女子高生剣士の私が異世界に転移したら大変なことになった 第一部

瑞樹ハナ

文字の大きさ
上 下
36 / 66

幕間 騎士長ライディールの回想

しおりを挟む
西スラム闘技場 客席

「なんだいこれは」
騎士長は、闘技場内全体から一斉に湧き上がった「殺せ」と「犯せ」の大合唱に、うんざりとした顔を見せた。
「だから申し上げたのです。ライディール様が足を運ぶ様な所ではありませんと」
部下からの叱責も甘んじて受けるほかはない。
「とうぞ政庁にお戻りください。この場は私が、責任を持って……」
副官ゼトの進言を掻き消すように、観衆のどよめきと悲鳴が場内を揺るがす。
「そうさせてもらおうかな。治安維持のために、ここの連中を全員逃さず捕らえたい気分だよ」
彼は客席を立ち、合わせてゼトも立ち上がる。
その時、闘技場内に女性闘士が姿を現した。
「あれは……」
ライディールはその姿に見覚えがあり、ほんの数日前に入都検問管理官によって被虐されていた娘だと即座に気付く。
恐らく、貧しさから、こんな所で……。
このザクセン地方を守護し、その治安を守る使命を帯びた騎士は、自責の念に駆られる光景を目にして事実を重く受け止め、副官は上官の表情を見て、闘技場の女に気付く。
「······彼女を二度見ました。一度目は西大門兵詰所の前でライディール様がお助けになっていた所、二度目は先日、商用大通りでご挨拶を。不憫ですが、この前座試合では死者は出さないとの事ですから······」
二人は座席を離れて階段を上り、この場に似つかわしくない子供が駆け降りてきたのとすれ違う。
「イズミ!!」
少年は、客席の縁に掴まり、身を乗り出して叫んだ。
その姿にも見覚えがあった。
ここから先は子供が見ていいものではない。そしてそれを彼女も望まないだろう。
闘技とは名ばかりの見世物の開始を告げる笛が鳴る。
「ゼト、あの子を保護してくれ」
「畏まりました」
見知った娘が生贄にされる、胸のムカつく残酷ショー。
このまま見殺しにする自分も、同罪と言えるだろう。
「な、なんだよ!イズミがいるんだよ!」
暴れる少年を抱えたゼトが出入り口に向かう。
無力感に俯いていたライディールは、客席から巻き起こった二度目のどよめきに顔をあげ、娘が迫りくる触腕を流麗な剣技で切り落とす場面を目撃した。
「なに!?」
女剣士が見せた剣捌きは、自分の知る「剣」とは根本から異なっていた。
人体が両の腕に敵を切り裂くための剣を持ち、それを振るって敵を倒す行為自体は同一だ。
それが、どうしてこうも異なって見えるのか。
足さばきが、体重の移動が、関節の連動と使い方が、剣への力の乗せ方が、剣そのものの構造が······そんな細かな差異だけではない。
言うなれば、人体そのものの捉え方、斬ると言う行為への解釈が異なるのだ。
そして戦いの末に、女剣士の剣はいとも容易く魔物を十字に切り裂いた。
「あの魔物の表層は、柔く強靭で、刃を弾くはずなのに······」
男児の身柄を外にいる騎士に預けて戻ったゼトが唖然と言葉を漏らす。
「彼女だったのか」
聖者かどうかはわからないが、あの森で獣人を屠ったのは彼女で間違いない。
「ゼト、あの娘を······」
不意に視界が白じみ、この現象を知っている騎士長とその副官は直ぐに上空を見上げる。
そしてライディールは叫んだ。
「異開門だ!皆ここから逃げろ!」
しかし、これを演出だと思っているのか、客席はざわめきつつも動かない。
無理もない。
この世に魔物が生まれる根本の仕組みであるこの「現象」は、秘匿され続けているのだから。
「ゼト!主催者に剣を突きつけても良い!皆を避難させろ!」
「はっ!直ちに!」
東地区において最強とされる騎士は剣を抜き闘技場に飛び降り、彼に続く腕を持つと称される若き騎士は、主催者席へと走った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

処理中です...