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皆の前で、あれをもう一度
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東都ザクセン 商用大通り
心身ともにボッロボロにされた私は、スラムに続く横道から這い出して、大通りに戻ってきた。
冷静になってよぉ~く考えると、明日の試合に負けたところで、結局ザクセンには居られなくなるような気がしなくもない。
もちろん、スラムの闘技場なんて見に来るのは全人口の0.1%どころか0.01%にも満たないのだから、試合の後も平気な顔して、血の涙を流しながら人生を謳歌すればいいんだけど。
宿に戻ると、そこに不安顔のフェリクスがいた。
「遅かったじゃんよ!」
これは、私があのまま戻らないのかもと心配していたに違いない。
ああそうだ、この子の為にも、私はザクセンに留まるんだ。
「ごめんごめんっ。そうだ?ご飯まだでしょう?」
その後、二人で酒場に降りて、気持ち豪華目な夕食をとった。
「お兄さんは見つかったの?」
「今日は北門の方まで歩いてきたけど、なんにも」
「何してる人か聞いてもいい?」
「剣士さ。兄ちゃんは村で一番強かったから、それで仕官するっていってた」
「仕官か······」
この世界の仕組みはわからないけど、貴族社会みたいだし、幹部になるには実力以上に家柄が必要なのではないだろうか。どこかのドラ息子二人の顔が思い出されてご飯が途端に美味しくなくなる。
フェリクスの兄はいわばノンキャリ。どこかに入隊して行けるところまで行く人生になるのだろう。
もう既にそこそこ立派になっていて、再開したフェリクスが飛び跳ねて喜んで、兄を自慢してきて······。
そんな光景を思い浮かべた。
そしたらもう、私は居なくても大丈夫。
睫毛を伏せると、瞼の裏に、ウィルシェとクルシユの笑顔が浮かぶ。
「私ね、ザクセンからは逃げないから」
「ほんとか?」
少年の顔が少し明るくなる。やっぱり心配してたか。
「当然」
その後は、お酒なんかも頼んで盛り上がって、フェリクスは潰れてしまい、彼を負ぶってお部屋に戻った。
男の子を寝かしつけて、自分もベッドに倒れこむ。
消耗が激しく、気絶するように意識が遠のいていく······。
明日……私はアレを、大勢の観客の前で、もう一度…………。
異世界生活15日目
目覚めは最悪。
フェリクスに水場に走ってもらって、手桶二杯の水をお取り寄せ。
新しく買った水盥を部屋の隅に置いて、その上に立ち、シースポンジと石鹸で、全身をしっかり磨き上げた。
もしかしたらもの凄く大勢の人に見られちゃうかもしれない身体を念入りに、念入りに……。
男の子は櫛を片手にめっちゃ傍に立って、出番を待ってる。
私が恥ずかしがってるのは分かってると思うんだけどな……。
チラリと彼を見る。その表情から、本当に私の事を奇麗だと思ってくれているのが伝わってくる。
なんとなく、彼が私の肌のとこどころにある赤みを見ているような気がして、いつもよりも身を縮めてしゃがみこんで、髪を梳いてとお願いした。
身支度を終えれば、それぞれ別行動。
「じゃあ!兄ちゃん見つけてくるぜ!」
兄を探しに出かける彼を見送ってから、私も刀を腰に差した。
向かうはスラム西地区──。
心身ともにボッロボロにされた私は、スラムに続く横道から這い出して、大通りに戻ってきた。
冷静になってよぉ~く考えると、明日の試合に負けたところで、結局ザクセンには居られなくなるような気がしなくもない。
もちろん、スラムの闘技場なんて見に来るのは全人口の0.1%どころか0.01%にも満たないのだから、試合の後も平気な顔して、血の涙を流しながら人生を謳歌すればいいんだけど。
宿に戻ると、そこに不安顔のフェリクスがいた。
「遅かったじゃんよ!」
これは、私があのまま戻らないのかもと心配していたに違いない。
ああそうだ、この子の為にも、私はザクセンに留まるんだ。
「ごめんごめんっ。そうだ?ご飯まだでしょう?」
その後、二人で酒場に降りて、気持ち豪華目な夕食をとった。
「お兄さんは見つかったの?」
「今日は北門の方まで歩いてきたけど、なんにも」
「何してる人か聞いてもいい?」
「剣士さ。兄ちゃんは村で一番強かったから、それで仕官するっていってた」
「仕官か······」
この世界の仕組みはわからないけど、貴族社会みたいだし、幹部になるには実力以上に家柄が必要なのではないだろうか。どこかのドラ息子二人の顔が思い出されてご飯が途端に美味しくなくなる。
フェリクスの兄はいわばノンキャリ。どこかに入隊して行けるところまで行く人生になるのだろう。
もう既にそこそこ立派になっていて、再開したフェリクスが飛び跳ねて喜んで、兄を自慢してきて······。
そんな光景を思い浮かべた。
そしたらもう、私は居なくても大丈夫。
睫毛を伏せると、瞼の裏に、ウィルシェとクルシユの笑顔が浮かぶ。
「私ね、ザクセンからは逃げないから」
「ほんとか?」
少年の顔が少し明るくなる。やっぱり心配してたか。
「当然」
その後は、お酒なんかも頼んで盛り上がって、フェリクスは潰れてしまい、彼を負ぶってお部屋に戻った。
男の子を寝かしつけて、自分もベッドに倒れこむ。
消耗が激しく、気絶するように意識が遠のいていく······。
明日……私はアレを、大勢の観客の前で、もう一度…………。
異世界生活15日目
目覚めは最悪。
フェリクスに水場に走ってもらって、手桶二杯の水をお取り寄せ。
新しく買った水盥を部屋の隅に置いて、その上に立ち、シースポンジと石鹸で、全身をしっかり磨き上げた。
もしかしたらもの凄く大勢の人に見られちゃうかもしれない身体を念入りに、念入りに……。
男の子は櫛を片手にめっちゃ傍に立って、出番を待ってる。
私が恥ずかしがってるのは分かってると思うんだけどな……。
チラリと彼を見る。その表情から、本当に私の事を奇麗だと思ってくれているのが伝わってくる。
なんとなく、彼が私の肌のとこどころにある赤みを見ているような気がして、いつもよりも身を縮めてしゃがみこんで、髪を梳いてとお願いした。
身支度を終えれば、それぞれ別行動。
「じゃあ!兄ちゃん見つけてくるぜ!」
兄を探しに出かける彼を見送ってから、私も刀を腰に差した。
向かうはスラム西地区──。
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