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単身会見
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スラム街北
スラムはやっぱりどこも似たような雰囲気で、迷路のように入り組んでいて、じめじめしていて、臭くて汚くて、気が滅入ってくる。
その中でも、犯罪者集団が母体になったとされる北スラム勢力圏は、更にどす黒い澱みが漂う、まさにスラムの最深層に相応しい場所だった。
北スラムと他との境界が、視覚的に、肌感覚的に、なんとなく感じ取れる。
ああ、ここはもう北スラム勢力圏だなって感じて1分もしないうちに……。
「止まれ!」
鋭い声が飛んできて、私は素直に足を止める。
北スラムのチンピラが三人、高所に陣取り、一人が私に矢を向けていて、私はそれに、手の平を肩よりちょっと上の高さまで挙げて答えた。
「何者だ!?」
「……私を、北スラムの王が呼んでるって聞いたから、来たんだけど」
「何!?」
一人が曲刀を構えて降りてくる。じりじりと慎重に間合いを詰める。
ああ、これは確かに、ドニとかジャンなんかの南スラムのチンピラとはレベルが違う。
向けられた曲刀の切っ先で、なぜかおっぱいをつつかれる。
何か入ってるとか疑われた……?
「えーと。そう、バンデットっていう、人相の悪いロングソードを背負った男がね。私にそういったのよ」
「バンデットさんが……?よし、来い」
彼らは私の腰に下がる剣に目を向けた。
「それには触るな」
けっこうキツメに警告したからか、彼らは以後、刀に何かする素振りは無く、私は手を挙げたまま、後ろに回った男達に背中を押されて北スラム街を進み、そして魔物の匂いをちょっとだけ薄めたような異臭漂う魔窟にたどり着く。
男一人が中に入り……。
「おお!?小陰唇ちゃんじゃないの~?」
バンデットが奥から姿を現した。ニヤニヤと意味ありげに笑って、親し気に私の間合いまで踏み込んだ。キモっ。
「……アンタが言ったんでしょ。北スラム王が、私に会いたがってるって」
「あ~!あ~!言った!それで来てくれたんだぁ。小陰唇ちゃん偉いね~!」
小陰唇ちゃん?みたいな感じで顔を見せ合う男達。
「ん?ああ。コイツ、小陰唇デカイのよ」
彼は私の腰に手を回し、グイっと抱き寄せる。
一見ひょろりとした身体なのに、物凄い腕力。大幹を保てずに、片足が浮いて、彼の腕に体重の半分以上をかけた。
バンデットはそのまま私を自分の物のように扱い、スカートを捲り上げて、部下に見せる。
「な?だから小陰唇ちゃん」
「ちょ!!!」
男達が私に触れてソコを押し広げようとしてるのを感じて藻掻き暴れた私を、彼はあっさりと手放した。
「んじゃあ行くかぁ~?ボスんトコ。ついといでよ。あ、お前らは持ち場に戻ってていいぜ~」
バンデットは欠伸をしながら歩き出し、私も彼の後に続く。
私に対して完全に無警戒。
これは、客人扱いという事だろうか。
奥に進むにつれて、魔物のそれが薄まったような異臭が、どんどんと強くなり。
やがて、一つの扉が開け放たれた部屋の前に立った時、それは人の血と汗と、精液の匂いと糞尿臭が混ざったような生臭ささに、死臭が合わさったものだと分かる。
それが漏れ出てくる。その部屋の闇の中から。
「ボス、つれてきたぜ~。例の、チチとケツと態度のデカい女」
何その紹介の仕方。
そもそも私アンタの前でそんなデカい態度してませんけど!?
「入れ」
潰れた喉で搾り出しているかのような、ライオンが人語を無理やり話しているかのような、重たい低音。
命令口調で発せられたそれは、部下の男ではなく、私に向けられたもの。
バンデットは私に道を譲るように一歩下がり、私は従う必要のない命令に従って、その部屋に足を踏み込んだ。
「!!」
そこは、蹂躙の惨劇の渦中。
折り重なるように倒れる、無数の女の人。
「もっとだ。来い」
また、従う必要のない命令に、身体が従う。
一歩、一歩と進むにつれて、闇の中に居る怪物との距離は縮まり、闇に目が慣れ、その全容が足元から明らかになっていく。
見たこともない大きな足、針金のような毛の生えた脛。
鉄槌を思わせるような膝。筋肉がはじけそうにギチギチ煮詰まってる太腿。
「……ぅ」
馬のように巨大なペニス。
血塗られた男根は、毛むくじゃらの下腹の前を股からまっすぐ真上に伸び、臍よりも高い位置にまで到達している。
私の視線に反応して、ビクビク!と蠢いて、ドロッとした何かをその鈴口から流した。
「うぇ」
ちょっと私にはグロすぎて、悪心し、わずかに嘔吐する。
相手は人じゃないのかと不安になってきた頃、濃い体毛に包まれた腹筋、胸筋、丸太のような腕、異常に発達して血管を浮きだたせた男の全身が明かされる。
ベッドの上に座って尚、私を遥かに見下ろす大男がそこにいた。
その首の上には──。
傷だらけのスキンヘッド。
禍々しく燃える紅い目。
折れ曲がったままの鼻。
ちぎれた耳。
神経損傷で、歪んでいる表情。
涎を垂れ流す口角。
「俺がクロードだ」
目を見開いて動けなくなった私を見て、北スラムの王は、大声で笑った。
スラムはやっぱりどこも似たような雰囲気で、迷路のように入り組んでいて、じめじめしていて、臭くて汚くて、気が滅入ってくる。
その中でも、犯罪者集団が母体になったとされる北スラム勢力圏は、更にどす黒い澱みが漂う、まさにスラムの最深層に相応しい場所だった。
北スラムと他との境界が、視覚的に、肌感覚的に、なんとなく感じ取れる。
ああ、ここはもう北スラム勢力圏だなって感じて1分もしないうちに……。
「止まれ!」
鋭い声が飛んできて、私は素直に足を止める。
北スラムのチンピラが三人、高所に陣取り、一人が私に矢を向けていて、私はそれに、手の平を肩よりちょっと上の高さまで挙げて答えた。
「何者だ!?」
「……私を、北スラムの王が呼んでるって聞いたから、来たんだけど」
「何!?」
一人が曲刀を構えて降りてくる。じりじりと慎重に間合いを詰める。
ああ、これは確かに、ドニとかジャンなんかの南スラムのチンピラとはレベルが違う。
向けられた曲刀の切っ先で、なぜかおっぱいをつつかれる。
何か入ってるとか疑われた……?
「えーと。そう、バンデットっていう、人相の悪いロングソードを背負った男がね。私にそういったのよ」
「バンデットさんが……?よし、来い」
彼らは私の腰に下がる剣に目を向けた。
「それには触るな」
けっこうキツメに警告したからか、彼らは以後、刀に何かする素振りは無く、私は手を挙げたまま、後ろに回った男達に背中を押されて北スラム街を進み、そして魔物の匂いをちょっとだけ薄めたような異臭漂う魔窟にたどり着く。
男一人が中に入り……。
「おお!?小陰唇ちゃんじゃないの~?」
バンデットが奥から姿を現した。ニヤニヤと意味ありげに笑って、親し気に私の間合いまで踏み込んだ。キモっ。
「……アンタが言ったんでしょ。北スラム王が、私に会いたがってるって」
「あ~!あ~!言った!それで来てくれたんだぁ。小陰唇ちゃん偉いね~!」
小陰唇ちゃん?みたいな感じで顔を見せ合う男達。
「ん?ああ。コイツ、小陰唇デカイのよ」
彼は私の腰に手を回し、グイっと抱き寄せる。
一見ひょろりとした身体なのに、物凄い腕力。大幹を保てずに、片足が浮いて、彼の腕に体重の半分以上をかけた。
バンデットはそのまま私を自分の物のように扱い、スカートを捲り上げて、部下に見せる。
「な?だから小陰唇ちゃん」
「ちょ!!!」
男達が私に触れてソコを押し広げようとしてるのを感じて藻掻き暴れた私を、彼はあっさりと手放した。
「んじゃあ行くかぁ~?ボスんトコ。ついといでよ。あ、お前らは持ち場に戻ってていいぜ~」
バンデットは欠伸をしながら歩き出し、私も彼の後に続く。
私に対して完全に無警戒。
これは、客人扱いという事だろうか。
奥に進むにつれて、魔物のそれが薄まったような異臭が、どんどんと強くなり。
やがて、一つの扉が開け放たれた部屋の前に立った時、それは人の血と汗と、精液の匂いと糞尿臭が混ざったような生臭ささに、死臭が合わさったものだと分かる。
それが漏れ出てくる。その部屋の闇の中から。
「ボス、つれてきたぜ~。例の、チチとケツと態度のデカい女」
何その紹介の仕方。
そもそも私アンタの前でそんなデカい態度してませんけど!?
「入れ」
潰れた喉で搾り出しているかのような、ライオンが人語を無理やり話しているかのような、重たい低音。
命令口調で発せられたそれは、部下の男ではなく、私に向けられたもの。
バンデットは私に道を譲るように一歩下がり、私は従う必要のない命令に従って、その部屋に足を踏み込んだ。
「!!」
そこは、蹂躙の惨劇の渦中。
折り重なるように倒れる、無数の女の人。
「もっとだ。来い」
また、従う必要のない命令に、身体が従う。
一歩、一歩と進むにつれて、闇の中に居る怪物との距離は縮まり、闇に目が慣れ、その全容が足元から明らかになっていく。
見たこともない大きな足、針金のような毛の生えた脛。
鉄槌を思わせるような膝。筋肉がはじけそうにギチギチ煮詰まってる太腿。
「……ぅ」
馬のように巨大なペニス。
血塗られた男根は、毛むくじゃらの下腹の前を股からまっすぐ真上に伸び、臍よりも高い位置にまで到達している。
私の視線に反応して、ビクビク!と蠢いて、ドロッとした何かをその鈴口から流した。
「うぇ」
ちょっと私にはグロすぎて、悪心し、わずかに嘔吐する。
相手は人じゃないのかと不安になってきた頃、濃い体毛に包まれた腹筋、胸筋、丸太のような腕、異常に発達して血管を浮きだたせた男の全身が明かされる。
ベッドの上に座って尚、私を遥かに見下ろす大男がそこにいた。
その首の上には──。
傷だらけのスキンヘッド。
禍々しく燃える紅い目。
折れ曲がったままの鼻。
ちぎれた耳。
神経損傷で、歪んでいる表情。
涎を垂れ流す口角。
「俺がクロードだ」
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