女子高生剣士の私が異世界に転移したら大変なことになった 第一部

瑞樹ハナ

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大事なお話

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異世界生活16日目
東都ザクセン 宿屋

私は今、ベッドに身を横たえている。
部屋にいるのは一人。
昨日は大変な一日だった。
瞼を閉じて、あの淫魔を倒した後に現れた光を克明に思い出す。
……私は今、光りの中から魔物が姿を顕そうとしているのを見ている。
目も眩む光の中で大きな人型の魔物が二体、「光の向こうにある世界」から「こちらの世界」に顕在化した。
「召喚」「転生」なんて言葉が脳裏に浮かぶ。
そんなものは現実にはなかったから、それを見て、私がそう思ったってだけなのだけど……。
こちらの世界に姿を現した大猿と人間を掛け合わせたような大型の獣人は、空をゆっくりと下り、上空の光が消えるのと同時に、重力に従って闘技場の床にドスンと着地していた。
目の奥がズキンとして、遠くからどんどんと近付いてくる耳鳴りと共に、脳裏に過去の情景が浮かぶ。
(ここに倒れていたんです)
散らばった枝。何かに貫かれた枝ぶり。
(どこから落ちてきたって言うのよ……)
(ここに?)
(はい。その、剣を抱きながら、裸で仰向けに……)
(こう!こうだよ!)
閉じていた瞼を開き、宿の天井を見る。
「私は······」
声掛けもなく扉が開き、見知った男がごく当たり前の様に部屋に入ってきた。
この宿、鍵が無いのだ。不用心すぎるし物騒だけど、この世界ではこれが普通らしい。
「······ヴィクター。ノックくらいしてよね」
デリカシーとは無縁のスラムキングに小言を言う。
「闘技の後に話を聞くと言っただろう」
ノックうんぬんは完全に無視か······。
「そっか、そうだね。あのあと大変だった?」
「中央の騎士が2人もいたからな、何も問題はなかった。闘技場はぶっ壊されて、マルドゥークの懐には大損害だっただろうが」
「いい気味」
私は目を細めて笑う。あーほんといい気味。ケラケラケラ。
光りから出てきた大型獣人2体が闘技場に降り立った後のこと。
2連戦となった私は、フェリクスがまだ闘技場内にいると思い込んで気力を絞り出し、1体を速攻で刻み屠った。
もう1体は、ライディール様とその部下が相手取っていたので、そのまま大混乱の客席を走り、「なんということでしょう」とか言って頭を抱えていたマルドゥークを捕まえて、若干脈略無くビンタして、フェリクスの行方を尋ね、ズレたメガネをクイっと直しながら「そんなのしりませんよ?」と答えたうすらバカの股間を蹴り上げた後、踏みつけて、捜索の手を広げ······闘技場の外で騎士に保護されていたフェリクスを見つけた所で、緊張の糸が切れて、そのまま倒れ込んでしまっていたのだ。
「それで、何の話だ?」
ヴィクターは部屋を横断して、窓際の椅子に腰を下ろした。
「あの時は、私は負けちゃうけど、貴方の立場は大丈夫なのかって聞こうと思ってたけど、少し違う話をするね」
「違う話?」
「アナタに散々に利用されたことに、気付いたからね」
ヴィクターは珍しく驚きの表情を浮かべた。
視線が交わる。
しかし特に反論はしてこない。
まだ付き合いは浅いけど、恐らく彼は自分の悪事を言い当てられたのなら、それを誤魔化そうとはしないで素直に認める人だ。そんな気がする。
良い意味でプライドが高いのだ。
「異存があれば口を挟んで」
「······わかった」
彼はいつものポーカーフェイスに戻った。

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