62 / 66
宣戦布告
しおりを挟む
聖都サーライ 星見の塔 天空浴場
「いざ参る!」
アーヴィンが跳躍し、その仕込み杖が振るわれ、幾重もの剣閃が魔王ルチフェロに向かって奔る。
「僕は今、イズミと話してるんだから、邪魔しないでよ」
黒髪の美少年は賢者の繰り出す斬撃をひょいひょいと躱しつつ、彼に向かってピタリと左手の人差し指を突き出す。
一瞬の貯め。
魔王がその身体から放つのは、淫気だけではない。
その指先に黒く輝く殺気が込められていく。
肌にビリビリと感じる圧力で、それに人一人の命を簡単に奪える威力があると嫌でも理解させられる。
耳を突くような摩擦音がして漆黒のエネルギーが迸り、アーヴィンはそれを至近距離で切り払った。
「流石だね、聖者の血を引きし者よ」
ルチフェロが嗤い、そして今度は左手の指先全てに殺気が集約されていく。
アーヴィンがサーライの子孫??
二人の戦いを思わず見守っていた自分に気付き、共に戦わなければとお湯から上がる。
刀はこの階に降りた直ぐの所、畳んだ衣服の上に置いてある。
美少年がアーヴィンの刀と指先で斬り結びながら、私に視線を投げかけた。
「イズミはもう少しそこで可愛くしててね」
アーヴィンと戦いながら、少年は右手の人差し指をクイっと曲げる。
彼の指先の「淫の気」は、乳首から離れていても私の身体と繋がったままだった。
私は突如として、無慈悲に、脈絡なく、とてつもない淫悦に襲われ、その場で散々愛撫された後のように潮を吹かされる。
「ああーんっっ!う!あぉお❤」
膝が抜けてその場に座り込みながら、また自慰行為をさせられる。
今の私はお湯から上がっていて、その全部を魔王と賢者の男子二人に見られてるのにぃ!
「イズミ殿ぉ!?」
私の痴態に気を取られたアーヴィンの腕を、そして膝を、漆黒のエネルギーが貫き、肉が焦げ付いたような匂いが浴室に漂う。
「ぐぅ!?」
賢者は仕込み杖を落として膝をつき、魔王は足元に転がってきた刃をゆったりとした動作で拾った。
ふむふむ、なるほど、と言いながらその刃を裏返し、立てては片目で眺めて鑑定する。
「これは、あの聖者が使っていた刀身を使っているんだね」
その反りのある刀身と刃紋……それはどう見ても日本刀の刀身。
気になるけど、今はそれどころじゃない、このままではアーヴィンが殺されてしまう。
凄く気持ちいいからって、それが何!?
「うぅ~!」
動け足!
祖父の日本刀に向けて、私は再び床を蹴る。
「ほら、やっぱりだ」
そんな私を見て少年は天使の笑みを漏らし、アーヴィンへの興味を失って仕込み杖を投げ捨て、飛び、私と刀の間に着地して、そのままこちらに向けて掌を突き出す。
「!!」
魔王の翳した手の平と身体が接触する前に、何とか踏みとどまろうと後ろに体重を移動させてのブレーキング。でも、何の所為か足元からヌルヌルと滑って、少年の付き出した手のひらにお腹がピッタリと接触した所で止まる。
「あ……」
魔王の手が私の肌に吸い付く。
殺気はまだ無い。
この間合いでは、彼がその手に殺気を込めて、アーヴィンを貫いたエネルギーを繰り出せば、そこで私は終わり。
動けない。
暴漢の手を受けたときと同じ、死を予感して身体が動かなくなる感覚に、全身が汗ばむ。
そこに、涼風が吹いた。
魔王が飛び退き、私と魔王との間に差し込まれた騎士剣が日の光を浴びて輝く。
私を庇い、毅然と立つ男性の姿。
「ライディール様!」
「イズミ、下がってくれ」
「聖女を守護する、この国最強の騎士。それに、聖者の子孫か。いいね」
ルチフェロは、ライディール様を、そして私の後ろに立つアーヴィンの二人を楽し気に見つめる。
仕込み杖をまさしく杖として身体を支え立っていた賢者が口を開く。
「お前の企みは分かっています、魔王ルチフェロ。500年前、我が祖サーライによって誅されたお前が、その目的を変えたことも······」
「フフっ、もうその時点で間違えてるよ。僕の目的は今も昔も変わらない。それはさておいて、今の僕の狙いは一つ。聖女イズミの心さ」
何か事情を知る者同士の会話。
魔王の狙いは、この世界を陰で満たす事……ではないの!?
単に、聖者を始末すれば、それが即ちこの世界の破滅なのだから、そう言い換えてるだけ?
「私の心を……壊すっていう事?」
恐怖心もあり、好奇心もあり、私の心を狙うと公言した美少年にその真意を問いかける。
彼は「ああ、そう思っちゃうか、そうだよね」と独り言を零し、ウンウンと頷いてから、私を見た。
「違うよ、君の心を僕のものにする」
その目は真剣そのもので、一人の人間が、心の底から私の人生を求めている、そんな生涯一度の場面を想像して、ドキっとする。
「イズミ殿、悪魔の言葉に耳を傾けてはなりません」
賢者からの警告が飛ぶ。
私もそう思う、悪魔は人心を惑わす存在なのだから。
でも、今そこで超絶美少年が私を欲しいって言ってる、完全に耳を塞ぐのは無理ぃ!
「僕は聖者によって敗れた。彼の剣の腕前もそうだったけど、何よりも、人の心の凄さを改めて思い知った。この僕が何をもってしても彼の信念を打ち砕くことはできなかった。全く揺らがなかった。生と死の狭間で生きながらも、生き様と死に様に心を求める境地に至った男によって、僕は敗北した」
生き様と死に様に心を求める境地、それってまるで……。
「僕は悟った。聖者に勝つって事は、人の心に勝つって事だ。この500年考えたよ。どうやったら、何をしたら、人の心に勝ったと言えるのか?」
彼はとても楽し気に、そして得意げに喋る。
その頭の角と、背中の翼が無ければ、子供が得意げに、新しい気付きを大人に話しているようにしか見えないだろう。
人の心に勝つとは……?
私にとって、私の心は敵でもあり味方でもある。だから、心に勝つとは即ち、自分の弱さに負けない事だと思う。間違ったことをせず、正しい事をする。それには強い心が必要。
でも、魔王は私の心に勝つ!と言ってる。
他人の心と戦うとは、心から屈服させること……?
「それって、私の意思を挫く事ではないの……?」
「前の聖者の時にはそれをしようとした。使命感や、義侠心。数々の清らかな願い。それを遂行する意思の源である心の中の聖域を砕き、ねじ伏せようとして、敗れた。だから違う方法を考えた。そして思った。心の中にある聖域……僕がソレになれば、人の心に勝ったと言えるんじゃないかと」
唖然とする。言っている事は分かるのに、意味が分からない。
実際魔王自身も、その方法を具体的には理解していない様子だ。
聖域とは即ち私の心の中にある大事な分の事だろう。
例えば、私の中心にはおじいちゃんの教えがある……と思う。その周りに、現代日本人として刷り込まれた価値観がある。
彼は如何にしてそこに入り込み、私の心の在り方を変えようというのだろうか?
「そして「あの聖星」が僕の新たなる相手として君を選んだ。だから今度の戦いで僕はイズミ、君の心を手に入れる」
その黒紫の魔瞳に射抜かれて、睨み返すことも目を背けることもできない私の中で、心音と共に動揺が大きく膨らんでいく。
私は、ぶっちゃけ心とか強くない。
どうして、聖星が私を選んだのか、全然分からない。
破れかぶれになって「捨て身」になった事はあっても、死ぬのは怖いし、怖いものは怖いし、気持ちいいのは好きだし、淫らのも、好き。
異性に性の対象にされるのも、意地悪な事されるのも、本当は嬉しい。
楽な道、楽しい道があれば絶対そっちを選ぶし、食べたかったら深夜でも甘いものを食べてしまう。
寝なくちゃいけないのにゲームしたり漫画を読んじゃったり動画を見たり。
つまらない映画を見たら、作品名+つまらないで検索して、同じ意見を探しちゃったり。
朝、鏡に映った自分が盛れてないと思っただけで、学校に行きたくなくなったり。
全然聖者なんかじゃない。
だから、魔王なんて圧倒的な存在が私を欲したのなら、それに抗える自信は全くない。
肉体的苦痛、精神的苦痛、大きすぎる快楽、考えられる責め苦の一つにしても、耐えられる気がしない。
私の心に渦巻く恐怖や怯み、自己否定感、微かにある破滅への期待や願望を見透かした美少年がその目を細める。
「どうやって聖女の心を僕のものにしようか、いまからワクワクしてるよ」
「俺がさせない」
ライディール様は静かに、力強く、真っ向から魔王に逆らった。
彼の言葉が波紋となって広がり、私の身体を通り抜ける。
不安が全て消し飛ぶ……とはいかなくても、私の中に暖かな希望の灯が揺らめくのを感じた。
そうだ。
戦う前から負けるなんて、かっこ悪い!
聖星だって、きっと私を守ってくれる。
送り込んだんだから、それくらい責任もってよね!?
「愛の力?それとも誓いの力かな?やってみるといい」
魔王が翼を広げ、彼を中心に旋風が渦巻く。
ちょっと!この暴風で飛ばされて塔から落ちたら死んじゃうじゃないっ!?
慌てて空を探った私の手を、ライディール様が捕まえてくれる。うっ。汗で滑る…っ!
「顔を見て、お話出来てよかったよ。聖女イズミ」
大きな翼が一度羽ばたき、少年の身体は柵を超えて塔の外へと流れる。
「これは僕からの宣戦布告だ。僕の用意した試練を乗り越えてごらん。まずは西へ、次は南へ、そして北。最後はこの中央に戻ってくるんだ」
天使の外見を持つ美少年、魔王ルチフェロは私に向けた右手の人差し指を、クイッと曲げた。
「じゃあ……「いってらっしゃい」。聖女イズミ」
暴風が巻き起こり、魔王は最後に私に悪戯してから姿を消す。
それは魔力を込めて私を壊すようなものではなく、本当に、彼の素としての、ただの子供の、道場にくるくらいの年頃の男の子の指が、優しく陰核をなぞった後に陰裂を割って入ってきたかのような、ピュアなもの。
「ひゃんっ♥」
火照って汗ばんだ腕が、スルッとライディール様の手をすり抜けて。
私は背後から抱き付いてくるような異開門の光に飲まれた。
「えっ」
「いざ参る!」
アーヴィンが跳躍し、その仕込み杖が振るわれ、幾重もの剣閃が魔王ルチフェロに向かって奔る。
「僕は今、イズミと話してるんだから、邪魔しないでよ」
黒髪の美少年は賢者の繰り出す斬撃をひょいひょいと躱しつつ、彼に向かってピタリと左手の人差し指を突き出す。
一瞬の貯め。
魔王がその身体から放つのは、淫気だけではない。
その指先に黒く輝く殺気が込められていく。
肌にビリビリと感じる圧力で、それに人一人の命を簡単に奪える威力があると嫌でも理解させられる。
耳を突くような摩擦音がして漆黒のエネルギーが迸り、アーヴィンはそれを至近距離で切り払った。
「流石だね、聖者の血を引きし者よ」
ルチフェロが嗤い、そして今度は左手の指先全てに殺気が集約されていく。
アーヴィンがサーライの子孫??
二人の戦いを思わず見守っていた自分に気付き、共に戦わなければとお湯から上がる。
刀はこの階に降りた直ぐの所、畳んだ衣服の上に置いてある。
美少年がアーヴィンの刀と指先で斬り結びながら、私に視線を投げかけた。
「イズミはもう少しそこで可愛くしててね」
アーヴィンと戦いながら、少年は右手の人差し指をクイっと曲げる。
彼の指先の「淫の気」は、乳首から離れていても私の身体と繋がったままだった。
私は突如として、無慈悲に、脈絡なく、とてつもない淫悦に襲われ、その場で散々愛撫された後のように潮を吹かされる。
「ああーんっっ!う!あぉお❤」
膝が抜けてその場に座り込みながら、また自慰行為をさせられる。
今の私はお湯から上がっていて、その全部を魔王と賢者の男子二人に見られてるのにぃ!
「イズミ殿ぉ!?」
私の痴態に気を取られたアーヴィンの腕を、そして膝を、漆黒のエネルギーが貫き、肉が焦げ付いたような匂いが浴室に漂う。
「ぐぅ!?」
賢者は仕込み杖を落として膝をつき、魔王は足元に転がってきた刃をゆったりとした動作で拾った。
ふむふむ、なるほど、と言いながらその刃を裏返し、立てては片目で眺めて鑑定する。
「これは、あの聖者が使っていた刀身を使っているんだね」
その反りのある刀身と刃紋……それはどう見ても日本刀の刀身。
気になるけど、今はそれどころじゃない、このままではアーヴィンが殺されてしまう。
凄く気持ちいいからって、それが何!?
「うぅ~!」
動け足!
祖父の日本刀に向けて、私は再び床を蹴る。
「ほら、やっぱりだ」
そんな私を見て少年は天使の笑みを漏らし、アーヴィンへの興味を失って仕込み杖を投げ捨て、飛び、私と刀の間に着地して、そのままこちらに向けて掌を突き出す。
「!!」
魔王の翳した手の平と身体が接触する前に、何とか踏みとどまろうと後ろに体重を移動させてのブレーキング。でも、何の所為か足元からヌルヌルと滑って、少年の付き出した手のひらにお腹がピッタリと接触した所で止まる。
「あ……」
魔王の手が私の肌に吸い付く。
殺気はまだ無い。
この間合いでは、彼がその手に殺気を込めて、アーヴィンを貫いたエネルギーを繰り出せば、そこで私は終わり。
動けない。
暴漢の手を受けたときと同じ、死を予感して身体が動かなくなる感覚に、全身が汗ばむ。
そこに、涼風が吹いた。
魔王が飛び退き、私と魔王との間に差し込まれた騎士剣が日の光を浴びて輝く。
私を庇い、毅然と立つ男性の姿。
「ライディール様!」
「イズミ、下がってくれ」
「聖女を守護する、この国最強の騎士。それに、聖者の子孫か。いいね」
ルチフェロは、ライディール様を、そして私の後ろに立つアーヴィンの二人を楽し気に見つめる。
仕込み杖をまさしく杖として身体を支え立っていた賢者が口を開く。
「お前の企みは分かっています、魔王ルチフェロ。500年前、我が祖サーライによって誅されたお前が、その目的を変えたことも······」
「フフっ、もうその時点で間違えてるよ。僕の目的は今も昔も変わらない。それはさておいて、今の僕の狙いは一つ。聖女イズミの心さ」
何か事情を知る者同士の会話。
魔王の狙いは、この世界を陰で満たす事……ではないの!?
単に、聖者を始末すれば、それが即ちこの世界の破滅なのだから、そう言い換えてるだけ?
「私の心を……壊すっていう事?」
恐怖心もあり、好奇心もあり、私の心を狙うと公言した美少年にその真意を問いかける。
彼は「ああ、そう思っちゃうか、そうだよね」と独り言を零し、ウンウンと頷いてから、私を見た。
「違うよ、君の心を僕のものにする」
その目は真剣そのもので、一人の人間が、心の底から私の人生を求めている、そんな生涯一度の場面を想像して、ドキっとする。
「イズミ殿、悪魔の言葉に耳を傾けてはなりません」
賢者からの警告が飛ぶ。
私もそう思う、悪魔は人心を惑わす存在なのだから。
でも、今そこで超絶美少年が私を欲しいって言ってる、完全に耳を塞ぐのは無理ぃ!
「僕は聖者によって敗れた。彼の剣の腕前もそうだったけど、何よりも、人の心の凄さを改めて思い知った。この僕が何をもってしても彼の信念を打ち砕くことはできなかった。全く揺らがなかった。生と死の狭間で生きながらも、生き様と死に様に心を求める境地に至った男によって、僕は敗北した」
生き様と死に様に心を求める境地、それってまるで……。
「僕は悟った。聖者に勝つって事は、人の心に勝つって事だ。この500年考えたよ。どうやったら、何をしたら、人の心に勝ったと言えるのか?」
彼はとても楽し気に、そして得意げに喋る。
その頭の角と、背中の翼が無ければ、子供が得意げに、新しい気付きを大人に話しているようにしか見えないだろう。
人の心に勝つとは……?
私にとって、私の心は敵でもあり味方でもある。だから、心に勝つとは即ち、自分の弱さに負けない事だと思う。間違ったことをせず、正しい事をする。それには強い心が必要。
でも、魔王は私の心に勝つ!と言ってる。
他人の心と戦うとは、心から屈服させること……?
「それって、私の意思を挫く事ではないの……?」
「前の聖者の時にはそれをしようとした。使命感や、義侠心。数々の清らかな願い。それを遂行する意思の源である心の中の聖域を砕き、ねじ伏せようとして、敗れた。だから違う方法を考えた。そして思った。心の中にある聖域……僕がソレになれば、人の心に勝ったと言えるんじゃないかと」
唖然とする。言っている事は分かるのに、意味が分からない。
実際魔王自身も、その方法を具体的には理解していない様子だ。
聖域とは即ち私の心の中にある大事な分の事だろう。
例えば、私の中心にはおじいちゃんの教えがある……と思う。その周りに、現代日本人として刷り込まれた価値観がある。
彼は如何にしてそこに入り込み、私の心の在り方を変えようというのだろうか?
「そして「あの聖星」が僕の新たなる相手として君を選んだ。だから今度の戦いで僕はイズミ、君の心を手に入れる」
その黒紫の魔瞳に射抜かれて、睨み返すことも目を背けることもできない私の中で、心音と共に動揺が大きく膨らんでいく。
私は、ぶっちゃけ心とか強くない。
どうして、聖星が私を選んだのか、全然分からない。
破れかぶれになって「捨て身」になった事はあっても、死ぬのは怖いし、怖いものは怖いし、気持ちいいのは好きだし、淫らのも、好き。
異性に性の対象にされるのも、意地悪な事されるのも、本当は嬉しい。
楽な道、楽しい道があれば絶対そっちを選ぶし、食べたかったら深夜でも甘いものを食べてしまう。
寝なくちゃいけないのにゲームしたり漫画を読んじゃったり動画を見たり。
つまらない映画を見たら、作品名+つまらないで検索して、同じ意見を探しちゃったり。
朝、鏡に映った自分が盛れてないと思っただけで、学校に行きたくなくなったり。
全然聖者なんかじゃない。
だから、魔王なんて圧倒的な存在が私を欲したのなら、それに抗える自信は全くない。
肉体的苦痛、精神的苦痛、大きすぎる快楽、考えられる責め苦の一つにしても、耐えられる気がしない。
私の心に渦巻く恐怖や怯み、自己否定感、微かにある破滅への期待や願望を見透かした美少年がその目を細める。
「どうやって聖女の心を僕のものにしようか、いまからワクワクしてるよ」
「俺がさせない」
ライディール様は静かに、力強く、真っ向から魔王に逆らった。
彼の言葉が波紋となって広がり、私の身体を通り抜ける。
不安が全て消し飛ぶ……とはいかなくても、私の中に暖かな希望の灯が揺らめくのを感じた。
そうだ。
戦う前から負けるなんて、かっこ悪い!
聖星だって、きっと私を守ってくれる。
送り込んだんだから、それくらい責任もってよね!?
「愛の力?それとも誓いの力かな?やってみるといい」
魔王が翼を広げ、彼を中心に旋風が渦巻く。
ちょっと!この暴風で飛ばされて塔から落ちたら死んじゃうじゃないっ!?
慌てて空を探った私の手を、ライディール様が捕まえてくれる。うっ。汗で滑る…っ!
「顔を見て、お話出来てよかったよ。聖女イズミ」
大きな翼が一度羽ばたき、少年の身体は柵を超えて塔の外へと流れる。
「これは僕からの宣戦布告だ。僕の用意した試練を乗り越えてごらん。まずは西へ、次は南へ、そして北。最後はこの中央に戻ってくるんだ」
天使の外見を持つ美少年、魔王ルチフェロは私に向けた右手の人差し指を、クイッと曲げた。
「じゃあ……「いってらっしゃい」。聖女イズミ」
暴風が巻き起こり、魔王は最後に私に悪戯してから姿を消す。
それは魔力を込めて私を壊すようなものではなく、本当に、彼の素としての、ただの子供の、道場にくるくらいの年頃の男の子の指が、優しく陰核をなぞった後に陰裂を割って入ってきたかのような、ピュアなもの。
「ひゃんっ♥」
火照って汗ばんだ腕が、スルッとライディール様の手をすり抜けて。
私は背後から抱き付いてくるような異開門の光に飲まれた。
「えっ」
0
お気に入りに追加
82
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる