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第5章 神々の異世界 ~天神回戦 其の弐~
第191話 対決、牛頭鬼の冥子3
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みづきの天神回戦、第三の試合は天眼多々良陣営、牛頭鬼の冥子と対する。
前回のまみおとの試合で見出した、地平の加護の本領をいよいよ発揮した。
洞察済み対象を丸々自分に付与する、キャラクタースロットの概念。
まず呼び出されたのは、こことは違う異世界の相棒、エルフのアイアノア。
『特質概念体・《エルフ・アイアノアより技能再現》・対象選択・《シキみづき》』
『効験付与・《太陽の加護》・地平の加護との同期完了』
「アイアノア、頼む! 太陽の加護を!」
アイアノアを最初に呼び出し、地平の加護を盤石とするため、何を置いてもいの一番に発動させておきたい超常の加護をもう一つ。
金色の長い髪で耳の長い幻想の乙女は、両手を天に向かって掲げた。
そうすれば彼女の手の中に、小さな太陽の如き光の球が出現する。
地平の加護の成功率、完成度を飛躍的に上げてくれる、太陽の加護であった。
頼りになる相棒と光の球を見やり、満足そうな笑顔のみづきはまみおが見ている南側の客席に一瞥をくれた。
さらなる特質概念を再現してみせ、自分の力へと変えていく。
『対象選択・《シキみづき》・洞察済み対象を基に特質概念を構築』
『《化け狸・まみお》・キャラクタースロットへの挿入完了』
「あっ、あれはっ……!? おいらだっ……!」
それを見ていたまみおは驚きに目を見開いた。
次にみづきが力を借りるために呼び出したのは、何とまみおの概念体であった。
アイアノアに並び、ちょこんとした狸姿のまみおがふんぞり返って現れていた。
先の試合で絶体絶命のまみおが、苦し紛れにみづきの力にすがろうとしたのと同じ状況である。
違うのはみづきが劣勢でも何でもないというところだ。
逃げも隠れもしないやる気満々のみづきを見て、冥子も力強く頷く。
厚みのある唇を吊り上げて歪め、好戦的に微笑む。
「みづき、見せてもらうわよ。太極天様のお力を操る自在術の程をねっ!」
剣の森の頂で、天を仰ぎ、両手を大きく広げて冥子は叫んだ。
無数の刃の枝葉が生き物めいて、一斉にガチャガチャと音を立て始める。
「吹けよ、烈風ッ! 踊り狂え、剣刃の舞ッ!」
みづきがここまで登ってくるのを待つなんてまどろっこしいことはしない。
風を操り、鋭い木の葉を意のままに飛ばして切り刻む。
冥子の苛烈な攻撃意思が宿った数え切れない剣の葉は、空中で舞を踊るが如くに飛び交い、眼下のみづき目掛けて次々と襲い掛かった。
「まみおっ、力を借りるぜっ!」
『特質概念体・《化け狸・まみおより技能再現》』
『効験付与・《童子転身及び変化宿し》』
対するみづきは、直ちに呼び出したばかりのまみおの能力を再現させる。
素早くシュババッと九字護身法の印を結んだまみおの概念体は、その場でくるりと宙返りをすると、狸から人間の少年の姿へと変化した。
今、観客席に居るまみおと同じ容姿の童子転身の奥義である。
間髪おかず、まみおの概念体は青々とした呪印入りの木の葉を一枚放り投げた。
それは、空に渦巻く鉛色の凶刃が降り注ぐ寸前のことであった。
ズドドドドドドドドドドドドドドドッ……!!
まさに手裏剣の嵐だ。
とても舞い落ちる葉っぱの威力とは思えない。
それらをまともに受ければ、切り刻まれるに済まず、身体中に穴を開けられる。
しかし、みづきはそうはならない。
何故ならもうすでにそこにはいないから。
「……ようし、うまくいった! まみお、ありがとなっ!」
地面に突き立った多くの剣の葉を、空の上から見下ろして。
みづきは空中へと逃れていた。
アイアノアとまみおを従えたままに。
飛行能力を有していないみづきが、空へと上がれた理由がその背にあった。
背中には鳥の翼が生えていた。
もちろん、ただの鳥の翼ではない。
空中に浮遊するまみおの概念体が新たな変化術を発動させている。
みづきの後ろのまみおのさらに後ろ、新たに召喚された対象が居る。
鳥面で山伏装束の妖怪、烏天狗である。
変化宿しの術で呼び出し、まみおを介して飛行能力をみづきに付与していた。
刀葉林よりも高く飛んだみづきを見上げ、冥子は驚嘆する。
「みづきが飛んだっ!? まみお様のお力を借りたのね!」
何をどうやったのかは、背後に従えているまみおの幻影を見ればわかった。
話に聞いていた通り、みづきは戦った相手の力を完全に模倣《もほう》する。
「でも、これだけの剣の葉。避けきれるかしら?」
冥子は再び風を起こす。
森の鋭い枝葉が激しい金属音を鳴らした。
空のみづきに向かって、おびただしい数の葉の刃が飛んでいく。
地上に居ようが空中に居ようが切り刻む結果には何ら変わりはない。
迫る刃の群れを眼下にして、みづきはさらなる権能を発現させた。
『対象選択・《シキみづき》・効験付与・《重力制御による慣性軽減》』
「……この金色の聖なる空と身も心も一体化するイメージを浮かべろ……!」
当然、空なんて飛んだことのないみづきは必死に思い出していた。
試合会場である太極天の社に至る際、天高い浮島から飛び降りて降臨してきた時の感覚を全身で体現しようと試みた。
加えて、地平の加護の常軌を逸する効果を自身に付与した。
烏天狗の力を借り、翼と神通力を用いた飛行能力で空中を移動する推進力を得た状態だが、神々の異世界にも万有引力は存在しているため、常に自重を支え飛行する反動を制御しなくてはならない。
空を飛んだ経験のないみづきには尚更に高い障害である。
但し、地平の加護なら、限定的に物体に掛かる重力を増減させることができる。
これにより、みづきの拙い飛行能力だろうとも烏天狗の翼から授かった推進力で凄まじい運動性を実現させることができたのだ。
「みづきってば、凄いのじゃ……! あんなに降臨が下手くそじゃったのに……」
「まるで箍の外れた鳥のようだ。少々、出鱈目な無軌道さを感じるけれどね」
神々の観覧席で日和は驚愕し、多々良は半ば呆れた風に苦笑いしていた。
それほどにみづきの飛び方は、滅茶苦茶であった。
急加速しては急停止し、縦に横にと無反動に飛行軌道を予測不能に変えている。
冥子の操る剣の葉も、ある程度はみづきの動きを予測して撃ち込まれているが、急激に速度と角度を変えながら自由自在に飛ばれては捉えることは不可能だ。
「すんげぇ……! みづきの奴、おいらより飛ぶのがうめぇ……!」
驚くのはまみおも同じだった。
自分の力を模倣されているはずなのに、みづきの変化術は本家まみおの力を遙かに超えていたのだから。
これこそが変化術の完全上位互換、地平の加護の真骨頂なのである。
お陰で、隙間なく空を埋め尽くして乱れ飛ぶ剣の葉はただの一枚もみづきに触れられていない。
尋常ならない回避能力であった。
思うだけですべての感情は抑えられ、身体は正確無比に動いてくれる。
どんな動きにも応える肉体と、どこまでも冴え渡る頭でみづきはぼやいた。
「地平の加護は思ったことを力に変えてくれるみたいだけど、こんな無茶はシキの身体だからできることだな……。生身の身体でこんな風に飛んだら、胃の中身全部ぶちまけちまうよ……」
標的を見失った刃の群れは相互に衝突し、砕けて空中に散らばる。
粉々になった欠片に日の光が反射して、きらきらと幻想的な光景を見せていた。
「えぇいッ! 何で一発も当たらないのよッ!? これだけの弾数、いったいどうして避けられるっていうのっ!? み、みづきぃっ!」
焦れる冥子が歯噛みして苛立たしげにみづきを見上げていると。
粉砕して舞い散る鉛色の木の葉に混じって、緑の葉っぱがひらりと冥子の肩の上に落ちてきた。
それは刀葉林の鋭利な葉ではない。
「──えっ? これは……?」
自分の肩を見て冥子は不思議そうな顔をするが、すぐにはっとなった。
空から剣の葉に紛れて降ってくる木の葉は一枚や二枚ではない。
気付けばかなりの数の緑色が、無数の鉛色を隠れ蓑にして広範囲に散見された。
「しまった! まみお様の仕業かッ!?」
冥子は驚きに叫んで天を仰ぐ。
自由奔放に飛ぶみづきに気を取られ過ぎていた。
実体を持たない概念体のまみおがいつの間にか別行動を取っていて、そこら中にこちらも概念体の緑の葉っぱを派手にばら撒いている。
まみお特性、呪印入りの変化術用葉っぱである。
みづきはにやりと笑った。
『特質概念体・《化け狸・まみおより技能再現》』
『効験付与・《化け口寄せ・鬼火乱舞》・対象選択・《全ての呪印の木の葉》』
地平の加護が発動し、空に漂うすべての木の葉が一斉に点火する。
木の葉を媒介にそれらは鬼火へと変化したかと思うと、瞬時に起爆を実行した。
たちまち試合会場の上空は炎に包まれ、断続的な爆発が巻き起こす狂乱の宴状態と化した。
無数の剣の葉を巻き込んで、爆炎が一気に噴き広がる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ……!!
大気の振動が試合の舞台と客席を隔てる、灯籠の結界をびりびりと揺らす。
目の前で空いっぱいに広がった花火のような爆発に客席は大いに沸いた。
「この程度の火ぃ、私には効かないって……!」
至近距離で爆発に巻かれた冥子だが、地獄の鬼にはどうということはない。
それは牛頭鬼の形態ではなく、人間のそれであっても差異はなかった。
「──知ってるよ!」
不意に間近でみづきの声がした。
冥子のすぐ後ろからだ。
冥子に生半可な火が通用しないことはわかっている。
これは当然目眩ましだ。
鬼火の爆発で攪乱、隙を突いて冥子との距離を詰める。
「ちぃッ! みづきぃっ!」
振り向きざま、背後から斬り掛かってくるみづきに冥子は金砕棒を合わせる。
ギィンッ、という金属同士が衝突する甲高い音が響いた。
冥子の焦りに歪んだ顔とみづきの不敵に笑う顔が、得物同士をかち合わせて爆煙の中で向き合った。
煙が晴れ、剣の森の樹上でみづきと冥子の戦いが繰り広げられている。
不安定な足場ながら冥子は木から木へと飛び移り、足だけで身体を支えて金砕棒を振り回した。
みづきは引き続き飛翔しながらそれに追撃していく。
「こ、これはっ! どういうことなのっ?! みづきっ、貴方ッ……!」
さらなる驚きの声が屈強な筋肉美女から漏れる。
追い掛けられる形でみづきと剣を合わせる冥子は防戦一方であった。
足場が悪いとか、牛頭鬼の正体を現していないとかは関係ない。
理由は不明ながら、みづきの剣の速さと威力に押され続けている。
「まみおとアイアノアの力が余分に乗ってる訳だけど、それだけじゃあない」
独り言のように言うみづきは新たに地平の加護の力を顕現させていた。
キャラクタースロットにアイアノアとまみおの特質概念を挿して力を増しただけでなく、さらにもう一つの特質概念を実験的に追加していたのだ。
『対象選択・《シキみづき》・洞察済み対象を基に特質概念を構築』
『《夜叉・慈乃姫》・キャラクタースロットへの挿入完了』
望んでもいないのに、気の短い慈乃にこれまで何度も命を脅かされた。
実際に剣を交えて力の差も思い知らされた。
地平の加護はその間も貪欲に慈乃の力を洞察し続けていたのだ。
転んでもただでは起きない。
それはみづきの好きな言葉でもあった。
「これって、慈乃姫様の剣じゃないのッ……!? どうしてみづきがッ!?」
冥子もその太刀筋には確かな覚えがあった。
多々良の下で鍛錬に励んでいたときに嫌というほど慈乃から見せられた。
右に左に身軽に回転し、重く速く、変幻自在の剣の閃きが飛んで来る。
みづきの動きにだぶって慈乃の流麗な姿が見えた気がした。
「──って言っても、まだまだ完全には物に出来てないんだけどなっ! 慈乃さんっぽい感じ、出てるだろっ!?」
「くぅぅッ……! みづきッ……!」
苦々しくひきつった冥子の顔と呻き声が、慈乃の再現率の高さを窺わせる。
まだ洞察は完了しておらず、劣化再現の域を出ていないが、地獄の鬼を怯ませ、押し込める程度には多々良陣営最強のシキの剣技を模倣できていた。
構築途上の概念であっても、明確に想像を働かせればそれは形になるようだ。
みづきの変化に気付いたのは冥子だけではない。
「おや、あれは慈乃の剣かい? みづき得意の模倣の技だね。先日、数度刃を合わせただけなのに、上手に真似をしてみせるものだ」
特別観覧席から見守る多々良も、みづきが慈乃の剣を真似しているのに気付く。
と、すかさずであった。
すぐ隣の日和が、多々良の服の袖にかじり付き、目を潤ませながら訴えた。
「せ、先日だけじゃないのじゃ! 多々良殿が見ておらんところで、私とみづきは慈乃姫殿に剣で脅され、虐められたのじゃっ! みづきがあれほどの剣の技を身につけられたのは、何度も命を脅かされた必死さの表れなのじゃっ!」
怖かったのじゃー、と嘘泣きに涙まで流してみせる日和は演技派。
但し、言っていることに虚偽はなく、慈乃に脅されたのは紛れもない事実だ。
多々良はさめざめと泣く日和から、逆隣の慈乃に視線を移す。
「慈乃、それは本当かい?」
「そ、それは……。その……」
さっきまでつんと澄ましていたのに、唐突に窮地に追い落とされたとばかりに顔を青ざめさせる慈乃。
いくら腹を立てて、格下が相手だったとしても試合の外での諍いが御法度なのは変わりはしない。
しかも、慈乃の犯した過ちはそれだけではなく。
「今更、慈乃を咎めるつもりはないよ。だけれど、剣技を模倣され、それが冥子の不利に繋がっては看過もできなくなる。試合の場ならばともかく、御法度とされる場外の諍いでのことなら話は別だよ。近頃の慈乃の振る舞いには目に余るところがあるね。少し、自己を省みる機会を設けてみてはどうかな」
多々良は静かに、悪い子を叱るよう淡々と言った。
冥子に不利が働くのは多々良陣営が損失を被るのと同じ。
多々良に迷惑を掛けてしまうのは、慈乃にとってこのうえもない失態であった。
「う、うぅ……。もっ、申し訳ありません、多々良様っ……!」
ふらっとよろめいて立ち上がり、慈乃は地に両手をついて叩頭すると全霊で主への許しを請うていた。
自分のすべては多々良のためにあるからこそ。
「慈乃、おやめ。他の神の御方たちが見ているよ」
頭の上から降ってくる主の声は、もうさして怒っているものではない。
このままみっともなく謝罪を続けては、それはまた別で迷惑を掛けてしまう。
慈乃はゆっくりと顔を上げた。
すると、多々良の向こう側で、慈乃にしか見えないように下瞼を指で引き下げ、赤い舌をべろんと出す、あっかんべえをする日和が見えた。
みづきの優勢に乗じて、いつかの時に脅かされ馬鹿にされたのを根に持った日和の仕返しだったことは言うまでもない。
──おのれ! 屈辱です! 多々良様の前でこのような恥を掻かせるなどっ……! すべてはあのみづきのせいに他なりません! 私の剣を無断で模倣までして……! 許すまじ、決して許すまじッ!
「くぅぅっ……!」
唇を噛みしめ、肩を震わせる慈乃が思うのは腸が煮えくり返るほどの憤怒だ。
慈乃の怒りの眼差しを受けてか、みづきの背筋に悪寒が走る。
「うぅ、いま何か寒気が……。剣を真似したのが慈乃さんにばれたな……」
「余所見してる場合かしらぁっ!?」
ちらっと日和たちの席のほうを見やるみづきに、冥子は必死に反撃に転じる。
大振りの金棒は空を切り、みづきは余所見したまま冥子の懐に飛び込んできた。
その目に流し目に見られ、冥子はごくりと息を呑んだ。
みづきは剣の柄を一層力強く握り直し、物言わぬ気合いを全身より放った。
遠い先祖より受け継ぎ、自分の内に眠っていた必殺の剣を発動させる。
『蜘蛛の神を退治した剣士たちはそれぞれ「花」を家名に持っていた。──佐倉、さくら、桜。清楽父さんや剣藤じいちゃん、それよりももっともっと遠いご先祖様は蜘蛛の神を調伏した蜘蛛切りの剣士だったんだ。三月、君はその末裔なんだよ』
雛月の言葉が頭の中で繰り返し響いた。
これは数々の模倣の技ではない。
みづき自身に備わる正真正銘の顕在力だ。
全身から黄龍氣の金色の放射体が噴き出し、顔や身体に地平の加護の光回路の線模様がまざまざと浮かび上がった。
剣士、みづきの渾身の一撃が決まる。
「多々良さん、よく見といてくれよっ! 冥子、歯ぁ食いしばれっ!」
避けようのない懐に入った間合いで、光の如き速さの切り上げ一閃を走らせた。
冥子の右脇腹から左の肩に掛けて光の筋が鋭く刻まれる。
瞬間、白く輝く傷口から爆発的な勢いで光の欠片が数多くほとばしった。
それらはまるで花びらのようで、ひらひらと舞い上がって空間中を埋め尽くす。
「あっ、ああああああああぁぁぁぁッ……!!」
両目を閉じて表情を歪め、上体を反らした冥子の苦悶の悲鳴が響き渡った。
いかなる剣の刃も通さない獄卒鬼の鋼の肉体に初めてダメージが通る。
これは太極天の恩寵を宿した必殺剣ではない。
魔を払い、神さえ鎮める、蜘蛛切りの剣士が秘める奥義の剣である。
神鎮ノ花嵐──。
空へ上がっていく光の花弁を見送り、みづきは神々の観覧席を見やって言った。
「よしっ、これでノルマ達成だ! 約束は果たしたからな、多々良さん!」
そして、それは多々良と交わした神との約束の一つ。
冥子と試合をさせてもらえる代わりに、神鎮めの剣技を使うこと。
あと一つの約束はともかく、今回の試合で果たすべき義理はこれにてお終い。
ただしかし。
冥子に視線を戻し、みづきは眉をひそめた。
──だけど、やっぱり必殺の一撃とはいかなかったな。相手が神様じゃなくてシキなら太極天の恩寵を伝えた剣のほうが効果が高い。
呻く冥子の胸板に浮かぶ光線めいた傷跡が、徐々にふさがりつつあった。
聖なる大神たる太極天の力を叩き込んでいれば、今の一撃で勝負は決していただろうが神鎮ノ花嵐では致命傷には至っていない。
この技が正しく威力を発揮できるのは神と相対した時、即ち神殺しの時機に他ならないのである。
前回のまみおとの試合で見出した、地平の加護の本領をいよいよ発揮した。
洞察済み対象を丸々自分に付与する、キャラクタースロットの概念。
まず呼び出されたのは、こことは違う異世界の相棒、エルフのアイアノア。
『特質概念体・《エルフ・アイアノアより技能再現》・対象選択・《シキみづき》』
『効験付与・《太陽の加護》・地平の加護との同期完了』
「アイアノア、頼む! 太陽の加護を!」
アイアノアを最初に呼び出し、地平の加護を盤石とするため、何を置いてもいの一番に発動させておきたい超常の加護をもう一つ。
金色の長い髪で耳の長い幻想の乙女は、両手を天に向かって掲げた。
そうすれば彼女の手の中に、小さな太陽の如き光の球が出現する。
地平の加護の成功率、完成度を飛躍的に上げてくれる、太陽の加護であった。
頼りになる相棒と光の球を見やり、満足そうな笑顔のみづきはまみおが見ている南側の客席に一瞥をくれた。
さらなる特質概念を再現してみせ、自分の力へと変えていく。
『対象選択・《シキみづき》・洞察済み対象を基に特質概念を構築』
『《化け狸・まみお》・キャラクタースロットへの挿入完了』
「あっ、あれはっ……!? おいらだっ……!」
それを見ていたまみおは驚きに目を見開いた。
次にみづきが力を借りるために呼び出したのは、何とまみおの概念体であった。
アイアノアに並び、ちょこんとした狸姿のまみおがふんぞり返って現れていた。
先の試合で絶体絶命のまみおが、苦し紛れにみづきの力にすがろうとしたのと同じ状況である。
違うのはみづきが劣勢でも何でもないというところだ。
逃げも隠れもしないやる気満々のみづきを見て、冥子も力強く頷く。
厚みのある唇を吊り上げて歪め、好戦的に微笑む。
「みづき、見せてもらうわよ。太極天様のお力を操る自在術の程をねっ!」
剣の森の頂で、天を仰ぎ、両手を大きく広げて冥子は叫んだ。
無数の刃の枝葉が生き物めいて、一斉にガチャガチャと音を立て始める。
「吹けよ、烈風ッ! 踊り狂え、剣刃の舞ッ!」
みづきがここまで登ってくるのを待つなんてまどろっこしいことはしない。
風を操り、鋭い木の葉を意のままに飛ばして切り刻む。
冥子の苛烈な攻撃意思が宿った数え切れない剣の葉は、空中で舞を踊るが如くに飛び交い、眼下のみづき目掛けて次々と襲い掛かった。
「まみおっ、力を借りるぜっ!」
『特質概念体・《化け狸・まみおより技能再現》』
『効験付与・《童子転身及び変化宿し》』
対するみづきは、直ちに呼び出したばかりのまみおの能力を再現させる。
素早くシュババッと九字護身法の印を結んだまみおの概念体は、その場でくるりと宙返りをすると、狸から人間の少年の姿へと変化した。
今、観客席に居るまみおと同じ容姿の童子転身の奥義である。
間髪おかず、まみおの概念体は青々とした呪印入りの木の葉を一枚放り投げた。
それは、空に渦巻く鉛色の凶刃が降り注ぐ寸前のことであった。
ズドドドドドドドドドドドドドドドッ……!!
まさに手裏剣の嵐だ。
とても舞い落ちる葉っぱの威力とは思えない。
それらをまともに受ければ、切り刻まれるに済まず、身体中に穴を開けられる。
しかし、みづきはそうはならない。
何故ならもうすでにそこにはいないから。
「……ようし、うまくいった! まみお、ありがとなっ!」
地面に突き立った多くの剣の葉を、空の上から見下ろして。
みづきは空中へと逃れていた。
アイアノアとまみおを従えたままに。
飛行能力を有していないみづきが、空へと上がれた理由がその背にあった。
背中には鳥の翼が生えていた。
もちろん、ただの鳥の翼ではない。
空中に浮遊するまみおの概念体が新たな変化術を発動させている。
みづきの後ろのまみおのさらに後ろ、新たに召喚された対象が居る。
鳥面で山伏装束の妖怪、烏天狗である。
変化宿しの術で呼び出し、まみおを介して飛行能力をみづきに付与していた。
刀葉林よりも高く飛んだみづきを見上げ、冥子は驚嘆する。
「みづきが飛んだっ!? まみお様のお力を借りたのね!」
何をどうやったのかは、背後に従えているまみおの幻影を見ればわかった。
話に聞いていた通り、みづきは戦った相手の力を完全に模倣《もほう》する。
「でも、これだけの剣の葉。避けきれるかしら?」
冥子は再び風を起こす。
森の鋭い枝葉が激しい金属音を鳴らした。
空のみづきに向かって、おびただしい数の葉の刃が飛んでいく。
地上に居ようが空中に居ようが切り刻む結果には何ら変わりはない。
迫る刃の群れを眼下にして、みづきはさらなる権能を発現させた。
『対象選択・《シキみづき》・効験付与・《重力制御による慣性軽減》』
「……この金色の聖なる空と身も心も一体化するイメージを浮かべろ……!」
当然、空なんて飛んだことのないみづきは必死に思い出していた。
試合会場である太極天の社に至る際、天高い浮島から飛び降りて降臨してきた時の感覚を全身で体現しようと試みた。
加えて、地平の加護の常軌を逸する効果を自身に付与した。
烏天狗の力を借り、翼と神通力を用いた飛行能力で空中を移動する推進力を得た状態だが、神々の異世界にも万有引力は存在しているため、常に自重を支え飛行する反動を制御しなくてはならない。
空を飛んだ経験のないみづきには尚更に高い障害である。
但し、地平の加護なら、限定的に物体に掛かる重力を増減させることができる。
これにより、みづきの拙い飛行能力だろうとも烏天狗の翼から授かった推進力で凄まじい運動性を実現させることができたのだ。
「みづきってば、凄いのじゃ……! あんなに降臨が下手くそじゃったのに……」
「まるで箍の外れた鳥のようだ。少々、出鱈目な無軌道さを感じるけれどね」
神々の観覧席で日和は驚愕し、多々良は半ば呆れた風に苦笑いしていた。
それほどにみづきの飛び方は、滅茶苦茶であった。
急加速しては急停止し、縦に横にと無反動に飛行軌道を予測不能に変えている。
冥子の操る剣の葉も、ある程度はみづきの動きを予測して撃ち込まれているが、急激に速度と角度を変えながら自由自在に飛ばれては捉えることは不可能だ。
「すんげぇ……! みづきの奴、おいらより飛ぶのがうめぇ……!」
驚くのはまみおも同じだった。
自分の力を模倣されているはずなのに、みづきの変化術は本家まみおの力を遙かに超えていたのだから。
これこそが変化術の完全上位互換、地平の加護の真骨頂なのである。
お陰で、隙間なく空を埋め尽くして乱れ飛ぶ剣の葉はただの一枚もみづきに触れられていない。
尋常ならない回避能力であった。
思うだけですべての感情は抑えられ、身体は正確無比に動いてくれる。
どんな動きにも応える肉体と、どこまでも冴え渡る頭でみづきはぼやいた。
「地平の加護は思ったことを力に変えてくれるみたいだけど、こんな無茶はシキの身体だからできることだな……。生身の身体でこんな風に飛んだら、胃の中身全部ぶちまけちまうよ……」
標的を見失った刃の群れは相互に衝突し、砕けて空中に散らばる。
粉々になった欠片に日の光が反射して、きらきらと幻想的な光景を見せていた。
「えぇいッ! 何で一発も当たらないのよッ!? これだけの弾数、いったいどうして避けられるっていうのっ!? み、みづきぃっ!」
焦れる冥子が歯噛みして苛立たしげにみづきを見上げていると。
粉砕して舞い散る鉛色の木の葉に混じって、緑の葉っぱがひらりと冥子の肩の上に落ちてきた。
それは刀葉林の鋭利な葉ではない。
「──えっ? これは……?」
自分の肩を見て冥子は不思議そうな顔をするが、すぐにはっとなった。
空から剣の葉に紛れて降ってくる木の葉は一枚や二枚ではない。
気付けばかなりの数の緑色が、無数の鉛色を隠れ蓑にして広範囲に散見された。
「しまった! まみお様の仕業かッ!?」
冥子は驚きに叫んで天を仰ぐ。
自由奔放に飛ぶみづきに気を取られ過ぎていた。
実体を持たない概念体のまみおがいつの間にか別行動を取っていて、そこら中にこちらも概念体の緑の葉っぱを派手にばら撒いている。
まみお特性、呪印入りの変化術用葉っぱである。
みづきはにやりと笑った。
『特質概念体・《化け狸・まみおより技能再現》』
『効験付与・《化け口寄せ・鬼火乱舞》・対象選択・《全ての呪印の木の葉》』
地平の加護が発動し、空に漂うすべての木の葉が一斉に点火する。
木の葉を媒介にそれらは鬼火へと変化したかと思うと、瞬時に起爆を実行した。
たちまち試合会場の上空は炎に包まれ、断続的な爆発が巻き起こす狂乱の宴状態と化した。
無数の剣の葉を巻き込んで、爆炎が一気に噴き広がる。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ……!!
大気の振動が試合の舞台と客席を隔てる、灯籠の結界をびりびりと揺らす。
目の前で空いっぱいに広がった花火のような爆発に客席は大いに沸いた。
「この程度の火ぃ、私には効かないって……!」
至近距離で爆発に巻かれた冥子だが、地獄の鬼にはどうということはない。
それは牛頭鬼の形態ではなく、人間のそれであっても差異はなかった。
「──知ってるよ!」
不意に間近でみづきの声がした。
冥子のすぐ後ろからだ。
冥子に生半可な火が通用しないことはわかっている。
これは当然目眩ましだ。
鬼火の爆発で攪乱、隙を突いて冥子との距離を詰める。
「ちぃッ! みづきぃっ!」
振り向きざま、背後から斬り掛かってくるみづきに冥子は金砕棒を合わせる。
ギィンッ、という金属同士が衝突する甲高い音が響いた。
冥子の焦りに歪んだ顔とみづきの不敵に笑う顔が、得物同士をかち合わせて爆煙の中で向き合った。
煙が晴れ、剣の森の樹上でみづきと冥子の戦いが繰り広げられている。
不安定な足場ながら冥子は木から木へと飛び移り、足だけで身体を支えて金砕棒を振り回した。
みづきは引き続き飛翔しながらそれに追撃していく。
「こ、これはっ! どういうことなのっ?! みづきっ、貴方ッ……!」
さらなる驚きの声が屈強な筋肉美女から漏れる。
追い掛けられる形でみづきと剣を合わせる冥子は防戦一方であった。
足場が悪いとか、牛頭鬼の正体を現していないとかは関係ない。
理由は不明ながら、みづきの剣の速さと威力に押され続けている。
「まみおとアイアノアの力が余分に乗ってる訳だけど、それだけじゃあない」
独り言のように言うみづきは新たに地平の加護の力を顕現させていた。
キャラクタースロットにアイアノアとまみおの特質概念を挿して力を増しただけでなく、さらにもう一つの特質概念を実験的に追加していたのだ。
『対象選択・《シキみづき》・洞察済み対象を基に特質概念を構築』
『《夜叉・慈乃姫》・キャラクタースロットへの挿入完了』
望んでもいないのに、気の短い慈乃にこれまで何度も命を脅かされた。
実際に剣を交えて力の差も思い知らされた。
地平の加護はその間も貪欲に慈乃の力を洞察し続けていたのだ。
転んでもただでは起きない。
それはみづきの好きな言葉でもあった。
「これって、慈乃姫様の剣じゃないのッ……!? どうしてみづきがッ!?」
冥子もその太刀筋には確かな覚えがあった。
多々良の下で鍛錬に励んでいたときに嫌というほど慈乃から見せられた。
右に左に身軽に回転し、重く速く、変幻自在の剣の閃きが飛んで来る。
みづきの動きにだぶって慈乃の流麗な姿が見えた気がした。
「──って言っても、まだまだ完全には物に出来てないんだけどなっ! 慈乃さんっぽい感じ、出てるだろっ!?」
「くぅぅッ……! みづきッ……!」
苦々しくひきつった冥子の顔と呻き声が、慈乃の再現率の高さを窺わせる。
まだ洞察は完了しておらず、劣化再現の域を出ていないが、地獄の鬼を怯ませ、押し込める程度には多々良陣営最強のシキの剣技を模倣できていた。
構築途上の概念であっても、明確に想像を働かせればそれは形になるようだ。
みづきの変化に気付いたのは冥子だけではない。
「おや、あれは慈乃の剣かい? みづき得意の模倣の技だね。先日、数度刃を合わせただけなのに、上手に真似をしてみせるものだ」
特別観覧席から見守る多々良も、みづきが慈乃の剣を真似しているのに気付く。
と、すかさずであった。
すぐ隣の日和が、多々良の服の袖にかじり付き、目を潤ませながら訴えた。
「せ、先日だけじゃないのじゃ! 多々良殿が見ておらんところで、私とみづきは慈乃姫殿に剣で脅され、虐められたのじゃっ! みづきがあれほどの剣の技を身につけられたのは、何度も命を脅かされた必死さの表れなのじゃっ!」
怖かったのじゃー、と嘘泣きに涙まで流してみせる日和は演技派。
但し、言っていることに虚偽はなく、慈乃に脅されたのは紛れもない事実だ。
多々良はさめざめと泣く日和から、逆隣の慈乃に視線を移す。
「慈乃、それは本当かい?」
「そ、それは……。その……」
さっきまでつんと澄ましていたのに、唐突に窮地に追い落とされたとばかりに顔を青ざめさせる慈乃。
いくら腹を立てて、格下が相手だったとしても試合の外での諍いが御法度なのは変わりはしない。
しかも、慈乃の犯した過ちはそれだけではなく。
「今更、慈乃を咎めるつもりはないよ。だけれど、剣技を模倣され、それが冥子の不利に繋がっては看過もできなくなる。試合の場ならばともかく、御法度とされる場外の諍いでのことなら話は別だよ。近頃の慈乃の振る舞いには目に余るところがあるね。少し、自己を省みる機会を設けてみてはどうかな」
多々良は静かに、悪い子を叱るよう淡々と言った。
冥子に不利が働くのは多々良陣営が損失を被るのと同じ。
多々良に迷惑を掛けてしまうのは、慈乃にとってこのうえもない失態であった。
「う、うぅ……。もっ、申し訳ありません、多々良様っ……!」
ふらっとよろめいて立ち上がり、慈乃は地に両手をついて叩頭すると全霊で主への許しを請うていた。
自分のすべては多々良のためにあるからこそ。
「慈乃、おやめ。他の神の御方たちが見ているよ」
頭の上から降ってくる主の声は、もうさして怒っているものではない。
このままみっともなく謝罪を続けては、それはまた別で迷惑を掛けてしまう。
慈乃はゆっくりと顔を上げた。
すると、多々良の向こう側で、慈乃にしか見えないように下瞼を指で引き下げ、赤い舌をべろんと出す、あっかんべえをする日和が見えた。
みづきの優勢に乗じて、いつかの時に脅かされ馬鹿にされたのを根に持った日和の仕返しだったことは言うまでもない。
──おのれ! 屈辱です! 多々良様の前でこのような恥を掻かせるなどっ……! すべてはあのみづきのせいに他なりません! 私の剣を無断で模倣までして……! 許すまじ、決して許すまじッ!
「くぅぅっ……!」
唇を噛みしめ、肩を震わせる慈乃が思うのは腸が煮えくり返るほどの憤怒だ。
慈乃の怒りの眼差しを受けてか、みづきの背筋に悪寒が走る。
「うぅ、いま何か寒気が……。剣を真似したのが慈乃さんにばれたな……」
「余所見してる場合かしらぁっ!?」
ちらっと日和たちの席のほうを見やるみづきに、冥子は必死に反撃に転じる。
大振りの金棒は空を切り、みづきは余所見したまま冥子の懐に飛び込んできた。
その目に流し目に見られ、冥子はごくりと息を呑んだ。
みづきは剣の柄を一層力強く握り直し、物言わぬ気合いを全身より放った。
遠い先祖より受け継ぎ、自分の内に眠っていた必殺の剣を発動させる。
『蜘蛛の神を退治した剣士たちはそれぞれ「花」を家名に持っていた。──佐倉、さくら、桜。清楽父さんや剣藤じいちゃん、それよりももっともっと遠いご先祖様は蜘蛛の神を調伏した蜘蛛切りの剣士だったんだ。三月、君はその末裔なんだよ』
雛月の言葉が頭の中で繰り返し響いた。
これは数々の模倣の技ではない。
みづき自身に備わる正真正銘の顕在力だ。
全身から黄龍氣の金色の放射体が噴き出し、顔や身体に地平の加護の光回路の線模様がまざまざと浮かび上がった。
剣士、みづきの渾身の一撃が決まる。
「多々良さん、よく見といてくれよっ! 冥子、歯ぁ食いしばれっ!」
避けようのない懐に入った間合いで、光の如き速さの切り上げ一閃を走らせた。
冥子の右脇腹から左の肩に掛けて光の筋が鋭く刻まれる。
瞬間、白く輝く傷口から爆発的な勢いで光の欠片が数多くほとばしった。
それらはまるで花びらのようで、ひらひらと舞い上がって空間中を埋め尽くす。
「あっ、ああああああああぁぁぁぁッ……!!」
両目を閉じて表情を歪め、上体を反らした冥子の苦悶の悲鳴が響き渡った。
いかなる剣の刃も通さない獄卒鬼の鋼の肉体に初めてダメージが通る。
これは太極天の恩寵を宿した必殺剣ではない。
魔を払い、神さえ鎮める、蜘蛛切りの剣士が秘める奥義の剣である。
神鎮ノ花嵐──。
空へ上がっていく光の花弁を見送り、みづきは神々の観覧席を見やって言った。
「よしっ、これでノルマ達成だ! 約束は果たしたからな、多々良さん!」
そして、それは多々良と交わした神との約束の一つ。
冥子と試合をさせてもらえる代わりに、神鎮めの剣技を使うこと。
あと一つの約束はともかく、今回の試合で果たすべき義理はこれにてお終い。
ただしかし。
冥子に視線を戻し、みづきは眉をひそめた。
──だけど、やっぱり必殺の一撃とはいかなかったな。相手が神様じゃなくてシキなら太極天の恩寵を伝えた剣のほうが効果が高い。
呻く冥子の胸板に浮かぶ光線めいた傷跡が、徐々にふさがりつつあった。
聖なる大神たる太極天の力を叩き込んでいれば、今の一撃で勝負は決していただろうが神鎮ノ花嵐では致命傷には至っていない。
この技が正しく威力を発揮できるのは神と相対した時、即ち神殺しの時機に他ならないのである。
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