。
それより見えるの?
光球の魔法で照らしているとはいえこの距離で。
「ティア、私から離れないでね。」
そう言って彼女は腰の剣を抜き、
⸺火の聖霊よ、燃え盛る業火よ
鋼の刃に炎の力を宿し、触れた者を焼き尽くせ⸺
(えっ?!!!!)
「炎属性付与」
レイラの口からその魔術言が放たれると同時に、手にした剣に魔力が帯びる。
正直驚いた。
魔物を相手にするのに、いくら素晴らしい剣だとしても生身だとダメージが通りにくいし、刃毀れもしやすいから、私がエンチャントしようと思っていたのに。
レイラ本人が中級魔法を使ったのだ。
『レイラ、その魔法使えたの?いつから??』
「えっとね、、⸺って話はあと。」
「今は目の前の魔物たちを片付けよ!」
『おっけー!!』
<ギュァァァアアゥゥ!!!>
頭に響く不快な叫び声と共に魔物がこちらに気づき向かってくる。
(やってやろうじゃない!!)
『氷の矢!!!』
私の魔術言を皮切りに、戦闘がスタートした。
私の魔力で強化された数十本の氷の矢が魔物たちに降り注ぐ。
一撃で絶命したものもいれば、かすり傷で済むものも。
闇から飛び出してきた中で、足が速いのはやっぱりウェアウルフだった。
元がオオカミなだけあって、俊敏さと凶暴さ、そして鋭い爪と牙を持った魔物。
その中でも運よく私の魔法が当たらなかったのか、まずは3体がそのスピードを活かし私たちに襲い掛かる。
「はぁっ!」
1体目は踏み込んだレイラの一閃で、2体目はその切り返した刃で、一瞬のうちに地に落ちる。
(さすがレイラ、あの速い動きに合わせられてる!)
ウェアウルフたちに思考というプロセスはないが、本能的に狩りやすい位置、狩りやすい獲物から攻撃をしてくるのだろう。
レイラには歯が立たないと悟ったのか、3体目は私に向かってくる!
ウェアウルフが宙に浮いたそのタイミングで、
『雷撃!!』
短距離射程の私の魔法が突き刺さった。
第2陣。
手負いのウェアウルフたちが迫ってきた。
さっきのよりは幾分動きが鈍いとはいえ、元が素早い魔物だ。
束になられてはさすがに分が悪い。
ある程度引き付けたところで、
『岩礫!』
直径約5cmほどの無数の岩の塊がウェアウルフたちに向かっていく。
避けられる量ではないその攻撃を受け、怯み、足が止まる。
その隙を逃さない彼女ではない。
私の魔法の後を追って駆け出したレイラの剣が舞う。
ロングソードの扱いとは思えないほど華麗な斬撃。
私が使うダガーを持って舞っているような。
言わなくても私の意図を察して動いてくれてるのがすごく戦いやすい。
氷の矢を受けた傷に炎属性付与された剣の斬撃は、かなり効くらしく、断末魔の叫びを上げつつ、次々と倒れていく。
(私も負けてられないわね…)
第2陣のウェアウルフたちは、レイラに任せて大丈夫だろう。
私は次に迫ってくるであろうゴブリンたちを何とかしよう。
ゴブリンは、知っての通り、小鬼と呼ばれる比較的背の低い魔物だ。
喋ることはできないものの、多少の知性を持っており、ヒトと同じような武器を自分たちで作り、扱うことができる。
群れで活動し、ヒトや食物などを狙って略奪・凌辱をすることもあるため、ウェアウルフなんかよりもずっとタチの悪い魔物である。
ゴブリン討伐はギルドの一番ベーシックで、かつ、重要な討伐依頼である。
第3陣。
ゴブリンたちの姿が私にも見えた。
バラバラと散らばっているとはいえ、囲まれていなくてよかった。
ウェアウルフを相手にしているときに背後にまで回られていたらちょっと大変だったけど。
私の足元の数メートル先に、数本、矢が飛んできた。
ゴブリンの誰かが弓矢で攻撃をしてきたのだろう。
私は気にせず頭の中で術式を構築し、詠唱を始める。
⸺凍てつく風よ、極寒の冷気よ⸺
詠唱中にまた矢が飛んできた。
私に当たりそうになったその矢は、1mほど先で速度を急激に落とし、ポトポトと地面に落ちる。
詠唱付きの魔法は、そのレベルに応じた魔力障壁を自動で展開する。
私が気にせず詠唱を開始したのは、この程度の攻撃なら障壁で防げると確信していていたから。
⸺全てを凍らせる氷の力で、その者たちを包み込め⸺
『レイラ!!戻って!!!』
私のその声を聞いた彼女が私の近くに戻るのを待って、
『氷瀑布』
周囲の空気がピリつく。
(あれっ?!)
ギュイィィィィン⸺
自然界ではあまり聞いたことのないような音を立てて、周りのゴブリンたち共々、広範囲で空気が凍り付いた。
(おかしいな?ここまで大きく凍らせるつもりはなかったんだけど。)
(学園の授業で水球を使ったときと同じ?)
(魔力の暴走…?)
私は、凍り付かせて動きを完全に止めたところに地烈撃を撃ち込んで氷もろとも破壊するつもりだったのに。
これじゃあ破壊するまでもなくゴブリンたちは絶命ね。
こんなことを考えていると
「これ、、やりすぎじゃない?」
「私の剣をヒーター代わりにしないとだよ(笑)」
確かに寒いや…
『ごめーん、やりすぎちゃった!』
(と言ったものの、違和感は消えない。)
作り笑いを隠そうと、ちょんと舌を出してみた。
「「確かにやりすぎだヨナぁ!」」
「「おジョウさん方、大層なごアイさつダナ」」
近くで聞きなれない声がした。
いつの間に…!?
気が付かなかった!
レイラのすぐそばにそいつは立っていた。
私が声を上げるより早く、大きな腕が彼女を襲う。
ブォン!!
空気を切り裂くような音とともに繰り出される攻撃。
『雷・・・』
(だめだ、私の魔法じゃ間に合わない!)
「きゃっ!!!」
小さい声は上げたものの、レイラはステップを踏み、上体をそらし、攻撃を避けた!
そして、着地した瞬間、地面を鋭く蹴り斬撃を繰り出す。
戻そうとした腕よりも速く、レイラの剣がそいつの脇腹を薙いだ。
「「ぐウウウゥゥっ」」
低い呻き声を上げるが、傷は浅いようだ。
「「ほぅ!あノ攻撃をヨけるか!!」」
(私も正直びっくりした)
「「久しぶりニ、骨のあるヤツとたたかエる!」」
高らかに笑いながらこんなセリフを吐く。
あぁやっぱり。
こいつはレッサーデーモン。魔族だ⸺
私とレイラはアイコンタクトをして、まずレッサーデーモンからお互いに距離を取る。
「「どウした?楽しまセてくれヨ!」」
追いかけてくることはなくその場で、悪役としてのお馴染みのセリフを叫ぶ。
(どこで習ったのよそれ?)
ともあれ、きっと人間などいつでも殺せると思っているのだろう。
(よかった、あの図体で追いかけられながらブンブンやられたら防戦一方だったかもしれない。)
(ちょっと時間を稼がないと!)
『あなた、私たちの村を襲った連中のボスね!』
「「ン・・?マァそんなところダ」」
ちょっと引っかかる言い回しだけど、私は話し続ける。
『目的は何なの?ただ襲いたかったから、なんてことじゃないんでしょ?』
『答えて!!!』
「「威勢のイイおジョウさんダナ」」
「「オれに勝てたらオシエテやるヨ!」」
『ふーん、後悔しても知らないから。言っとくけど私強いからね。』
(もう少し…)
「「ニンゲンフゼイがぬけぬけと!我ラに勝てるワケがないダろウ」」
そのセリフが終わるか終わらないかのタイミングで。
(今だ!)
『地爆風!!!』
大小無数の岩が竜巻を起こすようにレッサーデーモンに襲い掛かる。
小さい岩は気にもせず、自慢の腕を使って、自分にめがけて飛んでくる大きい岩を笑いながら壊している。
「「こんナ攻撃、効くとデモオモッタのカ」」
どんどん私に近づいてくる。
効くなんてもちろん思ってない。
こんなのただの目くらましみたいなものだ。
私は、次の魔法の詠唱を始める。
⸺冷厳なる氷の精霊よ、その鋭き力を我が手に
凍てつく刃よ、その者を貫く刃よ⸺
私は、今までレッサーデーモンに対し激しく打ち付けていた、地爆風の魔法効果を突然消した。
今まで飛んでいた岩がボトボトと地に落ちる。
大きな岩が飛んでくると予測し、それを壊そうとしたレッサーデーモンの腕が空を切る。
その瞬間⸺
気配を消して森の茂みに潜んでいたレイラが、レッサーデーモンの死角から飛び出してきた。
「「ナニ・・!」」
気づいてももう遅い。
レイラの高速2連撃が両足の膝の裏を切り裂く!
袈裟斬りに、背中に渾身のもう一太刀!!
そして大きくバックステップをして距離を取る。
レイラの斬撃でバランスを崩したレッサーデーモンは、私の少し前で、そのまま前のめりに倒れ込む。
『・・・氷槍[アイスランス]』
私が静かに発した魔術言と共に地面から突き出た氷の槍が、倒れ込むレッサーデーモンの喉元を貫いた。
私とレイラは同時に地面に降り立⸺たなかった!
スッと着地した私に対し、レイラはぺたんと座り込んでしまった。
直後、
「ねぇ…」
と彼女は半ベソをかいたような顔つきで私に言う。
『ん?なに??』
とぼけた顔で返事する私。
「空飛ぶのこんなに怖いなんて聞いてないんだけどぉぉぉ!!!」
「学園の授業でさ、ふよふよ~って浮かぶのあったじゃん!」
「私はあれすっごく楽しくてさ、私でもできるんだぁって♪」
「そのちょっと速い版をイメージしてたのに何あれ!!」
「二度と飛びたくない…」
あぁ、学園の授業でやったやつね。
(私は記憶を巡らせる。)
あれはたしか下級魔法の"浮遊"だ。
術式構築さえうまくいけば、詠唱不要で発動することができる下級魔法。
風に持ち上げてもらうというよりは、足元に圧縮された空気の塊を生成してそれに乗るというほうがイメージしやすいだろうか。
もちろん、宙に浮いたまま移動はできるが、それほど速度を出せるものではない。
せいぜい軽いジョギングくらいだ。
一方、私が今回使った魔法は、中級魔法の"疾空"。
こちらは、対象者の身体全体を風が包み込んでくれる。
風のバリアを身に纏い、その上で、360度どの角度からでも推進力を調整することで高速移動が可能となる魔法である。
今回は、レイラも一緒に飛ぶということもあって、術式構築時にある程度オートパイロット的な要素も組み込んである。
二人分の体重をその都度考えて制御するのはちょっと大変だから。
でも、オートにした分、動きに雑さみたいなのは出ちゃったかもね。
そっかぁ、イメージと違ったかぁ…笑
『ごめんね♡でもすぐ着いたでしょ?』
と軽く答える私。
レイラはおしりについた土をパンパンとはらいながらゆっくり立ち上がり、
「そ、それはそうだけどぉぉ。」
しかし、次の瞬間にはシリアスな顔つきに変化する。
「魔物たち、いっぱいいるね…ウェアウルフとゴブリンがメインかしら?」
私も魔力探知をかけて気が付いた。魔物たち独特の瘴気、妖気。
彼女はそれを肌で感じ取ったのだろう。
それより見えるの?
光球の魔法で照らしているとはいえこの距離で。
「ティア、私から離れないでね。」
そう言って彼女は腰の剣を抜き、
⸺火の聖霊よ、燃え盛る業火よ
鋼の刃に炎の力を宿し、触れた者を焼き尽くせ⸺
(えっ?!!!!)
「炎属性付与」
レイラの口からその魔術言が放たれると同時に、手にした剣に魔力が帯びる。
正直驚いた。
魔物を相手にするのに、いくら素晴らしい剣だとしても生身だとダメージが通りにくいし、刃毀れもしやすいから、私がエンチャントしようと思っていたのに。
レイラ本人が中級魔法を使ったのだ。
『レイラ、その魔法使えたの?いつから??』
「えっとね、、⸺って話はあと。」
「今は目の前の魔物たちを片付けよ!」
『おっけー!!』
<ギュァァァアアゥゥ!!!>
頭に響く不快な叫び声と共に魔物がこちらに気づき向かってくる。
(やってやろうじゃない!!)
『氷の矢!!!』
私の魔術言を皮切りに、戦闘がスタートした。
私の魔力で強化された数十本の氷の矢が魔物たちに降り注ぐ。
一撃で絶命したものもいれば、かすり傷で済むものも。
闇から飛び出してきた中で、足が速いのはやっぱりウェアウルフだった。
元がオオカミなだけあって、俊敏さと凶暴さ、そして鋭い爪と牙を持った魔物。
その中でも運よく私の魔法が当たらなかったのか、まずは3体がそのスピードを活かし私たちに襲い掛かる。
「はぁっ!」
1体目は踏み込んだレイラの一閃で、2体目はその切り返した刃で、一瞬のうちに地に落ちる。
(さすがレイラ、あの速い動きに合わせられてる!)
ウェアウルフたちに思考というプロセスはないが、本能的に狩りやすい位置、狩りやすい獲物から攻撃をしてくるのだろう。
レイラには歯が立たないと悟ったのか、3体目は私に向かってくる!
ウェアウルフが宙に浮いたそのタイミングで、
『雷撃!!』
短距離射程の私の魔法が突き刺さった。
第2陣。
手負いのウェアウルフたちが迫ってきた。
さっきのよりは幾分動きが鈍いとはいえ、元が素早い魔物だ。
束になられてはさすがに分が悪い。
ある程度引き付けたところで、
『岩礫!』
直径約5cmほどの無数の岩の塊がウェアウルフたちに向かっていく。
避けられる量ではないその攻撃を受け、怯み、足が止まる。
その隙を逃さない彼女ではない。
私の魔法の後を追って駆け出したレイラの剣が舞う。
ロングソードの扱いとは思えないほど華麗な斬撃。
私が使うダガーを持って舞っているような。
言わなくても私の意図を察して動いてくれてるのがすごく戦いやすい。
氷の矢を受けた傷に炎属性付与された剣の斬撃は、かなり効くらしく、断末魔の叫びを上げつつ、次々と倒れていく。
(私も負けてられないわね…)
第2陣のウェアウルフたちは、レイラに任せて大丈夫だろう。
私は次に迫ってくるであろうゴブリンたちを何とかしよう。
ゴブリンは、知っての通り、小鬼と呼ばれる比較的背の低い魔物だ。
喋ることはできないものの、多少の知性を持っており、ヒトと同じような武器を自分たちで作り、扱うことができる。
群れで活動し、ヒトや食物などを狙って略奪・凌辱をすることもあるため、ウェアウルフなんかよりもずっとタチの悪い魔物である。
ゴブリン討伐はギルドの一番ベーシックで、かつ、重要な討伐依頼である。
第3陣。
ゴブリンたちの姿が私にも見えた。
バラバラと散らばっているとはいえ、囲まれていなくてよかった。
ウェアウルフを相手にしているときに背後にまで回られていたらちょっと大変だったけど。
私の足元の数メートル先に、数本、矢が飛んできた。
ゴブリンの誰かが弓矢で攻撃をしてきたのだろう。
私は気にせず頭の中で術式を構築し、詠唱を始める。
⸺凍てつく風よ、極寒の冷気よ⸺
詠唱中にまた矢が飛んできた。
私に当たりそうになったその矢は、1mほど先で速度を急激に落とし、ポトポトと地面に落ちる。
詠唱付きの魔法は、そのレベルに応じた魔力障壁を自動で展開する。
私が気にせず詠唱を開始したのは、この程度の攻撃なら障壁で防げると確信していていたから。
⸺全てを凍らせる氷の力で、その者たちを包み込め⸺
『レイラ!!戻って!!!』
私のその声を聞いた彼女が私の近くに戻るのを待って、
『氷瀑布』
周囲の空気がピリつく。
(あれっ?!)
ギュイィィィィン⸺
自然界ではあまり聞いたことのないような音を立てて、周りのゴブリンたち共々、広範囲で空気が凍り付いた。
(おかしいな?ここまで大きく凍らせるつもりはなかったんだけど。)
(学園の授業で水球を使ったときと同じ?)
(魔力の暴走…?)
私は、凍り付かせて動きを完全に止めたところに地烈撃を撃ち込んで氷もろとも破壊するつもりだったのに。
これじゃあ破壊するまでもなくゴブリンたちは絶命ね。
こんなことを考えていると
「これ、、やりすぎじゃない?」
「私の剣をヒーター代わりにしないとだよ(笑)」
確かに寒いや…
『ごめーん、やりすぎちゃった!』
(と言ったものの、違和感は消えない。)
作り笑いを隠そうと、ちょんと舌を出してみた。
「「確かにやりすぎだヨナぁ!」」
「「おジョウさん方、大層なごアイさつダナ」」
近くで聞きなれない声がした。
いつの間に…!?
気が付かなかった!
レイラのすぐそばにそいつは立っていた。
私が声を上げるより早く、大きな腕が彼女を襲う。
ブォン!!
空気を切り裂くような音とともに繰り出される攻撃。
『雷・・・』
(だめだ、私の魔法じゃ間に合わない!)
「きゃっ!!!」
小さい声は上げたものの、レイラはステップを踏み、上体をそらし、攻撃を避けた!
そして、着地した瞬間、地面を鋭く蹴り斬撃を繰り出す。
戻そうとした腕よりも速く、レイラの剣がそいつの脇腹を薙いだ。
「「ぐウウウゥゥっ」」
低い呻き声を上げるが、傷は浅いようだ。
「「ほぅ!あノ攻撃をヨけるか!!」」
(私も正直びっくりした)
「「久しぶりニ、骨のあるヤツとたたかエる!」」
高らかに笑いながらこんなセリフを吐く。
あぁやっぱり。
こいつはレッサーデーモン。魔族だ⸺
私とレイラはアイコンタクトをして、まずレッサーデーモンからお互いに距離を取る。
「「どウした?楽しまセてくれヨ!」」
追いかけてくることはなくその場で、悪役としてのお馴染みのセリフを叫ぶ。
(どこで習ったのよそれ?)
ともあれ、きっと人間などいつでも殺せると思っているのだろう。
(よかった、あの図体で追いかけられながらブンブンやられたら防戦一方だったかもしれない。)
(ちょっと時間を稼がないと!)
『あなた、私たちの村を襲った連中のボスね!』
「「ン・・?マァそんなところダ」」
ちょっと引っかかる言い回しだけど、私は話し続ける。
『目的は何なの?ただ襲いたかったから、なんてことじゃないんでしょ?』
『答えて!!!』
「「威勢のイイおジョウさんダナ」」
「「オれに勝てたらオシエテやるヨ!」」
『ふーん、後悔しても知らないから。言っとくけど私強いからね。』
(もう少し…)
「「ニンゲンフゼイがぬけぬけと!我ラに勝てるワケがないダろウ」」
そのセリフが終わるか終わらないかのタイミングで。
(今だ!)
『地爆風!!!』
大小無数の岩が竜巻を起こすようにレッサーデーモンに襲い掛かる。
小さい岩は気にもせず、自慢の腕を使って、自分にめがけて飛んでくる大きい岩を笑いながら壊している。
「「こんナ攻撃、効くとデモオモッタのカ」」
どんどん私に近づいてくる。
効くなんてもちろん思ってない。
こんなのただの目くらましみたいなものだ。
私は、次の魔法の詠唱を始める。
⸺冷厳なる氷の精霊よ、その鋭き力を我が手に
凍てつく刃よ、その者を貫く刃よ⸺
私は、今までレッサーデーモンに対し激しく打ち付けていた、地爆風の魔法効果を突然消した。
今まで飛んでいた岩がボトボトと地に落ちる。
大きな岩が飛んでくると予測し、それを壊そうとしたレッサーデーモンの腕が空を切る。
その瞬間⸺
気配を消して森の茂みに潜んでいたレイラが、レッサーデーモンの死角から飛び出してきた。
「「ナニ・・!」」
気づいてももう遅い。
レイラの高速2連撃が両足の膝の裏を切り裂く!
袈裟斬りに、背中に渾身のもう一太刀!!
そして大きくバックステップをして距離を取る。
レイラの斬撃でバランスを崩したレッサーデーモンは、私の少し前で、そのまま前のめりに倒れ込む。
『・・・氷槍[アイスランス]』
私が静かに発した魔術言と共に地面から突き出た氷の槍が、倒れ込むレッサーデーモンの喉元を貫いた。
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