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怒りの矛先

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同時刻
ザクセンの宿──。

「イズミおせーな。やっぱアレかな。客足とまんねーのかな?」
フェリクスは椅子を窓辺に寄せて座り、窓枠に顎を載せ、つまらなそうに街を見る。
「ん~なんか今日暑いな」
その手には、露店から盗んだ木製の櫛を持っていた。



場所は戻り
スラム南部 アジト──。

連れてこられた少年は、フェリクスとは別人だった。
駆け寄って抱きしめて、初めてそれに気付く。
「あのね!!アンタ達のシマでよそ者が仕事したからって、これは酷いでしょうが!!!」
何となくボスの言葉に慰められたのと、予想外の事態のおかげで少しだけ立ち直った私は、大声で彼を非難していた。
人違いだったとはいえ、放っておけない。
私の交渉の結果、男の子は治療を受けることになったけど、それだけでは済ませられない。
ボスは私の前でベッドに腰をおろしてる。
「示しってのは大事なものだ。特に俺らみたいなならず者集団にとっては命と言っていい」
「新選組の鬼副長かアンタは!」
ちなみに私、土方歳三超好き……。
「いい?こんなにするくらいなら、この子を味方にして、スリが得意だというのなら、働いてもらえばいいじゃないの」
「簡単にいってくれるなよ。それくらいの事は考えてるさ。だが、そうやって見逃し続けて軽く見られた結果に生まれる損害が、見逃した後に入ってくる実利を上回るんだよ」
なにこの不良なんだけど勉強はできるみたいなヤツ……ちょっとイケメンだし……。
「あ、そうだ」
「ん?」
「レディの前では服をきなさい」
「いや。このままでいい」
レディって誰の事だ?って顔したのは見なかったことにしておく。
「私がやだ」
「あのな、俺がお前の腕を尊敬してるからって、なんでもいう事聞くと思うなよ?」
ヤダ……私なんか尊敬されてる!?
そっちは良くても、こっちは眼福、じゃなかった目ざわりっていうか、なんか見ちゃうんだってば。まあいいか、もう帰るし。
「そうだ。じゃあよそ者はいいけど、もう貴方の手下になってる子達には手厚くしなさいよ。そっちの方が組織が強くなれるでしょ」
先ほどの浮浪児達の姿を思い描いて提案する。
「それも分かってるさ。だが、俺達にはじっくり戦力を育てる余裕はない。俺達はまだそんな組織じゃない。使える奴に富を集中させて少数精鋭であたらないと、他所とは張り合えん」
うう、なんか私が奇麗事だけいってる馬鹿みたいだ。
フェリクスにも論破されるし、実際そうなんだろうけど。
「じゃあ、帰る。お邪魔様でしたっ!」
「ドニ、ジャン、送ってやれ。フェリクスって奴が見つかったら教えてやるよ」
「あ」
歩き出して数歩、私は足を止めて振り返った。
「私はイズミ」
ボスは腕を組んでニヤリと笑った。
「俺はヴィクター。じゃあな、イズミ」

すっかり日の暮れた大通りに戻ると、なんだか異世界の中の更なる異世界に潜ってきていたかのような、不思議な感覚に襲われた。
非日常の中の非日常。
振り向いたら、今通ってきた横道が消えて無くなっているんじゃないかと思えて、そっと振り返ってしまう。
勿論、そこには奥の闇へと続く道があった。
ふーっと深呼吸をする。

その後は、フェリクスの姿を探しながら、くたくたになるまで歩き回った。
本当は色々と買い物したかったし、石鹸も見つけたけど、今はもう何よりもあの子が心配で、物欲も食欲もわかない。
もしかしたら宿に戻っているかも、と考えて一旦部屋に走り戻る。
これでもしあの子が帰ってきてなかったら……まあそれはお兄ちゃんと再会できた可能性もあって、必ずしも悪い事ではないのかもしれないけど。
部屋の前に立つ。
耳をそばだてるけど、何も聞こえない。
意を決してドアノブに手を掛ける。
「フェリクス……?」
恐る恐る扉を開けると、そこには……。
金の髪、小麦色の肌、猫を思わせるようなしなやかな、小学三年、四年生くらいの、全裸の男の子。
髪の毛からつま先まで、間違いなくフェリクス。
彼の股間には、もちろんそれなりのソレ。
思わず私の視線が内に寄って、「ゾウさん」に釘付けになる。
「お、イズミ。どうだった?客とった?」
男の子は無垢なちんちんをプラプラさせながらめっちゃ嬉しそうに駆け寄ってきた。
もー!なんなん!?
この世界の男子は────!?
ヴィクターのソレを無理やりにでも想起させられて、悶々とさせられつつ、彼を捕まえて猫の子に服を着せるみたいにズボンを履かせる。
途中で何度か彼のこどもちんちんに「不可抗力(ここ超大事)」で触れて、その度に私だけ余計な妄想させられて、ものすっっごく疲れた。
「お家ではちゃんと服をきなさいっ!変な大人になっちゃうから!」
「はーい。でもよ、なんか暑かったんだよ」
「兎に角、もうダメ」
イマイチ納得してなくて、なんかブツブツ文句言ってる男の子を見つめる。
でも、無事でよかった。
今日の疲労が一気に私に襲い掛かってきて、フェリクスがなんか「今日の稼ぎがどうのこうの」言ってるのを聞きながら、私はベッドに倒れこんだ。

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