女子高生剣士の私が異世界に転移したら大変なことになった 第一部

瑞樹ハナ

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フェリクスのお兄ちゃん

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「俺の兄ちゃん!」
胸を張ってる同居中少年の後ろに、身長175cmくらいで、がっちりした体格の、人のよさそうな青年が立っていた。
純朴そうな顔を赤く染めながら、目を泳がせ、私の顔と胸と顔と胸とと視線を動かしつつ、金髪頭を掻いてる。
「ど、どうも」
アレ?この人どこかで見たような気もする。でもまあどこにでもある顔と言われれば……。
「フェリクスの、お兄さん?はじめまして。イズミです。弟さんにはお世話になっています」
丁寧にお返事する。実際、フェリクスには凄く助けられている。
「そ、そうです~。たははは。あ、カールマン、です!。その、ちがうんですよ」
彼のテンションはなんだか可笑しく、顔の赤みはガンガン増して危険な感じになってるし、頭を掻いてる手はどんどん早くなり、そのまま皮膚を傷つけて出血し始めそうな勢いだ。
そして何か違うらしい。大丈夫か。ちょっと怖いんですけど。
「昨日、イズミが倒れちゃった後で、あの場所で見つけたんだ!」
「たはははは。そう、俺、その、居たんですよ。あそこに」
なんだか呼吸が合わない漫才師のような兄弟だ。
でも、見た目は……似てる。確かに。
フェリクスはキツネみたいで、お兄さんのカールマンさんは大型犬っぽい顔だけど、共通項はある。
ん?あそこに居た?
「あの、西スラムの闘技場付近に?」
「たはははは、あの、はい。あそこに」
「兄ちゃん。ホラ!言わないと!」
彼はそこで謎のファイティングポーズをとり、シャドーボクシングのような動きをする。その赤面した顔は既に赤黒くなってる。汗も凄い。
何か私に言う事があるらしい。
「……」
第一候補は「弟がお世話になりました」で第二候補は「お金貸してください」とかかな?なんて思いながら、私は彼を見て止まる。
ほんと、そーゆー所すぐ気付いちゃうの、私の良くない所なんだけど、カールマンさん、ピンコ立ちして……る……。
あ、この人もしかして……。
そのシャドーボクシングみたいな動き、控室で見た。
そうだ!どこかで見たと思った。この人あの控室にいたんだ。
という事は、あの闘士控室で、私がマルドゥークにお尻を好き放題されてた時に、後ろから見てた人達の一人……だ。
あの悪魔教バカ司祭の台詞が脳内にまざまざと蘇る。
(今宵の貴女はまさしく聖女です。振り返ってみなさい。今日の生贄となる男達が、貴女の白くて大きすぎる、ちょっと汗ばんで赤みがでてる、奇麗で柔らかなお尻を食い入るように見ています。物欲しそうに見られています。触れようと手を伸ばす者もいます。死の恐怖と絶望に暗く沈んでいたのに、今や勃起している者も数名いるようですよ)
今は大丈夫なのに、私は思わず後ろ手でスカートを抑えた。
そうか、「ちがうんですよ(初めましてじゃないんですよ)」と言っていて、この変な動きで闘士控室に居たことをアピールしていたのだ。
そこはお互いに「初めまして」って事にすればいいでしょうに!
気まずさもあり、恥ずかしさもあり、二人して赤い顔を背け合う。
「兄ちゃん?」
何時まで経っても話を切り出さない異常挙動中の兄を見上げて、弟が眉を顰める。
「兄ちゃん、イズミが奇麗だから緊張してるみたいだ」
フェリクスの必殺技「奇麗だ」攻撃。
でもそれがクリティカルヒットしたのは、私ではなく、兄カールマン。
彼は怖い踊りみたいなシャドーボクシングを続けながら勢いよく鼻血を出した。
「兄ちゃん─────!?イズミごめん!兄ちゃんちょっと変だから!また後で来る!」
兄のコミュニケーション能力の著しい低下により、フェリクス提督は撤退を決断し、尚も怪しい動きを執拗に繰り返してる男性の背中を押しながら退場していった。
「しっかりしてくれよ!俺恥ずかしいよ!」
兄を叱咤する弟の声を聴きながら扉を閉める。
フェリクスごめんなさいっ。
自慢の(?)お兄ちゃんがほぼ不審者になってる、その原因は私に······。
なんとなく、フェリクスのお兄ちゃんで、出身地一の剣士みたいな事を聞いていたから、もうすこし······カッコイイというか。失礼だけど、想像してたのと全然違った。
さっきまでヴィクターとピリピリしたやり取りしていたもんだから、なんかもうカールマンさんがどんなにシリアスに決めても、マジックで太めの眉毛を書いて頑張ってる感を出してるゆるキャラみたいな印象しか持てない······。
でも、優しそうな人だ。
フェリクスがしっかしてるから、お兄ちゃんはちょっと抜けてるくらいが逆に良いのかも。
でもそうか、フェリクスが無事にお兄ちゃんに会えたって事は、これでお別れって事なんだ……。
私は力なく苦笑交じりに、仕方なく微笑む。
そして急にお部屋が広く、寒くなったように感じて、またベッドに倒れ込んだ。

昨日の疲れか、気を失うように眠りに落ちていて、気付いたら窓の外に夕の闇が広がっていた。
身体も拭きたいし、何か食べないと。
「パーテーションも、買いたいな······」
水汲み。買い物。食事。
外に出る理由を無理にでも作り、身を起こす。
コン。コン。
ゆったりとしたリズムで戸がノックされた。
「はーい」
身支度の手を止めて、私はそれに答える。

「東都ザクセン地区治安維持機関総督フェルディナンド将軍旗下、騎士長ライディールです。よろしいでしょうか?」
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