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ヴィクターの過去
しおりを挟む東都ザクセン 宿屋
「母は南スラムの娼婦でな。親父はどこの誰かもわからん。興味もない。母は俺が5歳の頃、当時の南スラムのボスの愛人になった。その日から、俺の父はボスだ」
ヴィクターは私のベッドに腰を下ろし、下の酒場で購入したワインを飲む。
「あ、うん」
私は裸になって、窓際ギリギリに立たされている。
部屋に入るなり開口一番脱げといわれ、「はぁい!」と返事して、今この状況。酷くない?
「手をどかせ」
「は、はぁい!」
胸と下腹を隠していた両手をどかして、若干もじもじしつつ、手のポジショニングに迷う。
「頭の上」
「はぁい!」
この返事も笑顔で言わされてる。うう。
折角のヴィクターのお話がぜんっぜん耳に入ってこない。
彼は小さく、でも聞こえるように「まったく······」とかボヤいて、またお酒を口に運ぶ。
ねっとりとした間を作ってる。ホント性格悪い······。
「ボスには8人の子がいて、皆俺と同じような境遇だったが、兄達は俺に良くしてくれた。ボスは野心に燃えていて、そして強かった。北のスラム王クロードと、真正面から渡り合えるのはあの人だけだったな。他のスラム地区との勢力争が活発で、何時も死が傍らにある毎日だ。15になるまでに7人の兄が死んだ。こう言っちゃなんだが、それでも楽しかった」
ヴィクターは、目を細めて薄く笑った。
そしてまたワインを飲む。
「その頃になるとボスは若い愛人を見つけ、母を相手にしなくなってな。クロードの奴はそこに付け込んで、若い男を母に宛がい、密通させ、ボスの酒に毒を盛らせた」
彼の母の罪に共感こそしなかったけど、その心の動きを理解できてしまう事が居たたまれなくなり、私はそっと目を伏せた。
「ボスはその毒では死ななかった。だが目をやられ、その日に襲撃があり、最後の兄と一緒に殺された」
ヴィクターは殻になった酒瓶をベッド脇の床に置き、そして天井を見上げて暫くは無言だった。
窓からの夜風が私の髪を揺らし、彼は視線を私に向ける。
「母は俺に弁明した。密通していた男に「南スラムに総力戦を仕掛ける準備が整った、お前らは皆殺しにされる。ボスに毒を飲ませて弱らせたなら、手心を加える事が出来るようになる。お前と、お前の息子の命は保証する。ボスも殺さずに捕えて、その命を助ける事が出来る」と言われたと。俺は母を罵り······そして、その愚かな女は喉を突いて死んだ」
ヴィクターの話は終わった。
彼が母を憎む理由。
嘘が嫌いな理由。
北スラムを敵視する理由。
その全てが、そこにあった。
「ヴィクター······」
掛ける言葉がない。
彼はベッドから起き上がり、私の正面に立つ。
「まあ、そういう事だ」
彼の手が私の髪に触れる。
そして一房を持ち合あげて匂いを嗅いだ。
「聞きたかったことが聞けて、満足したか?」
うう!なんかグサグサくる。
そのまま彼の指が初めて、性的に動いて、私の乳房に触れた。
「んっ……!」
それだけで、身体が熱くなる。
彼の身体が私の方へと傾き、その唇が乳房に優しく落ち、滑って乳首にたどり着く。
その頭を、包むように抱きしめる。
「イズミ!ちょっといいか!!?」
「はぁああい!!」
フェリクスがドアを開く0.2秒前。
私の身体は無意識に動いて、南スラムの王を窓の外へ投げ落としていた。
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