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踏み込んだ先で

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スラム街南

脇道の先は、坂あり階段あり行き止まりあり、思ったよりも複雑に入り組んでいて、無計画に行き当たりばったりでの増築を繰り返してきた結果だと思われる、相当にゴチャッとしているものだった。
最初から迷宮をつくるつもりだったとしても、ここまで複雑にはならないのではないかと思う。
大通りを少し外れただけなのに、薄暗い、如何にもなスラム感が漂い、石床がぬめりを持つほどの謎の湿気に満ち、所々に、血痕や吐しゃ物や排泄物等の、人体由来の液が散在している。
時には蹲って動けなくなっている人が、唸りとも呻きとも、すすり泣きとも言えない声を発している。
そんな中の一人が私を見つけ、伽藍洞のような大きく見開いた眼をした後、震える手を伸ばしてくる。
害そうとしてるのか縋ろうとしてるのかさえ、まったくわからない。
これが豊かさの裏で、人の悪意が容作った世界である事を感じさせた。
「そこの女……」
後方からの掠れた声に振り返る。
そこには、都会の掃き溜めで生活してる故か、質素な寒村の民達よりも薄汚れた身なりの男の姿があり、彼の手に武器はなく、腰にはボロボロの鉈が掛かっていた。
横道に伏せていて、獲物を見かけて蜘蛛のように這い出てきたのでしょう。
私が足を止めたのを合図に、周囲四箇所から、男の仲間が一人、また一人と姿を現す。
「命までは取らない……持ち物、身に付けているもの全部置いていけ……」
相手の顔を見ると、髪はボサボサで、顔半面にはアザのような紫の斑紋があり、片目が腫れて塞がっていて、前歯の数本が抜けてる。
体を見れば、酷く痩せていて、身体のあちこちに大小様々な傷や怪我があり、それがちゃんと治癒しないでぶり返したり、感染したりを繰り返し続けて木皮のような皮膚となっている。
彼はスラムの薄暗さも相まって、一見して老人のようにもみえるけど、多分それよりも全然若いに違いない。
もしかしたら、私と同じくらいか、それ以下か。
だとしたら、どんなにひどい状況に身を置いてるのか。
フェリクスみたいな、単純な善悪の概念に寄らない心の綺麗な子に出会ったためか、彼らに対しても、恐怖や嫌悪とは違うものを感じてしまう。
彼らは悪ではない。
生きるために現実的になり、弱者として自分よりも弱いと見たものから物を奪おうとしてるだけに過ぎない。
ああ、これが罪を憎んで人を憎まずっていうヤツなのかも。
恐怖に囚われていたなら、良し悪しは別に、私はただ自分が助かるために行動し、彼らを傷つけていただろう。
でも、私自身にすこし迷いがあり、今はもっと平和的な解決がないかと思案している。
だから彼に向って笑顔を見せた。
「お??」
怪訝な顔をした男に、無防備に、親しげに、歩み寄る。
「ええと、人を探してるんだけど。身長はコレくらいで、金の髪で、小麦色の肌のキツネみたいな感じの男の子。見かけませんでしたか?」
掌を下向けて、フェリクスの頭くらいの高さを示す。
彼は唖然として私の顔を見て、それからおっぱいを見る。なるほどおっぱいに興味がありますか。
「な、なんだお前……馬鹿か……?聞こえ……なかったのか?」
「えーと、なんだっけ。命は取らないから………おっぱい触らせて?みたいな話だっけ?」
触る?なんて言いつつ、彼の虚をついて簡単に間合いに入った。
男はやや混乱しつつ、私の顔と胸を交互に見てから、素直にそーっとした動作で胸に手を伸ばした。
それは予測の通りの動きで、本当はその手首を手繰って、極めて固める。そんな流れを思い描いていたのに、私は過酷な現実にボロボロになるまで打ち据えられている彼を間近で、尚も害することを躊躇した。
その間に、彼の手が遠慮がちに、下から支え持ち上げ、その重さを測るように乳房に触れる。
そしてやがて夢中になって、無言のまま鼻息強めに揉みしだき出した。
あんまり熱が入ってるもんだから、私もそれにあてられて、すこしだけ汗ばんで息が弾む。
ここはスラムで、相手は浮浪者で、後ろにはその仲間もいる。
怖くないはずがない状況なんだけど、怖くない。
私の中の何かが、この世界にきて麻痺してしまっているのを感じる。
吐息を震わせつつ、ちらっと視線を落としたら、彼の腰に巻かれた垂れ布から、反り返ったソレがこぼれ出ていた。
ソレだけは、ハッキリと、明確に、若々しくて、真っ赤に艶めいていた。
や、やっぱり子供じゃない────!!

え?なんでそんな事がわかるのかって?
……私は以前に、岡崎先輩の、ソレを見たことがある。
中学二年生の夏。
あの日私は、岡崎先輩の家に忘れ物を届けに行った。
それは前日の稽古の時のもの。なんだっけ、巾着袋だったかな……。
中身は単語帳みたいな、中学三年生になった岡崎先輩の受験グッズだったと思う。
次の稽古日は一週間後で、その前に届けてあげないとって思ったんだから、確かそうだった。
小学生の時は結構頻繁に先輩の部屋に行き、一緒に遊んでいたので、岡崎のお母さんはフリーパスで私を通してくれた。
階段を上り、私は奴を驚かせてやろうっていう、罪のない悪戯心で扉をそっと開けた。

この話……続ける?

岡崎先輩は、椅子に座っていて。その耳にはヘッドホン。
音楽に合わせて体を動かしてるにしては、少し奇妙で、フーフーと鼻息荒く。
私はもうその時、それがなんであるか薄々わかったんだけど。
人としてごめんなさいだけど。
そっと背後に近寄ってしまった。
机の上のパソコンのディスプレイには、不適切な洋物の動画が再生されていて。
彼はズボンとパンツを太腿半ばくらいまで下げていて。
真っ赤になった「象さんのお鼻」を右腕?左腕?で握りしめて必死に扱いてた。
私が声を上げてしまって彼にバレて、彼はその瞬間になんか高みに到達してて。
まあそこからは……その、地獄のようなやり取りがあって。
先輩は道場通いを休止して、お受験に邁進し、進学した先の高校で剣道部に入った。
その後、おじいちゃんが亡くなったのを知って、また顔をだしてくれるように……。
話は長くなったけど、つまり、目に焼き付いてしまっている岡崎先輩(中学三年生)のソレと完全に一致って感じなんです!
はい!この話はここまで!
そんなんじゃわからないだろう!とか、実はもっと別のサンプルもあるだろう!みたいな異存は受け付けておりません!

回想してる間に、私は彼らに取り囲まれ、浮浪児サークルの姫状態になってる。
あれ?私どうしたいんだっけ?この子たちに何がしてあげたいんだっけ??なんかもうわかんない!!
直に触りたがった彼らが、襟や袖から手をねじ込んだり、ワンピをまくり上げてくる。
結果的に、全部まくり上げられて、なんでか私が服が落ちないように、顎と首で挟んでそれを維持することになる。
この世界に来てから13日。
その13日間で、私の裸を見た男子は、クルシュ、ウィルシェ、カルノヴァ、検問の3馬鹿、ライディール様、フェリクス。そして今、浮浪児5人で、計13人。驚異の日打率100%。
あ、宿の主人加えたら100%超えてる。

ねぇ知ってる?
南アフリカの首都のヨハネスブルグって処、中心駅から半径200mは強盗にあう確率が150%なんだって。これ一度襲われてまた教われる確率が50%って意味らしいです。

表通りじゃないにせよ、路上で裸にされて、執拗におっぱいだけ求められて、涙がでて胸いっぱいだし、お股が濡れ出して膝はもうガックガクの大惨事世界大戦。
「あっ。順番!んっ。一人ずつ!私のおっぱいは二つしかないんだから!」
思わず泣きが入る私。
「それなら二人ずつでいいはずだ!」
う。算数できる奴がいる。
「んっ。じゃあ、二人ず······」
「お前ら、何してやがるんだ?あ?」
一際ガラの悪い声が上方から響いた。
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